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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第31話:無慈悲な文明の利器と、残念な美人

朝霧の立ち込める森の奥。

 フィリアの秘密基地で、

 歴史的な瞬間が訪れようとしていた。


「できた……!」

「ついに完成したぞ!」


 フィリアが、充血した目で叫んだ。

 その手には、二枚の石板が握られている。


 徹夜の成果だ。

 髪はボサボサ、

 目の下のクマはさらに濃くなり、

 もはや妖怪に近い。


「名付けて、遠話石板・改!」

「音声の信号化に成功した!」

「これでノイズなしで会話が可能だ!」


 フィリアは、

 勝ち誇ったように石板を掲げた。


「すごいですね、先生」


 シキが、真顔でパチパチと拍手する。

 ニナたちも、「おーっ」と感心している。


 確かにすごい。


 この世界の技術レベルで、

 デジタル通信の概念を形にするとは。

 この人は正真正銘の天才だ。


「魔力消費も抑えた!」

「これなら実戦でも使える!」

「どうだブンペイ、

 スマホとやらには及ばんだろうが、

 それに迫る発明だろう!」


 フィリアが、ドヤ顔で俺を見てくる。

 鼻息が荒いなあ。

 褒めてほしくて尻尾振ってる犬だな。


「……うん、すごいよ」

「まさか、一晩で形にするとはね」


 俺は素直に称賛した。

 称賛した、んだけど。


 ふと、ポケットの中の

 違和感が気になった。


 俺のスマホ。

 

 ここに来てからずっと、

 時計代わりになってた黒い板。


(……待てよ?)


 俺はふと思った。

 

 フィリアが「信号化」に成功したなら。

 この世界の空気中には、

 電波の代わりになるような

「波」が飛んでるってことだよな。


 あの「適当な神様」のことだ。

「異世界転移特典」とか言って、

 なんか設定をイジってる可能性、

 なくはない、よな?


 俺は、恐る恐るスマホを取り出した。

 画面をタップする。


 ロック画面が表示される。

 ここまでは普通だ。

 問題は、左上のアンテナ表示。


「……は?」


 俺は目を疑った。

 アンテナが、4本立っている。

 バリ3どころじゃない。

「5G」って表示されてる。


「……嘘でしょ」


 試しに、地図アプリを開いてみる。


 本来なら、

「通信できません」か、

 日本の地図が出るはずだ。


 でも、画面に表示されたのは。


『現在地:リェン森林都市・北区』

『フィリアの秘密実験場』


 ご丁寧に、ピンまで立っていた。


「……うわあ」


 俺は思わず声を漏らした。

 地図だけじゃない。

 周辺の地形、建物の配置、

 全部が詳細に表示されている。


 あの神様(管理者)、

「あ、スマホ使いたいだろうから

 使えるようにしといたよ☆」

 くらいのノリで設定しやがったな。


「……おい、ブンペイ」

「何だその、ツルツルの綺麗な板は」


 フィリアが、

 石板を持ったまま固まっている。


「ああ、これですか」

「俺の世界の『スマホ』です」


「……使えるのか?」


「なんか、使えるみたいです」


 俺は画面をフィリアに見せた。


「ほら、これ現在地」

「ピンチアウトすると拡大……」


 ヌルヌル動く液晶画面。

 精細な航空写真のようなマップ。

 自分の位置を示す青い矢印が、

 俺の動きに合わせて回転する。


 カシャン。


 フィリアの手から、

 苦労して作った石板が滑り落ちた。


「……な、な」

「なんだその、滑らかな動きは……」

「魔力も感じないのに、

 どうやって動いている!?」


「電気です」

「リチウムイオン電池っていうのが

 入ってて……」


「……私の発明は?」

「昨日の徹夜は?」


「フィリアさんのは魔力で動くから!

 充電いらないし!すごいですよ!」


 俺は慌ててフォローした。

 

 でも、フィリアの顔は

 梅干しを食べたみたいに

 酸っぱくなっている。


「……ふん」

「どうせ、地図が見れるだけだろう」

「情報の深さなら、

 現地の私に分があるはずだ」


 フィリアは負け惜しみを言う。


「そうですね」

「あ、なんかウィキって入ってるな」

「ま、まさかなぁ……?」


 俺は恐る恐る、アイコンをタップした。


 検索窓に、『リェン』と入力する。

 

 ズラッと情報が出てくる。

 

 人口、特産品、歴史。

 すげえ、完璧なガイドブックだ。


「……有名人の項目もあるな」


 俺はチラッとフィリアを見た。

 

 この人、腐っても天才だし、

 載ってるんじゃないか?


 検索:『フィリア』


 ヒットした。

 1件。


 俺は、その項目を読み上げた。


『フィリア・エル・シルフィード』

『リェン在住の魔導学者』

『エルフ族でも稀有な魔力持ち』

『その才能の全てを

 奇行と変な実験に費やしている』


「……おい」

「誰だその記事を書いた奴は!」


 フィリアが叫ぶ。

 俺は無視して続きを読んだ。


『外見は黙っていれば絶世の美女だが、

 口を開くとマッドサイエンティスト』


『部屋はゴミ屋敷である』

 『過去に3回、実験の爆発で

 家を吹き飛ばして

 退去勧告を受けている』


『通称:爆裂の残念美人』

『リェンの七不思議の一つ』


 シーン……。


 森に、気まずい沈黙が流れた。


 ミケが、

 憐れむような目でフィリアを見ている。

 

 サンとゴロネは、

「聞かなかったことにしよう」

 と視線を逸らした。


 シキだけが、

「……情報の精度、高いですね」

 とボソッと呟いた。


「……う、ううう……!」


 フィリアが、

 顔を真っ赤にして震えている。

 

 怒りじゃない。

 恥ずかしさで爆発寸前だ。


「ち、違う!」

「ゴミ屋敷じゃない!」

「資料が多すぎるだけだ!」

「爆発も、あれは必要な犠牲で……!」


「『残念美人』って書かれてますけど」


「うるさいうるさいうるさい!」

「誰だその『ウィキ』の編纂者は!」

「見つけ出して、

 脳に直接ファイアボールを

 叩き込んでやる!」


 フィリアが俺のスマホを

 奪い取ろうとする。

 

 俺はヒョイと避けた。


「まあまあ、落ち着いて」

「有名人ってことじゃないですか」


「悪名だろそれは!!」


 フィリアは頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「……勝てない」

「文明の利器にも、

 情報の悪意にも勝てない……」


「私は、ただの残念な女だ……」


 いじけて地面に「の」の字を書き始めた。


 めんどくさい。

 この人、本当にめんどくさいぞ。


 でもまあ、

 これで分かったことが一つある。


 俺のスマホは、

 この世界で「最強の情報端末」になる。

 

 GPS、地図、そして

 謎の管理者による「裏情報」。


 これがあれば、

 どんな敵が来ても、どんな迷宮でも、

 攻略本を見ながら進むようなもんだ。


「元気出してくださいよ、先生」


 シキが、フィリアの肩をポンと叩く。


「先生の石板も、

 予備としてなら優秀ですよ」


「……『予備』とか言うな」

「傷口に塩を塗るな」


 フィリアは涙目で睨み返した。


 その時だった。

 

 俺のスマホが、ブブブッ、と震えた。


 通知だ。


『エリア情報:緊急』

『リェン北部・霧の湿地帯にて

 魔獣反応あり』

『エルフの児童2名、孤立中』


「……え?」


 俺は画面を凝視した。

 マップ上に、赤い点が点滅している。


「これ、マジか?」


 俺は顔を上げた。

 

 フィリアの酸っぱい顔も、

 ふざけたウィキの記事も、

 一瞬で頭から消し飛んだ。


「フィリアさん、泣いてる場合じゃない」


 俺はスマホの画面を彼女に見せた。


「子供が、迷子になってる」

「しかも、魔物が近い」


 フィリアの表情が変わった。


「……場所は?」


「ここから北へ3キロ」

「霧が濃いエリアだ」


「……あの湿地か」

「あそこは磁場が狂っていて、

 魔法の探知が効かない」

「エルフの警備隊でも、

 二次遭難を恐れて入れない場所だ」


 フィリアが立ち上がる。

 

 その目に、

 さっきまでの情けなさはない。


「だが、君のその『スマホ』なら?」


「バッチリ見えてます」

「ピンポイントで案内できる」


 俺はニヤリと笑った。


「行きましょう」

「残念美人な先生の汚名返上、

 手伝いますよ」


「……一言多いぞ、バカ弟子」


 フィリアは悪態をつきながらも、

 自分の作った石板を腰に差した。


 俺のスマホ(神のチート)と、

 フィリアの石板(努力の結晶)。

 そして、シキの耳に現代の機器


 この凸凹チームなら、

 どんな濃い霧だって晴らせるはずだ。


「ミケ、先行できるか?」

「GPSで誘導する」


「任せるにゃ」

「迷子の子猫ちゃんを

 迎えに行くのは得意だにゃ」


 俺たちは、

 森の奥へと走り出した。

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