第47話:マツシタ家の優雅な休日(引率:エマ先生)
翌朝。
俺はリビングで高らかに宣言した。
「よし、みんな聞け!」
「俺たちは市民権を得た!」
「そして金は売るほどある!」
「つまり!」
「あくせく働く必要はない!」
「今日は街へ繰り出して、
ショッピングと洒落込むぞ!」
おーっ!
と歓声が上がるはずだった。
だが。
「……お待ちください、オーナー」
メイドのエマが、
スッと手を挙げる。
その目は、
幼稚園の先生のように厳しい。
「皆様、この街の常識をご存じで?」
全員が顔を見合わせる。
ニナたちは元奴隷。
アリスはお嬢様。
レオナは騎士バカ。
俺は異世界人。
「……知りません」
「でしょうね」
「このまま11人で歩けば、
目立ちすぎてトラブルの元です」
「私が引率します」
「勝手な行動は厳禁ですよ?」
「はーい……」
こうして、
エマ先生による引率ツアーが始まった。
◇
活気あふれる中央市場。
南国の極彩色のフルーツや、
見たことのない雑貨が並んでいる。
「わあぁぁ! 可愛い!」
「これ、全部くださいな!」
開始5分。
アリスが服屋で爆買いを始めた。
値札も見ずに金貨を出そうとする。
「アリス様、ダメです」
「ちゃんと値切ってください」
「カモだと思われます」
エマが慌てて止める。
「肉……焼けた肉……」
「食う。今すぐ食う」
ミケとサンが、
屋台の串焼きに鼻を寄せている。
涎が垂れそうだ。
「ミケさん、サンさん!」
「売り物に鼻をつけない!」
「お金を払ってから!」
エマが首根っこを掴んで引き戻す。
「ふむ……この剣は……」
「重心が悪いな」
「鍛え方が甘いのではないか?」
レオナが武器屋の親父に、
ダメ出しをしている。
親父が青筋を立てている。
「レオナさん!」
「営業妨害です!」
「謝ってください!」
エマの声が枯れそうだ。
そんな中、
フィリアが涼しい顔で言った。
「やれやれ、子供たちには困ったものだ」
「エマ、私が後方支援をしよう」
「サブリーダーとして任せてくれ」
「助かります、フィリア様」
だが数分後。
フィリアの姿が消えた。
「あれ? フィリアは?」
「……あそこです」
見ると、古本屋の軒先で、
分厚い魔道書を立ち読みして
石のように固まっていた。
梃子でも動きそうにない。
「……はぁ」
エマが深いため息をつく。
胃薬が必要かもしれない。
◇
昼時。
俺たちは港の見えるレストランに入った。
テラス席を貸切だ。
運ばれてきたのは、
名物の魚介スープと、
硬めのパン。
「頂きます!」
俺はスープを一口飲んだ。
「……ん?」
「薄いな」
素材はいい。
エビや貝の出汁は出ている。
だが、味付けが塩だけだ。
コクがない。
俺は懐から、
こっそりと『マヨネーズ』を取り出した。
こいつを一絞りすれば、
コクと酸味が加わって……。
「オーナー」
背後から、
氷のような声がした。
「……はい」
「外食を楽しむのがマナーです」
「シェフへの冒涜はおやめください」
「……すいません」
俺はすごすごとマヨネーズをしまった。
ニナがクスクス笑っている。
「でも、美味しいわよ?」
「素材の味がして」
「そうだな」
「これも異文化交流だ」
俺たちは南国の風に吹かれながら、
現地の味を噛み締めた。
騒がしい買い物だったが、
テーブルを囲むみんなの顔は明るい。
屋敷用の新しい家具が増え、
アリスの服も、
ミケたちの腹も満たされた。
「さて、帰りますよ」
「荷物持ちは男性陣の
仕事ですからね」
「へいへい」
俺とセバスは、
山のような荷物を抱えて立ち上がった。
マツシタ家の休日は、
こうして平和に過ぎていく。
……エマの苦労を除けば、だが。




