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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第53話:磯の香りと、マツシタ塾の熱い一日

ガンディアの朝は早い。

 まだ太陽が昇りきらないうちに、

 屋敷の裏門から、

 昨夜の子供たちが姿を現した。

 

 昨日の今日だ。

 

 彼らの瞳には、まだ

 「本当に飯が食えるのか?」という

 不信感と怯えが混ざっている。

 

 だが、俺はあえて

 彼らを歓迎するような言葉はかけなかった。

 

「……よし、全員揃ったな。

 じゃあ、まずは『仕入れ』に行くぞ。

 金はないけど、知恵はある。

 海へ行くから、ついてこい」


 俺の号令に、

 子供たちは顔を見合わせながらも、

 ぞろぞろと俺の後ろをついてくる。

 

 向かったのは、港の喧騒から離れた

 険しい岩場が続く海岸線だ。

 

 潮が引いたばかりのそこには、

 あちこちに小さな潮溜まりができていた。


「いいか、よく見ろ。

 街の商人が見向きもしないこの場所も、

 見方を変えれば宝の山なんだ」


 俺はズボンを膝まで捲り上げ、

 冷たい海水の中に足を踏み入れた。

 

「ミケ、例のヤツ、見つけたか?」


「にゃ。あっちの岩陰に、

 大きなタコがいるにゃ。

 それと、この黒い草もたくさんあるにゃ」


 ミケが指差したのは、

 波に揺れる大量の昆布と、

 岩にへばりついた小さな貝たちだ。


「よし、あのアイスのカップを持て。

 それとこの網だ。

 貝を拾え、昆布をむしれ!

 タコを捕まえたヤツには、

 今夜の飯に特別なおまけを付けてやる!」


 子供たちは最初、戸惑っていたが、

 俺が泥まみれになって

 タコと格闘する姿を見て、

 一人、また一人と海へ飛び込んでいった。

 

 人間の少年が滑って転び、

 獣人の少女がそれを笑いながら助ける。

 「いたぞ!」「こっちにもある!」

 泥だらけの笑顔。

 施しを待っていた昨夜の彼らとは、

 顔つきが少しずつ変わり始めていた。


   ◇


 昼過ぎ。

 大量の磯の幸を抱えて屋敷に戻ると、

 裏庭には特製の「屋外調理場」が

 セッティングされていた。


「遅かったわね、ブンペイ。

 教材の準備は完璧よ」


 フィリアが、

 現地の粉と水を計量しながら

 涼しい顔で待っていた。

 

 俺は子供たちを火の前に集める。


「いいか。

 今日教えるのは二つだ。

 一つ目は、この『昆布』。

 これを水で煮るだけで、

 魔法のようなスープができる。

 ……出汁だしっていうんだ」


 大きな鍋で昆布を煮出す。

 次第に広がる、濃厚で、

 どこか懐かしい磯の香り。

 子供たちが一斉に鼻をひくつかせた。


「この出汁で、さっきの貝と、

 山で拾ってきた野草を

 米と一緒に炊き込む。

 醤油……はないから、

 この街の塩と、香草で味を整える」


 蓋をした鍋から、

 香ばしい匂いが立ち上り始める。

 

「二つ目は、この『粉』だ。

 出汁で溶いた粉に、

 刻んだタコと、適当な野菜を混ぜる。

 それを、熱した鉄板で焼くんだ」


 俺は大きな平鉄板に油を引き、

 生地を流し込む。

 ジューッ、という心地よい音。

 地球の「お好み焼き」を、

 この世界の食材で再現した

 『ガンディア風・磯焼き』だ。


「ソースはないけど、

 出汁を煮詰めた特製のタレを塗る。

 ……さあ、食べてみろ」


 出来上がった炊き込みご飯の

 小さなおにぎりと、

 アツアツの磯焼きを、

 子供たちに配る。


「あちっ……う、美味い!」

「なにこれ、ふわふわしてる!」

「おにぎり……口の中で味が広がる……!」


 子供たちは夢中で頬張った。

 自分たちが泥まみれで

 拾ってきたものが、

 こんなにも美味しい「料理」に

 生まれ変わる。

 その驚きが、

 彼らの心を震わせていた。


「美味しいだろ?

 でも、これで終わりじゃない。

 明日からは、これを自分たちで作って、

 自分たちで売るんだ」


 俺は、おにぎりを頬張る

 一人の少年の目を見て言った。


「元手はタダだ。

 必要なのは、お前たちの手間と知恵だけ。

 街の人に『美味しい』って言わせて、

 その対価として金をもらう。

 ……それが、商売だ」


 シキが、

 黒板代わりに用意した板に

 「原価」と「利益」の文字を書き込む。


「さて、お腹が膨れたら次は座学よ。

 マツシタ家の商い人として、

 計算ができないヤツには、

 明日の屋台は任せないわよ?」


 シキの不敵な笑みに、

 子供たちは背筋を伸ばした。

 

 さっきまで「施し」を待っていた瞳は、

 もうそこにはない。

 

 ミケが屋根の上から、

 「にゃー。みんな気合入ってるにゃ」と

 楽しそうに尻尾を振っている。

 

 俺は、ヘタレなりに汗を拭い、

 そんな賑やかな裏庭を眺めていた。

 

 マツシタ塾、初日。

 磯の香りに包まれたこの場所から、

 小さな革命が始まろうとしていた。

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