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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第39話:涙の演説と、鋼鉄の野獣

暗殺者との遭遇から二日。

 俺たちの旅は、順調に進んでいた。


 街道沿いの景色も、

 深い森から少しずつ開けた平原へと

 変わり始めていた。


 目的地の商業都市バベルまで、

 あと半日といったところかな。


「もうすぐですわ!」

「あそこを曲がれば、

 バベルの尖塔が見えてきますの!」


 馬車の窓から、

 アリスが身を乗り出している。

 

 風に揺れる金髪が、

 午後の日差しを受けて輝いていた。


「バベルには叔父様がいるのよ」

「叔父様は、とっても優しいの」


 アリスは、

 宝物の話をするように語るんだ。


「父様と母様が亡くなってから、

 塞ぎ込んでいた私を

 ずっと励ましてくれたの」

「『アリスは家の宝だ』って、

 いつも頭を撫でてくれて……」


 その横顔は、

 一点の曇りもなく幸福そうだ。

 

 執事のセバスや、メイドのエマも、

「これで安泰ですな」と

 安堵の表情を浮かべている。


 ……痛いな。

 その純粋すぎる信頼が、笑顔が

 俺の胸をチクリと刺してくるんだ。


 俺たちはもう知っているから。

 

 その「優しい叔父様」こそが、

 刺客を放った張本人なんだと。


 これから彼女が直面する現実を思うと、

 俺は胃がキリキリと痛んだ。


『――オーナー』


 インカムからフィリアの声が響いた。

 

 先ほどまでのリラックスした口調とは違う、

 硬く、張り詰めた声色だ。


『前方、道を塞がれている』

『……来たぞ』


 俺は眉をひそめた。


『状況は?』


『数は50以上。完全武装の騎士団だ』

『陣形は防御型ではなく、

 完全にこちらを包囲殲滅する構えだ』

『旗印は……ウィレム子爵家のものだぞ』


 ついに来ちゃったか。

 

 俺は深く息を吐く、

 ここが覚悟を決めるべき時だよな。


「止まれ!」


 街道の先、土煙の向こうに

 銀色の壁のような集団が現れた。


 整然と並んだ騎士たちが、

 長い槍を構えて道を塞いでいる。

 

 その殺気は、盗賊たちとは桁違いだ。

 本職の軍隊の空気だ。


 その中心に、

 一頭の立派な黒馬に乗った男がいる。


 仕立ての良い軍服。

 痩せこけた頬に、鋭い眼光。

 

 アリスによく似た面差しの、

 初老の男だ。


「お、叔父様!?」


 馬車が急停車するなり、

 アリスが飛び出した。

 

 状況が飲み込めていないのだろう。

 満面の笑みで駆け寄ろうとする。


「叔父様! 私です! アリスです!」

「会いたかった……!

 バベルまで迎えに来てくだ……」


「――止まれ」


 叔父の声は、

 氷のように冷たかった。

 

 拒絶の響きを含んだその声に、

 アリスがビクリと足を止める。


「お、叔父様……?」


「アリスよ」

「お前は、なぜ生きている?」


 低い、地を這うような問いかけ。


「え……?」


「数多の刺客を放ち、

 魔物の群れすらけしかけたというのに」

「なぜお前は、

 しぶとく生き残っているのだ!」


 叔父が叫んだ。

 

 アリスの青い瞳が、

 信じられないものを見るように揺れる。


「し、刺客……?」

「叔父様が……私を……?」


「そうだ! 全て私の指図だ!」


 男は馬上で腕を広げた。


「お前が生きている限り、

 この家は潰れるのだ」

「王家の介入、理不尽な要求……

 お前という存在が、

 領民を危機に晒している!」


「な、何を……」


「なぜ大人しく、

 野垂れ死んでくれなかった!」

「お前など、一族の恥だ!」

「ここで私が引導を渡してやる!」


 烈火の如き罵倒。

 

 容赦のない言葉のナイフが、

 幼い少女の心を切り刻んでいく。


「全軍、構えぇ!!」


 叔父の号令で、

 騎士たちが悲痛な面持ちで剣を抜く。

 ジャリッ、と鎧が擦れる音が、

 無数に重なる。


 彼らも知っているのだ。

 

 これが、家を守るための

「主君殺し」であることを。

 

 忠義と現実の板挟みになりながら、

 それでも剣を向けている。


「嘘……そんな……」

「叔父様が、私を……嫌い……?」


 アリスがその場に崩れ落ちた。

 

 信じていた世界が、

 足元から崩れ去った顔だ。

 絶望の色が、急速に瞳から光を奪う。


 執事たちが、

 アリスを庇って前に出る。


「代行! ご乱心ですか!」

「アリス様は、亡き当主様の忘れ形見!」

「貴方様が一番、

 慈しんでおられたではありませんか!」


 ……茶番は、そこまでだ。


 俺は、ボブ爺愛用の

 高倍率双眼鏡(Nikonモナーク)を

 目元に当てていた。

 

 レンズ越しに、俺は真実を見ていた。


 見えたよ。

 叔父さんの、手綱を握る手が。

 

 血の気が引くほど白く握りしめられ、

 小刻みに震えているのが。


 その目が、真っ赤に充血して、

 今にも涙が堤防を決壊させそうなのが。


 罵声を浴びせる口元が、

 引き攣るように歪んでいるのが。


「……下手くそな演技しやがって」


 俺は双眼鏡を下ろした。


 胸クソが悪くなるような「善意」だ。

 誰も幸せにならない、自己犠牲の演劇だ。


「ブンペイさん、やりますか?」


 シキが銃に手をかける、その目は冷たい。

 彼女には、叔父の事情なんて関係ない。

 

 俺が保護したアリスを泣かせた敵は、

 排除すべき対象でしかない。


「待って」


 俺はシキを制した。


「今回は、誰も殺さない」

「あいつらは敵じゃないから」

「ただの、追い詰められた家族なんだ」


「……では、どうします?」

「ゴム弾で制圧しますか?」


「……いや」

「もっと分かりやすく、

 心をへし折るってのはどう?」


 俺はニヤリと笑った。


 相手は正規軍だ。

 プライドも覚悟もある騎士たちなんだ。

 中途半端な戦力じゃ、

 彼らも引くに引けないだろうな。


 なら、

「これはどうあがいても勝てない」

「戦うこと自体が間違いだ」

「神の裁きか何かだ」

 と思わせる、圧倒的な「暴力」が必要だ。


 俺は前に出た。

 泣き崩れるアリスの横を通り過ぎ、

 騎士団の正面に立つ。


「なんだ貴様は!」

「平民風情が、下がっていろ!」


 叔父が怒鳴る。

 

 その声の震えを隠すように、

 声を張り上げている。


「あんたが叔父さんか」

「姪っ子に酷いこと言うねえ」


 俺は挑発するように言った。

 ポケットに手をいれ、

 わざと隙だらけの姿勢を見せる。


「でも、俺はあんたみたいな

 不器用な男、嫌いじゃないよ」


「な、何を……」

「気でも触れたか?

 この数を見ても分からんのか!」


「数?」

「ああ、50人かそこらか」

「悪いけど、少なすぎるな」


 俺は鼻で笑った。


「見せてやるよ」

「俺たちの『覚悟』の形を」


 俺は右手を高く掲げた。

 

 空間の『揺らぎ』を、

 最大出力で展開する。

 バヂバヂッ、と空間がきしむ音がする。


 店の商品じゃない。

 

 ボブ爺が、生涯をかけて集めた

 鉄と油と火薬のコレクション。


 東部戦線の泥沼から蘇った、

 第二次大戦の亡霊。

 ドイツの戦車を鉄屑に変えてきた怪物。


「出てこい」

「猛獣狩り(ズヴェロボイ)」


 ズウウゥゥン……!!


 空間が悲鳴を上げ、

 巨大な質量が出現した。


 全長9メートル。

 全幅3メートル。

 重量45トン。


 分厚い圧延鋼板の装甲。

 回転砲塔を持たない、

 無骨で凶悪な固定戦闘室。


 ダークグリーンの車体に、

 白い文字でスローガンが書かれている。

 そして、その中心から突き出た

 152ミリ榴弾砲。


 ソビエト製重自走砲、

 SU-152。


 ズシィィィン……!!


 履帯が地面に着地した瞬間、

 街道そのものが揺れた。

 

 舞い上がる土煙。

 漂う、強烈な軽油と鉄の匂い。


「な、な、なんだあれは!?」

「鉄の……塊!?」

「魔獣か!? ゴーレムか!?」

「いや、城だ! 動く城だ!!」


 騎士団がパニックに陥る。

 

 訓練された軍馬たちが、

 本能的に棹立ちになり、暴れる。

 隊列が一瞬で崩壊する。


 俺達は、車体によじ登り搭乗する。

 冷たい装甲の感触。

 ハッチを開け、中を覗き込む。


 独特の機械油の匂い。

 完璧にレストアされた計器類。

 そして、薬室に装填済みの

 巨大な榴弾。


 ボブ爺の妄執が、牙を剥く瞬間だ。


「さあ、叔父さん」

「交渉の時間だ」


 俺はハッチから顔を出し、

 冷ややかに告げた。


 背後には、

 鋼鉄の野獣がその黒い砲口を、

 怯える騎士団に向けていた。

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