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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第55話:旅立ちの祝杯と、鏡の向こう側

屋敷の裏庭に、

 大きな焚き火が赤々と燃えている。

 

 今夜は、マツシタ塾の

 本当の意味での「卒業式」だった。


 テーブルには、

 ニナが腕によりをかけた

 ご馳走が並んでいる。

 

 でも、それ以上に子供たちを喜ばせたのは

 自分たちが稼いだ金で買った

「自分たちの肉」だった。


「オーナー。

 僕たち、今日一日で、

 こんなに稼げたよ」


 カイが、

 ズッシリと重い袋を俺の前に置いた。

 

「……ああ。

 でも、これは俺のじゃない。

 お前たちが、自分たちの時間を売って

 知恵を絞って手に入れた、

 お前たちの命の一部だ」


 俺は、その袋を開けずに

 カイの手に押し戻した。


「これをどう使うか、

 もう自分で考えられるだろ?」


 カイは、

 ボロボロになった自分の手を見つめ、

 それから仲間たちを見た。

 

「……うん。

 みんなで分けて、

 新しい靴と、石盤を買うよ。

 もっと、勉強したいから」


 その言葉を聞いたニナが、

 こらえきれずに顔を覆って泣き出した。

 

 それは、もう贖罪の涙じゃなかった。

 一人の教育者として、

 母親代わりとしての誇らしい涙だった。


   ◇


 宴が盛り上がっている最中、

 門を叩く音がした。

 

 現れたのは、

 昼間の屋台で磯焼きを食べた客の一人。

 街で一番の規模を誇る

 「ガレノス商会」の主だった。


「マツシタ殿。夜分に失礼する。

 ……あの子たちの働き、

 そして、計算の速さに驚かされた」


 商会の主は、焚き火のそばで

 行儀よく座っている子供たちを眺め、

 静かに頭を下げた。


「我が商会は、種族を問わず

 『有能な者』を求めている。

 どうだろうか、彼らのうち二人……

 いや、適性がある全員を、

 正式な見習いとして迎え入れたい」


 庭が、静まり返る。

 

 子供たちは、俺の顔を見た。

 俺が「行け」と言えば、彼らは従う。

 だが、それは俺のやり方じゃない。


「選ぶのは、お前たちだ。

 お前たちの人生は、誰にも渡すな。

 ……俺にも、だぞ」


 俺は、彼らの背中を押した。

 

 カイとミーナが、一歩前に出る。

 その瞳は、もうスラムの怯えた

 浮浪児のものではなかった。


「……お願いします。マツシタ家の名に

 恥じない商人になってみせます!」


 二人の宣言に、

 商会の主は満足げに頷き、

 俺に分厚い封筒……

 正式な「紹介料」を手渡した。

 

「人材派遣」第一号の成立。

 ボブ爺の遺産からすれば

 端金かもしれない。

 

 でも、俺はこの封筒を、

 どんな魔法の道具よりも

 大切に金庫へ収めるつもりだった。


   ◇


 子供たちが去り、静かになったテラス。

 

 俺は一人、

 飲み残しの果実水を傾けていた。


「……ブンペイ。いい顔してるわよ」


 シキが後ろから首に腕を回してくる。

 

「そうか?

 ……まあ、お節介を焼いて

 よかったなとは思うけど」


「お節介、じゃないにゃ」


 ミケが反対側の隣に座り、

 俺の肩に頭を乗せた。


「ブンペイは、あの子たちに

 『鏡』を渡したんだにゃ。

 世界が自分をどう見るかじゃなく、

 自分が自分をどう見るかっていう、

 魔法の鏡にゃ」


 鏡、か。

 

 俺がこの世界で、

 ずっと自分に言い聞かせてきた言葉。

 それを、あの子たちも

 持って行ってくれたのなら。

 

「……よし、明日は

 久しぶりにゆっくり寝るぞ」


「あら、そうはいかないわよ?」


 フィリアが新しい帳簿を持って

 目の前に座る。


「今回の件で、『マツシタ塾』の評判が

 街中に広まってしまったわ。

 明日には、子供を預けたい親や、

 有能な人材を求める商店が

 行列を作るでしょうね」


「……はあ!?

 俺、のんびりしたいって言っただろ!」


 俺の悲鳴に、

 夜の屋敷は

 温かい笑い声に包まれた。

 

 マツシタ家の物語は、

 まだまだ終わる気配を見せない。

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