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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第29話:精神の掌握、そして兎は静かに病む

フィリアの研究室に、

 奇妙な緊張感が漂っていた。


「……いいか、イメージしろ」

「脳内のスイッチを切るんじゃない」

「回路を迂回させるんだ」


 フィリアが、

 教官のように声を張り上げる。


 俺たちは今、

「精神ホールド」の特訓中だ。


 恐怖を均し、闘争心を固定する。

 言うのは簡単だけど、

 これ、めちゃくちゃ難しい。


「うー……できなーい」


 ゴロネが頭を抱えて転がる。

「難しいです……」

 サンも眉間に皺を寄せてる。


 ニナは真面目だから、

 必死にやろうとしてるけど、

 力が入りすぎて逆にガチガチだ。


 ミケは「飽きた」って顔で

 尻尾をいじってる。


 まあ、普通はそうだよな。

 自分の脳みそを騙すなんて、

 そう簡単にできるわけがない。


 俺はできたけど、

 それはフィリアが俺の脳に

 直接干渉してくれたからだし。


 自力で習得するのは、

 至難の業だ。


「……できました」


 静かな声が、部屋に響いた。


 全員が振り返る。

 声の主は、シキだった。


 彼女は壁際で、

 膝を抱えて座っていた。

 その長い耳が、

 ピクリとも動いていない。


「……ほう?」


 フィリアが興味深そうに近づく。

「見せてみろ」


 フィリアがシキの額に手を当てる。

 数秒後。

 フィリアの目が、

 驚愕に見開かれた。


「……完璧だ」

「ノイズが一切ない」

「恐怖の回路だけが、

 完全に遮断されている……」


「どうやったんだ?」

「教えたばかりだぞ?」


 シキは、

 無表情のまま淡々と答えた。


「必要だったからです」


「必要?」


「恐怖は、判断を遅らせます」

「一瞬の遅れは、

 私の死に繋がる」

「私が死ねば、

 彼を守る火力が減る」


 シキの視線が、俺の方に向けられる。

 その目が、ゾッとするほど澄んでいた。

 そして、すごく重いのよ……

 ……え? まさかのヤンデレ?


「だから、恐怖はいりません」

「邪魔なものは捨てる」

「それだけの話です」


 フィリアが、少しだけ後ずさりした。

「……君、名前は?」


「シキです」


「シキか……」

「君は、学者には向かないな」


 フィリアは苦笑いする。


「学者は、過程を楽しむものだ」

「だが君は、結果しか見ていない」

「効率的すぎて、可愛げがないぞ」


「褒め言葉として受け取ります」


 シキは表情を変えない。

 でも、俺には分かった。


 彼女の中で、

 何かがカチッとハマった音がした。


「ねえ、フィリアさん」


 シキがフィリアに詰め寄る。


「この『ホールド』状態……」

「聴覚の感度を上げるのにも

 使えますか?」


「脳のリソースを、

 聴覚野に集中させる……」


「……え?」


 フィリアが虚を突かれる。


「理論上は……可能だが」

「そんなことをしたら、

 足音が雷みたいに聞こえるぞ?」

「まともな神経じゃ耐えられない」


「耐えられますよ」

「だって私は『耳』ですから」


 シキは、俺が渡した集音器を撫でた。


「彼の目が届かない範囲の音を、

 全て拾うのが私の役目」

「その為なら、多少の頭痛など些事です」


「……」


 フィリアは、呆れたように俺を見た。


「おい、ブンペイ」

「君のところの嫁は、

 どいつもこいつもイカれてるのか?」


「いやあ……」

「俺も今、ちょっとビビってる」


 シキってばいつの間にこんなに

 覚悟決まってたんだよ?


「自由の毒」が回った結果か?

 それとも、俺への執着……

 いや、信頼か?


「教えてください、先生」


 シキが、フィリアを先生と呼んだ。


 でもその態度は、

 教えを乞う生徒というより、武器商人が

 新しい銃のスペックを聞く時のそれだ。


「私の脳を、もっと効率よく

 彼の役に立つように作り変えたい」


「……はあ」


 フィリアはため息をつき、

 そしてニヤリと笑った。


「いいだろう」

「そこまで言われて、断る私ではない」


「ただし!壊れても文句は言うなよ!」

「君のその『重い愛』とやらを、

 魔力回路に組み込んでやる!」


 そこから、シキとフィリアの

 マンツーマン指導が始まった。


 専門用語が飛び交う。

 俺でさえついていけない速度で、

 シキが知識を吸収していく。


「――この回路をバイパスして、

 反応速度を0.1秒短縮」

「――視覚情報をカット、

 聴覚への出力を最大化」


 ゴロネが、

 ポカーンと口を開けて見ていた。


「……ねえ、ブンペイさん」

「シキちゃん、なんか怖くない?」


「……うん」

「頼もしいけど、怖いよね」


 俺は素直に認める。

 シキは、ただの「賢い子」じゃない。


 目的のためなら、

 自分自身すら改造しかねない

「狂気」を持ってる。


 それが、俺を守る為だと言う。


 なんともこそばゆくて、

 そして、責任を感じるよな。


 しばらくして、特訓が終わった。


 シキは汗だくだったが、

 その目はランランと輝いていた。


「……聞こえます」


 シキが耳を動かす。


「隣の家の、寝息」

「三つ向こうの家の、話し声」

「風が葉を揺らす音の数……」


「すごい……」

「世界が、音で満ちている」


「成功だな」

 フィリアが満足げに頷く。


「ただし、長時間は使うなよ」

「脳が焼き切れるぞ」


「分かっています」

「ここぞという時だけに使います」


 シキは、俺の方を向いて、

 ペコリと頭を下げた。


「ブンペイさん」

「これで、貴方の死角はなくなりました」

「背後は、私が聞きます」


「……おう、頼りにしてるよ」


 俺はシキの頭を撫でる。

 長い耳が、嬉しそうに

 俺の手のひらに巻き付いてきた。


 やっぱ、こいつ可愛いわ。

 怖いけど、可愛い。

 ヤンデレの素質あるよな、絶対。


「さて、と」


 フィリアが手をパンと叩く。


「座学は終わりだ!」

「次は、実技といこうか」


「ブンペイ、君の言っていた

 『物理魔法』の検証だ」

「森の奥へ行くぞ」

「誰にも見られない場所で、

 こっそりとな」


「……え、今から?」


「当たり前だ!」

「私の知的好奇心は、

 もう爆発寸前なんだよ!」


 フィリアは、俺をグイグイ引っ張る。

 この人、体力すごくない?

 徹夜だよね?


「シキ、君も来い」

「君の『耳』で、

 誰か来ないか見張るんだ」


「はい、先生」


 シキが即答してついていく。

 うわあ、変な師弟関係ができちゃった。


 俺たちは、

 朝もやの漂うリェンの森へと

 足を踏み入れた。


 これから始まるのは、

 エルフの歴史を覆す実験だ。


 そして、シキという

 最強の「観測者」が加わったことで、

 俺たちのチームは、

 また一つ、化け物じみていくのを感じた。


 ……ま、いっか。

 強くなるのは良いことだ。


 守りたいものが増えたんだから、

 手段なんて選んでられないしな。


 俺は、

 フィリアとシキの背中を見ながら、

 覚悟を決めて歩き出した。

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