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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第28話:精神魔法と、悪魔的ドーピング

フィリアの研究室(ゴミ屋敷)で、

 俺たちの「学会」は続いていた。


 ミケたちは部屋の隅で、

 フィリアが出してくれた

 木の実のお菓子を食べている。


 意外と美味いらしく、

 ミケの機嫌は直っていた。


「……なるほど、重力か」

「星が引っ張り合う力」

「精霊の意思ではなく、

 質量そのものが持つ力……」


 フィリアは、

 俺が書いた数式を眺めながら、

 うっとりと呟いている。


 完全に科学の虜だな。


「さて、ブンペイ」

「約束通り、私も教えよう」

「君が知りたがっていた

 『精神魔法』についてだ」


 フィリアは、散らかった机から

 一冊の古い本を引っ張り出した。


「精神魔法は、基本は『鎮静』だ」

「荒ぶる感情を、水面のように静める」


「恐怖、怒り、悲しみ」

「そういったノイズを消し去り、

 純粋な理性を保つ」

「これが、我々の瞑想の極意だ」


 彼女は、自分のこめかみを指差した。


「脳内の魔力回路を操作し、

 感情を司る領域の活動を抑制するんだ」


「……抑制、か」


 俺は顎に手を当てて考えた。


「つまり、感情を『ゼロ』に近づける、

 ってことだよな?」


「そうだ」

「完全な静寂こそが、

 正しい魔法の行使には不可欠だからな」


 ふーん。

 まあ、エルフらしい発想だ。


 でもさ、それってどうなの?


「フィリアさん」

「それだと、戦いの時には

 不便じゃないですか?」


「なぜだ? 恐怖がないのだぞ?」


「恐怖もないけど、

 『危機感』もなくなるでしょ?」

「それに、怒りとか高揚感って、

 瞬発力を上げるエネルギーにもなる」


 俺は、スポーツ選手の話を思い出す。

 ゾーンに入った選手は、

 冷静だけど、闘志は燃えてる状態だ。


 感情を全部消して賢者モードになったら、

 いざという時の爆発力がなくなるよなあ。


「……君はどうしたいんだ?」


「俺がやりたいのは、

 『抑制』じゃなくて『選別』です」


 俺は、紙にグラフのような線を描いた。


「恐怖とかパニック。

 これは思考を鈍らせるから、

 限りなくゼロにしたい」

「これを『均す(ならす)』と呼ぼう」


「でも、闘争心や集中力、

 生き残りたいという執着」

「これは消したくない」

「むしろ、高いレベルで維持したい」

「これを『固定ホールド』する」


 フィリアが、ポカンと口を開けた。


「……は?」

「感情を選り分けるだと?」

「そんな器用なこと、できやしないぞ!」


「脳内の信号は、みんな一緒くただ!」

「スープの中から、

 塩味だけ抜くようなもんだ!」


「いや、できるはずだ」


 俺は、フィリアの目を真っ直ぐ見た。


「あんたはさっき、

 『感情を司る領域』って言ったよな」

「脳科学……じゃない、

 魔法医学的に、場所は分かってるの?」


「あ、ああ……」

「大まかにはな」

「前頭葉のあたりで理性を、

 奥のほうで本能を……」


「なら、いける」


 俺の「確認厨」魂がフル回転し始めた。


「全体に麻酔をかけるんじゃなくて、

 『恐怖を感じる回路』だけを

 ピンポイントで遮断する」


「その代わり、

 『アドレナリンが出る回路』は

 全開のままにする」


「そうすれば、心拍数は上がって、

 反応速度はMAXの状態なのに、

 頭の中だけは氷のように冷たい……」


「最強の戦闘マシーンの完成だ」


 フィリアが、サーッと青ざめていく。

 本日二度目のドン引きだ。


「……君は、悪魔か?」

「それは、心を壊すのと紙一重だぞ」


「恐怖だけを感じない兵士なんて、

 歯止めの効かない怪物だ」


「だからこそ、理性は残すんだよ?」

「暴走しないためのストッパーと、

 暴れるためのエンジン」

「それを、魔法で制御するんだ」


 俺はニヤッと笑った。


「これ、成功したら

 すごい発明だと思いません?」

「エルフの『静寂』を超える、

 『動的な静寂』ですよ」


 フィリアは、しばらく呆然としていた。

 やがて、目に狂気じみた光が戻ってきた。


「……くっ」

「くくく……!」


「あはははは!」


 突然の大爆笑。

 ミケがビクッとして、お菓子を落とす。


「最高だ! 君は最高だ!」

「スープから塩を抜く方法を、

 本気でやろうというのか!」


「いいだろう、乗った!」

「私の知識と、君の狂った発想」

「混ぜ合わせたら何ができるか、

 試してみようじゃないか!」


 そこからは、実験と検証の嵐だった。


 フィリアが俺の頭に手を当て、

 微弱な魔力を流す。


 俺は自分の脳内の感覚を、

 リアルタイムで言語化して伝える。


「あ、そこ。そこが『恐怖』です」

「ここを抑えて……」

「いや、抑えすぎ!」

「やる気まで消えてる!」


「うるさいな!

 脳の回路など、髪の毛より細いんだ!」


「もっと繊細に!」

「右、三ミリ奥!」

「そこは『性欲』だバカ!

 今は刺激すんな!」


「知るか!

 紛らわしい場所に持ってる君が悪い!」


 見ていたニナたちが、呆れたような、

 でも少し安心したような顔をしている。


 数時間後。


 俺は、奇妙な感覚の中にいた。


 心臓はバクバクしている。

 体は熱い。


 今すぐにでも走り出したいような、

 有り余るエネルギーを感じる。


 でも、頭の中は

 真空のように静かだった。


 焦りがない。

 不安がない。

「失敗したらどうしよう」という

 雑念が一切ない。


 ただ、「目的」だけが

 クリアに見えている状態。


「……これが、ホールドか」


 俺は、自分の掌を見つめた。


 震えていない。

 完璧に止まっている。


「成功、だな」


 フィリアが、汗だくになりながら

 椅子に崩れ落ちた。


「信じられん……」

「君は本当にやりとげたよ……」


「人間が、エルフの精神魔法を

 アップデートさせるなんて」


 俺は深呼吸をして、魔法を解除した。


 ドッと疲れが押し寄せる。

 これ、反動もすごいな。


 でも、使えるよな。


 これがあれば、

 俺たちの「戦いへの恐怖」を

 コントロールできる。


「怖くて動けない」という

 一番危険な状態を、

 回避させてあげられる。


「フィリアさん、ありがとう」

「これ、みんなにも教えられます?」


「……可能だ」

「だが、訓練は必要だぞ」

「脳をいじるんだ、失敗すれば廃人だ」


「分かってます」

「俺たち、飲み込みは早いんで」


 まあ、いざとなれば揺らぎで治すさ。


 ニナたちが立ち上がる。

 彼女達には、もう迷いはなかった。


「お願いします」

「私、強くなりたいです」


 ニナが頭を下げる。

 サンも、ゴロネも、シキも続く。


 ミケだけは、

「痛くないならやる」

 と言っていたが。


 こうして俺たちは、

 リェンの片隅にあるゴミ屋敷で、


 禁断の「精神ドーピング」を

 手に入れることになった。


 フィリアという、

 最強の共犯者と共に。


 外はもう夜明けだ。

 美しいエルフの街が、

 白く輝き始めている。


 その光が、今の俺には、

 新しい武器の輝きに見えた。

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