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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第40話:轟音のカーテンコール

 ……って、見栄を切ったはいいけどさ。


(あー、足の震えが止まらねえ……)

(てか、この中、狭っ! 油臭っ!)


 俺はSU―152のハッチの中で、

 冷や汗をダラダラ流していた。


 外から見れば「鋼鉄の要塞から顔を出す、

 不敵な男」に見えてるだろうね。


 でもさ、実際は

 閉所恐怖症になりそうな圧迫感と、

 何より「恐怖」で胃液が逆流しそうだ。


 フィリアに教わった、精神安定魔法。

 

 頭の中で詠唱して、

 無理やりビビリを抑え込もうとした。

 

 でも、ダメだ。

 この震えだけは止まらないんだ。


 相手が物理的に怖いから?

 失敗したら殺されるから?

 

 ……違うよな。


 怖いのは、俺が「殺す側」になることだ。


 目の前の騎士たちは、

 クズな盗賊や外道の暗殺者じゃない。

 

 主君の命令と良心の間で揺れている、

 ただの「善人」たちだ。


 交渉が決裂したら、この152ミリ砲で

 彼らを肉塊に変えなきゃいけない。

 

 家に帰れば家族がいるだろう、

 普通の男たちを。


(……魔法じゃ、

 この罪悪感までは消せねえのかよ)


 でも、それが分かっただけ収穫か。

 

 無辜の民を殺すのが怖いと思えるなら

 俺はまだ、人でなしにはなっていない。


 だからこそ、成功させなきゃいけない。

 誰も死なせないために。

 俺が人殺しにならないために。


 操縦席のミケが、

 ヘッドセット越しに叫んでくる。


『オーナー! これ凄い!』

『アクセル踏むと地面が揺れる!』


 装填手のサンが、

 40キロ近い砲弾を抱えている。


『重いなあ……』

『でも、ブンペイさんのためだもんね』


 頼むから落とすなよ?

 ここでお陀仏とか笑えないからな。


「……叔父さん、聞いてるか?」


 俺は拡声器を使った。

 騎士団たちは、

 まだポカンと口を開けて固まっている。


「これは『力』だ」

「あんたらの剣や魔法じゃ、

 傷一つ付けられない理不尽の塊だ」


「き、貴様……何を……」


「挨拶代わりに、一発いくぞ」


 俺は双眼鏡で、

 騎士団から少し離れた岩山を指差した。


「あそこ、更地にしてやるよ」


 俺はハッチの中に引っ込んだ。

 耳を塞ぐ。

 いや、塞いでも無駄かもしれないけど。


「シキ、てーっ!」


 砲手のシキが、

 無表情で発射ペダルを踏み込んだ。


 ドゴォォォォォォン!!!


 ――音が、消えた。

 あまりの衝撃音に、

 鼓膜が一瞬仕事を放棄したらしい。


 車体全体が、巨人のハンマーで

 ぶん殴られたように後退する。

 車内に充満する硝煙と死の匂い。


 キーン、という耳鳴りの中で、

 俺は恐る恐るハッチを開けた。


「……うわ」


 岩山が、消えていた。

 

 いや、正確には

 巨大なクレーターに変わっていた。

 舞い上がる土煙が、

 キノコ雲みたいになっている。


「ひぃぃぃ!!」

「あ、あわわわ……!」


 騎士団の戦意は、

 完全に崩壊していた。

 

 剣を取り落とし、腰を抜かし、

 騎士は馬から落ち、馬は逃げた。


 そりゃそうだ。

 あんなもん直撃したら、

 人間なんて赤い霧になるだけだ。


「……さあて」


 俺は再び、叔父さんに向き直った。

 彼は石像のように固まっていた。

 顔面は蒼白だ。


「叔父さん、あんただけ来な」

「大事な話がある」


 俺が手招きすると、彼はフラフラと

 処刑台に向かう死刑囚のように

 歩いてきた。


 戦車の横まで来ると、

 俺は身を乗り出して、

 彼だけに聞こえる声で囁いた。


「……いい演技だったよ」

「アカデミー賞ものだな、今の」


「……は?」


 叔父さんが目を見開く。


「姪っ子を守るために、

 自分が泥をかぶって殺そうとしたんだろ?」

「王家の無理難題をかわすために」


「な、なぜそれを……」


「うちの諜報員シキは優秀でね」

「あんたが雇った暗殺者、

 全部ゲロってから処理済みだ」


 叔父さんの肩が震え出す。

 糸が切れたように、

 その目から涙が溢れ出した。


「私は……私は、あの子を……!」

「兄上が遺した、唯一の宝を……!」

「だが、あの子が生きていれば、

 領民が死ぬのだ……!」


 鼻水を垂らして泣く初老の男。

 これが、こいつの本当の姿か。


「だからさ、提案がある」


 俺は親指で、

 アリスが乗っていた馬車を指した。

 もちろん、アリスたちは

 とっくに『揺らぎ』の中に退避済みだ。


「アリスは死んだことにしよう」

「あの馬車ごと、木っ端微塵にする」

「骨も残らねえ」


「……え?」


「あんたは『姪は死んだ』と報告して、

 泣きながら領地を継げ」

「アリスは俺が預かる」

「バベルだろうがどこだろうが、

 この『要塞』で守り抜いてやる」


 叔父さんは、しばらく呆然としていた。

 やがて、震える手で顔を覆い、

 深く、深く頷いた。


「……頼む」

「どうか、あの子を……幸せに」


「任せとけって」

「俺はお人好しなんだよ」


 俺はハッチを閉じた。

 そして、空の馬車に照準を合わせる。


「仕上げだ!」

「派手にいくぞ!」


 ズドォォォォン!!


 二度目の轟音。

 馬車があった場所が、光に包まれた。

 破片すら残らない、完全な破壊。


「アリスーー!!」


 叔父さんが叫ぶ。

 今度は演技じゃない。

 愛する姪との、今生の別れの叫びだ。


「アリス様ぁぁぁ!!」


 事情を知らない騎士たちも、

 涙を流して絶叫している。


 ……うん、これでいい。

 

 誰も死なない、誰も不幸にならない。

 アリスの戸籍が消えるだけだ。


 土煙が晴れた後には、

 何も残っていなかった。


「……行くぞ」


 俺はミケに合図を出した。

 

 鋼鉄の履帯が軋みを上げ、

 巨大な車体が方向転換する。


 叔父さんは、

 最後まで俺たちを見送っていた。

 その背中は、

 来た時よりも少しだけ、

 軽くなっているように見えた。


『……ふふっ』

『叔父様、泣き虫ですわね』


 インカムから、アリスの声。

『揺らぎ』のモニターで見ていたらしい。

 その声は少し潤んでいたけど、

 もう迷いはなさそうだった。


 こうして、

 俺たちのパーティーに、

 新しい家族(と戦車)が加わった。


 次はバベルだ。

 どんなトラブルが待っていようと、

 今の俺たちなら、

 たぶん……なんとかなるだろ。

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