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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第48話:二輪の花と、夜の散歩道

夕食の後片付けも終わり、

 マツシタ家のリビングに静寂が戻る。

 俺はテラスで夜風に当たっていた。


「……オーナー」

「少々、お耳に入れておきたいことが」


 背後から、シキが忍び寄ってきた。

 手にはワイングラスを持っている。


「どした、改まって」


「気づいておいでですか?」

「エマとレオナのことです」


 シキが視線を屋内に向ける。

 そこでは、エマが黙々と掃除をし、

 レオナが武具の手入れをしていた。


「あの方々は『マツシタ』の家名を背負う

 覚悟を決めました」

「故郷も、過去も捨てて、

 貴方と共に生きると誓ったのです」


「……うん、そうだな」


「なら、男として甲斐性を見せるべきでは?」

「働き詰めで、色気の一つもありませんよ」

「たまには『ご褒美』が必要でしょう」


 シキの言葉が胸に刺さる。

 確かに、あいつらに甘えてばかりだな。

 命を懸けてついてきてくれたのに、

 ちゃんとした「答え」を出していない。


「……そのとおりだよな」

「サンキュ、シキ」


 俺はグラスを置いて立ち上がった。


   ◇


「エマ、レオナ」

「ちょっと付き合って」


 俺は二人を呼び出した。


「はい、オーナー」

「なんでしょう、ブンペイ殿」

「夜の警備ですか?」


「違うよ」

「着替えてさ、街へ行こう」

「三人でデートしようよ」


「「……へっ?」」


 二人の動きが完全に停止した。

 エマはお盆を取り落としそうになり、

 レオナは目を白黒させている。


「デ、デート……? 私と?」

「いえ、二人同時に……?」


「いやかい?」


「め、滅相もございません!」

「直ちに着替えてまいります!」


 二人は脱兎のごとく部屋へ駆け込んだ。

 その後ろで、

 アリスとニナが「任せて!」と

 親指を立てて追いかけていった。


   ◇


 数十分後。

 玄関に現れた二人に、

 俺は思わず息を呑んだ。


 レオナは、背中の開いた

 深紅のドレス姿だ。

 鍛えられた肉体美が、

 夜の明かりに艶めかしく映える。

 いつもの鎧姿とは別人のようだ。


「ぼ、防具がないと……」

「なんとなく、落ち着きません……」


 顔を赤くして身をよじっている。

 

 エマは対照的に、

 清楚な白のワンピースだ。

 メイド服以外の姿を見るのは初めてかも。

 髪を下ろした姿は、深窓の令嬢のようだ。


「似合わないでしょうか……?」

「足元がスースーします……」


「二人とも、綺麗だよ」

「見惚れちゃった」


 俺は素直に感想を伝える。

 二人の顔がボッと沸騰する。


「さあ、行こう」


 俺は両腕を差し出した。

 二人が恐る恐る、その腕に手を回す。

 右にレオナ、左にエマ。

 両手に花とはこのことだな。


 俺たちは夜の港町へと繰り出した。


 昼間とは違い、

 夜市は幻想的なランタンの光に包まれている。

 音楽と笑い声、そして潮の香り。


「綺麗……」

「こんな風に街を歩くのは初めてです」


 エマが目を輝かせる。

 レオナは騎士の癖で、

 キョロキョロと周囲を警戒している。


「レオナ、今日は仕事なしだよ?」

「俺の腕だけ掴んでてね」


「……は、はい」

「承知しました、ブンペイ殿」


 レオナがギュッと腕に力を込める。

 その体温が心地いい。


 屋台で買った果実酒を飲み、

 景色のいい海辺のベンチに座る。

 波の音が静かに響く。


「二人とも、手を出して」


 俺はポケットから、

 小さな小箱を二つ取り出した。

 ボブ爺のコレクションにあった、

 アンティークの指輪だ。


「これは……?」


「マツシタ家の証だ」


 俺はレオナの薬指に、

 ルビーの指輪を嵌めた。

 そしてエマには、

 サファイアの指輪を。


「俺の家族になってくれて、ありがとう」

「これからは、主従じゃなく」

「パートナーとして支えてほしい」


 月明かりの下、

 宝石がキラリと輝く。


「……あう……」


 レオナの目から、

 大粒の涙が溢れ出した。


「わ、私は……武骨な騎士で……」

「こんな……幸せな……」


「似合ってるぞ、レオナ」


 俺は彼女の涙を指で拭った。


「……旦那様」


 エマが指輪を胸に抱きしめ、

 潤んだ瞳で俺を見つめる。


「一生、お仕えします」

「いいえ……一生、お慕いします」


「ああ、よろしく頼む」


 俺は二人の肩を抱き寄せた。

 左右から伝わる温もりと、

 微かな髪の香り。


 波音だけが、

 俺たちの誓いを聞いていた。


   ◇


 屋敷に戻ると、

 リビングの電気が消されていた。

 テーブルの上には、

 一本の鍵とメモが置かれている。


『今夜は別棟のゲストルームを空けてあります』

『ごゆっくりどうぞ ――シキ』


「……気の利く参謀だ」


 俺は苦笑した。

 両脇の二人は、

 顔を真っ赤にして俯いている。

 でも、拒絶の色はない。


「……行こうか」


「「はい……」」


 マツシタ家の夜は、

 まだまだ長くなりそうだ。

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