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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第25話:リェン森林都市、美しき停滞

フロウムの街を出てから、

俺たちは北へと進路を取った。


街道を歩くこと数日。

目の前の景色を塗り潰すように、

巨大な巨木の群れが現れた。


ここがエルフの街、リェン。


入り口に立った瞬間、

空気が変わったのが分かった。


なんていうか、澄みすぎてる。


空気が美味い通り越して、

肺がビックリしてる感じだ。


街っていうか、

これデカい生き物みたいだな。


何千年もかけて育てられた巨木。

その一本一本が、

家であり、道であり、広場になってる。


枝の間には、

細かな細工の吊り橋が、

蜘蛛の巣みたいに張り巡らされてる。


そこを、青白い光を放つ

蝶みたいなのが飛んでる。


……精霊かな?

なんかもう、時間の流れが違うわ。


「なんて、きれい」


ニナが、祈るように呟いた。

その目は、確かに感動してる。


でもそれ以上に、

なんかすげービビってるな。


まあ、気持ちは分かるわ。


ずっと奴隷として扱われてきて、

急にこんな「完璧な場所」に来たらさ。


自分たちじゃ、

「ここに来ちゃダメだ」って

言われてる気分になるよな。


俺だって、

高級ホテルのラウンジとか

ちょっと緊張するし。


それのすげー版だもんな。


ニナは俺のシャツの袖を、

指先が白くなるほど強く握りしめた。


震えているのが、布越しに伝わる。

俺はそっと、その手に手を重ねる。


大丈夫だよ、俺も似たようなもんだ。

そう伝えるために。


サンは無意識に銃を握り直し、

ゴロネはキョロキョロして

落ち着かない様子だ。


シキは耳を伏せてる。

この静かすぎる空気が、

逆にプレッシャーなんだろうな。


ミケだけが、

尻尾をぴんと立てて巨木を見上げている。

だが、その瞳にいつもの奔放さはない。


野生の勘ってやつかな。

この街の「異常さ」を感じてるんだと思う。


「……なんか、落ち着かない」


「うん、分かるよ」

「綺麗すぎて、逆に怖いよな」


俺たちは、入り口にある

「光の門」の前で足を止める。


そこには、二人のエルフが立っていた。


透き通るような白い肌だ。

月光を紡いだような銀の髪。

そして、天を刺すような尖った耳。


彼らの着てる鎧、金属じゃないな。

生きた木を魔法で硬くしたやつか。

腰には、細身の曲刀を差してる。


ていうかさ、顔面偏差値が高すぎ。


モデル並みの美男美女しかいないとか、

日本の大学生にはプレッシャーだな。


横に並びたくない人種No1だわ。


「……止まれ」


一人の門番が手をかざした。


声まですげー綺麗なんだけど、

全然心がこもってない。


「獣人の同行は、許可されない」

「リェンは静寂を愛する者の聖域だ」


……冷たいねえ。


ガルドの役人は「見下す」感じだったけど、

こっちは「興味すらない」って感じ。

道端の石ころを見るような目だ。


「そう言わずにさ」


俺は、努めて軽い調子で一歩前に出た。


ここで怒ったら負けだ。

あくまで「話の通じない田舎者」を装う。


「遠い国からの行商なんだ」

「珍しい針や、刃物もあるよ」

「ほら、これとか凄くない?」


「……鉄か」


門番は俺のリュックをチラッと見て、

すぐに興味をなくして鼻を鳴らした。


まるで汚物でも見たような目だ。


「リェンに鉄の道具は不要だ」

「我々は魔法という至高の術を持つ」


「……魔法、ね」

「至高、ですか」


俺は、彼らの背後にある

広場に目をやった。


そこでは、数人のエルフが

日常の家事を魔法でこなしていた。


一人の若い奥さんが、

両手から水を出しながら、

洗濯物を洗っている。


水が生き物のように布の間を抜け、

どんどんと汚れを吸い取っていく。


また別の場所では、

子供たちが指先から火の粉を出し、

空中に光の模様を描いて遊んでいた。


綺麗だなあ。確かに芸術的だわ。

CGなんか目じゃないリアルさだ。


だが、俺は別なことが気になる。


俺の悪い癖だ。

どうしても「仕組み」を考えちまう。


もし、あの「水魔法」を、

相手の肺で発動させたらどうなる?


イメージするのは、コップ一杯の水だ。

それを、気管支の奥に直接だしたら?


ターゲットは、外傷一つなく、

陸の上で溺死することになる。


……怖いわ! 怖すぎるよなあ。

そんな死に方、絶対嫌だぞ。


風も土も火魔法もさ。


指先に出すのではなく、

脳内の血管の一点を指定して、

火を出せばどうなる?

土魔法で血管に石を出したら?


瞬時に脳出血や脳梗塞を引き起こし、

相手は何が起きたか理解する間もなく

死んじゃうだろうにな。


考えただけで鳥肌が立つ。


俺、いま凄くエグいこと考えてるな。

平和ボケした大学生の発想じゃないわ。


でも、理屈では可能だよな。

座標指定さえ正確に行えれば、

それは究極の暗器になる。


だが、門番は誇らしげにこう言った。


「魔法は心を豊かにし、」

「世界を美しく整えるためのものだ」

「君たち人間には理解できまい」


……ああ、おめでたいな。

この人たち、本当に知らないんだ。


平和という名のぬるま湯に、

何千年も浸かり続けた結果か。


魔法が「美学」になっちゃってて、

「効率的な武器」として

研究する発想が完全に抜けてる。


包丁を「美しい飾り」だと思って、

「これで肉が切れる」って知らない感じ。


ある意味、幸せなことなのかもな。


「……想像したこともないんだな」


俺は、独り言のように小さく呟いた。

呆れ半分、羨ましさ半分だ。


「何をだ?」


門番が、怪訝そうに眉を寄せる。


「いや、こっちの話だよ」

「文化の違いって面白いなあって」


俺はニナたちの肩を軽く叩いた。


彼女たちの強張った体を、

少しでも解きほぐすために。

大丈夫、俺がついてる。


「知性測定、ってのをすれば」

「入れるんだろ? やってやろうよ」


門番は、侮蔑を隠そうともせずに

冷たく笑った。


「……いいだろう」

「無知を知るのも、修行のうちだ」


俺たちは門をくぐり、

巨大な木の幹の中にある

「測定の間」へと案内された。


そこは、壁一面に

魔法文字が刻まれた円形の部屋だった。


中央には、巨大な水晶。

いかにも「ファンタジー」って場所だね。


ブンペイはこう思っていた。


エルフの魔法体系。

その基礎を、全て勉強させてもらおう。


そして、地球の物理学と解剖学を

掛け合わせたらどうなるのだろうかと。


彼らが、いや、俺も夢にも見なかった

「劇薬」ができちゃったらどうしよう?


……まあ、使うかどうかは別として。

検証はしてみたいなあって。

確認厨の血が騒ぐってやつだな。


ニナが、不安そうに俺を見上げてくる。

俺は、彼女の指をそっと握り返し、

耳元で囁いた。


「大丈夫だよ」

「あいつらが、どれだけ頭が固いか」

「これから教えてやるからさ」

「俺たちの方が、ずっと頭柔らかいぞ」


ブンペイの瞳の奥で、

「確認厨」の火が灯った。


この美しいリェンの静寂。


それを、俺達の知性という名のノイズで

徹底的にかき乱してやる。


一歩。俺は水晶の前へと踏み出した。

この世界の「常識」を、

日本の大学生がひっくり返す番だ。 

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