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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第30話:森の実験室と、魔道具の正体

 朝靄が立ち込める、

 リェンの森の奥深く。


 巨木の根が複雑に絡み合い、

 天然の隠れ家みたいになっている場所。


 ここが、フィリアの「第二実験室」らしい。


「よし、ここなら誰にも見られん」

「存分にやろうじゃないか」


 フィリアが、

 ワクワクした顔で腕まくりをする。


 徹夜明けのはずなのに、

 このテンションの高さは異常だ。

 科学者って、みんなこうなのか?


 シキは、少し離れた木の枝に登り、

 周囲の警戒を始めている。

 耳」を澄ませて、

 森の音を拾っている姿は、

 完全にプロの斥候だ。


「さて、ブンペイ」

「まずは『水』からだ」

「君の理論通り、

 座標指定で水を発生させる」


 フィリアは、的として用意した

 カボチャのような木の実を指差した。


「あの中を、水で満タンにしてみせろ」


「……了解」


 俺は深呼吸をして、

 右手を前に突き出す。


 イメージするのは、

 昨日フィリアに叩き込まれた

「魔法の基礎構造」と、

 俺が持っている「物理の知識」。


 魔法文字の羅列を、

 脳内で数式に変換する。


 対象の空間座標。

 X軸、Y軸、Z軸。

 カボチャの中心部。

 半径5センチの球体空間。


 そこに、空気中の水分を

 急速凝結させるイメージ。


 いや、もっと直接的に、

 水分子の結合を強制する。


(……来い!)


 ブンッ。


 低い音がして、

 カボチャが微かに揺れた。


「……どうだ?」


 フィリアが駆け寄り、

 ナイフでカボチャを割る。


 パカッ。


 中から、

 ドバッと水が溢れ出した。

 種もワタも、

 水浸しになって流れ落ちる。


「……成功だ」


 フィリアの声が震えている。


「外傷なし」

「皮には針の穴ひとつ開けずに、

 中身だけを水没させた……」


 俺も、

 自分の手を見つめて

 ゴクリと唾を飲んだ。


 これ、カボチャだからいいけど。

 もし人間だったら?


 肺の中が、

 一瞬で水浸しになるってことだ。


 息ができない苦しみ。

 パニック。

 そして、静かな死。


「……エグいな」


「ああ、エグい、だが、美しい」


 フィリアは、

 濡れたカボチャの断面を

 愛おしそうに撫でている。


「これまでの水魔法は、

 『手から放つ』という

 矢のような発想しかなかった」

「だがこれは、

 『そこに在る』という状態を

 強制的に書き換えている」


「次元が違うぞ、ブンペイ」


「まあ、殺傷能力は高いですね」

「でも、狙うのが難しい」

「相手が動いてたら、

 座標がズレて失敗しますよ」


 俺は冷静に分析する。

 静止ターゲットならいけるけど、

 戦闘中に動く敵の肺を狙うのは、

 FPSのヘッドショットより難しい。


「ふむ、確かに」

「動体予測の演算が必要になるな」

「私の脳でも、処理が追いつかんか」


 ……まてよ?

 例えば小さじ一杯程度の水を

 1m四方に10センチごとに出せば

 縦と横、奥で千個、5リットルか。


 1m四方あれば、狙えるな。

 ……黙っとこ



 フィリアは腕を組み、

 ブツブツと独り言を始めた。


「なら、次は『火』だ」

「脳血管へのピンポイント攻撃」

「これはさらに精密さが要るぞ」


 俺たちは、

 次々と実験を繰り返した。


 スイカのような果実の、

 中心部だけを熱で腐らせる。

 土の中の石を、

 地上1メートルに転移させる。


 失敗も多かった。

 座標がズレて、

 フィリアの髪が焦げそうになったり、

 俺の足元がいきなり泥になったり。


 でも、確かな手応えがあった。


 俺の知識と、

 フィリアの技術があれば、

 この世界の「魔法」を

 根本から作り変えられる。


 一通り実験が終わった頃、

 フィリアがリュックから

 ゴソゴソと何かを取り出した。


「そうだ、ブンペイ」

「君に見せたいものがある」

「私の最高傑作にして、

 誰にも理解されなかった

 悲劇の発明品だ」


 出てきたのは、

 二枚の薄い石板だった。


 手のひらサイズで、

 表面にビッシリと

 細かい魔法文字が刻まれている。


「……なんですか、これ?」


「『遠話えんわの石板』だ」


 フィリアは誇らしげに胸を張る。


「離れた場所にいても、

 声が届く魔道具だ」

「風の精霊の波長を利用して、

 音声を飛ばすことができる」


「へえ、すごいじゃないですか!」

「トランシーバーだ!」


 俺は感心して手に取った。


 異世界で通信機とか、

 めちゃくちゃ便利じゃん。


 これがあれば、

 斥候に出たミケとも話せる。

 まあ、トランシーバーあるんだけどね。


「だがな……欠陥があるんだ」


 フィリアが肩を落とす。


「魔力の消費が激しすぎる」

「一度使うと、魔石一個が空になる」

「しかも、距離が離れると

 ノイズが酷くて聞き取れない」


「長老たちには、

 『大声で叫べば済むことだ』と

 鼻で笑われたよ」


「……なるほど」


 俺は石板をまじまじと観察する。

 魔法文字の配列、エネルギーの流れ。


 これ、音声データを

 そのまま魔力に乗せて飛ばしてるのか?


 アナログ放送みたいなもんか。

 そりゃ効率悪いわ。


「フィリアさん」

「これ、データを圧縮してます?」


「あっしゅく……?」

「なんだその美味しそうな言葉は」


「音をそのまま送るんじゃなくて、

 一度『数字』に変換するんです」

「0と1の信号に変えてから飛ばす」

「受け取った側で、また音に戻す」


 俺は地面に図を描いた。

 デジタル通信の基礎だ。


「波をそのまま送ると崩れやすい」

「でも、点滅なら遠くても正確に届く」


「手旗信号みたいなもんですね」

「それを高速でやれば、声も送れる」


 フィリアの目が、またしても点になる。

 そして次の瞬間、カッと見開かれた。


「……天才か?」

「いや、君の世界の人間は

 全員神なのか?」


「音を……信号にする……」

「波ではなく、

 粒として送る……」


「それなら、

 魔力消費は十分の一以下で済む!」

「ノイズも消せる!」


 フィリアが俺の肩を掴んで揺さぶる。

 目が血走ってる、怖いってば。


「ブンペイ!」

「今すぐ改良するぞ!」

「これが完成すれば、

 リェンの歴史が変わる!」

「いや、世界の通信が変わるぞ!」


「落ち着いてくださいよ」

「でも、これだけじゃない」


 俺はニヤリと笑った。

 どうせなら、もっと面白くしよう。


「この石板、文字は表示できません?」


「文字? まあ、

 光らせるくらいならできるが」


「なら、メールも送れますね」

「声が出せない状況でも、

 文字で連絡が取れる」

「シキやミケが潜伏してる時、

 絶対役に立つ」


 上から、

 シキが音もなく降りてきた。


「……欲しいです」

「それ、すごく欲しいです」


 うわあ、シキの目がマジだ。


「ブンペイさんの声が、

 いつでも聞ける……」

「私の報告が、

 いつでも届く……」


「採用!」


 フィリアが叫んだ。


「文字通信機能も追加だ!」

「名前はどうする?」

「『フィリア式超遠距離通信板』か?」


「長すぎますね」

「『スマホ』でいいんじゃないですか?」


「スマホ……」

「響きが可愛いな。よし、それだ!」


 こうして、

 森の奥の秘密基地で、

 異世界初の「スマートフォン(試作機)」の

 開発がスタートした。


 俺の「地球の知識」と、

 フィリアの「魔法技術」。

 そしてシキの「重い執念(ユーザー視点)」。


 この三つが揃った今、

 不可能なことなんて、

 何もない気がしてきた。


「さあ、徹夜だ!」

「今日は寝かさんぞ、ブンペイ!」


「勘弁してくださいよ……」


 俺は苦笑いしながらも、

 胸がワクワクするのを止められなかった。


 この世界に来て、

 初めて「作る喜び」を感じている。

 殺すためじゃなく、

 繋がるための道具を。


 店にはトランシーバーもあるけど、

 この世界のテクノロジーってのが良いよ。

 それに、メール機能は良いよな。


 まあ、そのうち

「軍事用無線」として

 大活躍しちゃうんだろうけどな。

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