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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第26話:知性測定と、俺の屁理屈

「測定の間」に通された。


 そこは、巨大な木の幹を

 くり抜いたドーム状の部屋だった。


 壁一面に、びっしりと

 魔法文字が刻まれている。


 それらが淡い青色の光を放ってて、

 なんかプラネタリウムみたいだ。


 綺麗だけど、

 目がチカチカするな。


 中央には台座があって、

 バスケットボールくらいの

 デカい水晶が置いてある。


 透明度がすげえ。

 これ、地球で売ったらいくらだろ。


 億はくだらないよな……。


 その水晶の横に、

 偉そうなエルフが一人待っていた。


 深い緑のローブを着て、

 長い髭を蓄えている。


 いかにも「長老」とか

「賢者」って感じの爺さんだ。


 でも、目が笑ってない。


 俺たちを見て、

 明らかに品定めしてる目だ。


「私は、試験官のアルニールだ」


 爺さんの声が、部屋中に響く。

 これ、音響効果も計算してるな。

 演出が細かいわ。


「貴殿らの知性を測定させてもらう」

「獣人がこの部屋に入るのは、

 実に数百年ぶりのことだがな」


 いきなり嫌味かよ。

「お前らに理解できるのか?」って

 顔に書いてあるぞ。


 サンがムッとして拳を握る。

 ミケは「あいつ嫌い」って顔で

 あからさまにそっぽを向いた。

 ニナは不安そうに俺を見てる。


 ニナの背中をポンと叩いて、前に出た。


「どうも。遠い国から来たブンペイです」

「で、何をすればいいんです?」


「水晶に手を触れ、問いに答えるのだ」

「貴殿の理解の深さに応じ、

 水晶が輝き、色を変える」


 なるほど、嘘発見器の

 ファンタジー版ってところかね。


 あるいは、思考読み取り装置とか?


 俺は言われた通り、水晶に手を置いた。

 お、ひんやりして気持ちいいな。


 直後、微かな振動が伝わってきた。

 頭の中に、直接ノイズが走る感じ。

 うわ、気持ち悪っ。


「では、第一の問いだ」


 アルニールが、

 朗々と歌うように問いかける。


「魔法とは何か。答えよ」


 出たよ、抽象的な質問。

 就活の面接かよ。


「あなたにとって仕事とは?」

 みたいなダルいやつだ。


 アルニールは、

 勝ち誇ったように続けてくる。


「魔法とは、精霊との対話」

「万物に宿る精霊の力を借り、

 世界の調和を形にする芸術」

「それが、我らエルフの定義だ」


 答え言っちゃってんじゃん。


 それを復唱しろってこと?

 宗教の踏み絵みたいだなあ。


 でもさ、俺にはそう見えないんだよね。

 嘘も面倒だし、正直に答えてみるかな。


「……魔法、ねえ」


 俺はポリポリと頬を掻いた。


「俺の国だと、

 そういう教え方しないんですよね」


「……何?」


「精霊とか、芸術とか、

 そういうフワッとしたんじゃなくて」

「もっと理論っていうか」


 俺は水晶を見つめながら、

 高校の物理と化学の授業を思い出す。


「魔法って、要するに

 エネルギー変換ですよね?」


「えねるぎー……?」


 アルニールが眉をひそめた。

 お、通じてない。


「例えば、火を出す魔法」

「あんた達は精霊がどうとか言うけど、

 あれって結局、

 燃焼反応を起こしてるだけですよね?」


「空間にある酸素と、

 燃えやすいガスか何かを集めて、

 そこにきっかけの熱を与える」

「酸化反応の連鎖。

 それが『火魔法』の正体じゃないかな」


 アルニールの顔が引きつる。


「何を……出鱈目を!」

「火は、火の精霊の怒りだ!」


「いやいや、怒りって」

「感情で火がついたら火事だらけでしょ」


 俺は苦笑いする。


「水魔法だってそうですよ?」

「空気中の水分を集めてるか、

 あるいは水素と酸素を結合させてるか」

「どっちにしろ、

 分子レベルの操作をしてるだけ」


「分子……?」


「物質の、すげー小さい粒のことです」

「魔法文字は、その粒を動かすために

 指示する為の言葉でしょ?」


 その瞬間。

 水晶が、ブォン!と音を立てた。


 青白かった光が急激に強くなる。

 色が目まぐるしく変わる。

 赤、黄、緑、そして白へ。


 部屋中の魔法文字が、

 それに呼応して明滅し始めた。


「な、なんだ!?」


 アルニールが狼狽える。


 俺もビックリだ。

 え、壊した?

 弁償とか言わないでよ?


 水晶を通して、

 俺の頭の中のイメージが

 吸い取られていく感じがする。


 原子模型とか、化学式とか。

 そういうのが流れ込んでるのか?


「で、では第二の問いだ!」


 アルニールが、

 慌てて体勢を立て直す。

 声が裏返ってるぞ、爺さん。


「魔法の『射程』とは何か!」

「なぜ、魔法は術者の見える範囲

 にしか発現しないのだ!」


「視界こそが、

 精霊と繋がる道だからだ!」

「見えぬものに、祈りは届かぬ!」


 ああ、また精神論だ。


 この人たち、本当に

「見える範囲」でしか

 魔法使ったことないんだな。


 もったいない。

 Wi-Fiだって壁越えるのにな。


「それ、思い込みですよ」


 俺はキッパリ言った。


「見えないと使えないのは、

 あんた達の脳が

 『視覚情報』に頼ってるからです」

「座標さえ分かれば、

 壁の向こうだって出せるはずだ」


「例えば、この部屋の外」

「距離と方向、高さ」

「X、Y、Zの座標軸を指定してやれば、

 見えなくたって

 そこに火でも水でも出せる」


「座標……?

 エックス……ワイ……?」


「位置を示す数字です」

「数字は嘘をつかないし、

 見間違いもしない」

「目より、ずっと確実ですよ」


 水晶の輝きがさらに強くなる。

 もう直視できないレベルだ。


 ビキビキ、と

 嫌な音が聞こえ始めた。


「最後だ! 最後の問いだ!」


 アルニールが叫ぶ。

 もう顔色が青白い。

 ……止めた方が良くない?、これ。


「魔法を『殺生』に使うことを、

 精霊が許さぬのはなぜだ!」

「我らが攻撃魔法を持たぬのは、

 それが精霊への冒涜だからだ!」


「……はあ」


 俺はため息をついた。

 そこが一番、ズレてるんだよな。


「冒涜とか、許さないとか、

 そういう道徳的な話じゃないと思います」


「ただ単に、

 効率が悪いからじゃないですか?」


「……効率?」


「ええ。ドカンと爆発させたり、

 カマイタチで切ったり」

「派手な魔法は、

 エネルギーの無駄が多い」


 俺は、さっき外で考えた

「悪い想像」をそのまま口にした。


「殺すだけなら、

 もっと楽な方法がありますよ」


「例えば、ターゲットの肺の中」

「その空間座標を指定して、

 コップ一杯の『水』を出す」


「水魔法は、恵みの魔法なんでしょ?」

「でも、肺の中に水が出れば、

 人は簡単に溺れて死にます」

「外傷もないし、防御もできない」


 アルニールが、

 パクパクと口を開閉させている。

 声が出てない。


「あるいは、脳の血管」

「そこに小さい火種を一個、

 ピンポイントで発生させる」

「プチッと血管が切れて、

 一瞬で終わりです」


「現象は、ただの現象」

「そこに善も悪もない」

「使い方がエグいかどうか、

 それだけのことですよ」


 俺が言い終わった瞬間。


 パキンッ!!


 乾いた音が響き渡り、

 目の前の水晶に亀裂が走った。


 光が一瞬で消える。

 部屋が、元の薄暗さに戻る。


 シーンとした静寂。

 誰も動かない。


 アルニール爺さんは、

 腰が抜けたのかへたり込んでいる。


「……あらあ」


 やっぱ割れたよ。

 これ絶対高いやつじゃん。


「あの、弁償できませんけど?」


 俺が恐る恐る聞くと、

 アルニールは震える指で

 俺を指差した。


「……化け物だ」

「貴殿の思考は……

 精霊の理を凌駕している……」

「恐ろしい……」


 怯えられてるよ。

 いや、俺ただの大学生ですけど。

 受験勉強で詰め込んだ知識を

 喋っただけなんですけど。


 後ろを振り返ると、

 仲間たちの反応も様々だった。


 サンは「すげー」って顔で

 口を開けてる。


 ゴロネは「さすが私の旦那様!」

 みたいなキラキラした目だ。


 シキは、俺の話を

 全部理解したわけじゃないだろうけど、

「恐ろしい真実を聞いた」って顔で

 青ざめつつも、メモを取ろうとしてる。


 ミケだけが、

「ブンペイ、性格わるーい」

 ってニヤニヤしてた。


 ……あいつ、絶対面白がってるな。


 そしてニナは。

 俺の手を、ぎゅっと握りしめてきた。


「……ブンペイさん」

「貴方は、知ってたんですね」

「魔法が、ただの奇跡じゃないって」


「まあな」

「夢がなくてゴメンな」


「いいえ」


 ニナは首を振った。


「その知識が、

 私たちを守ってくれるなら」

「私は、それが知りたいです」


 ……健気だなあ。

 こんなエグい話をした後でも、

 ついてきてくれるのか。


「測定は、終わりでいいですか?」


 俺はアルニールに聞いた。


 爺さんはコクコクと何度も頷いた。

 早く出て行ってくれ、

 と言わんばかりだ。


 とりあえず、

 入国許可は下りたっぽい。


 リェンの美しい静寂。


 その裏側にある「思考停止」を、

 俺の屁理屈が

 ちょっとだけ壊しちゃったかな。


 まあ、いい薬だろ。


 俺たちは、

 ひび割れた水晶を残して、

「測定の間」を後にした。


 あー、弁償しろって言われなくて

 本当に良かったわ。

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