第18話:役割を渡すってこと
揺らぎの中で、
俺は棚を見ながら腕を組んでいた。
「……うん」
口に出すほどでもないけど、
そろそろだな、って思うんだよ。
フロウムも見た、市場も回った。
人の匂いも、街の空気も分かった。
次にやることは、一人じゃない。
みんなで外に出る、だよな?
「ちょっと集まってもらっていい?」
声をかけると、
反応はそれぞれだった。
ミケは棚の上から顔だけ出して、
ニナはすぐに姿勢を正して、
サンは「はーい」と軽く返事。
ゴロネは寝転んだまま手を振って、
シキは、何も言わずこっちを見ている。
「今日は、」
俺は、少し言葉を探す。
「一緒に外に出る前に、
ちゃんと準備しようと思って」
誰も口を挟まない。
でも、全員ちゃんと聞いてる。
「守るとか、守られるとかじゃなくて」
「……チームとして、ね」
この言い方をした瞬間、
空気が、少し変わったんだ。
「仕事、って言うと変だけどさ」
「俺を手伝ってくれない?」
「その代わり」
俺は、一拍置いて言った。
「飯も、寝る場所も、装備も」
「全部、“対価”として渡す」
「施しじゃない、飼うわけでもない」
「一緒にやった結果として、だ」
一瞬の沈黙。
最初に反応したのは、ニナだった。
「……命令、ではないんですね」
「うん、お願いだよ」
ニナは、小さく頷いた。
「分かりました」
「お願い、聞いてあげます」
サンは、にっと笑う。
「じゃあさ」
「あたしの役割、ある?」
「あるある」
俺は棚を開ける。
中に並んでいるのは、
明らかにこの世界の物じゃない装備。
俺でも屈強な獣人を殺せた武器。
まず、シキ。
「えっと……」
俺は一瞬迷ってから、
AA12フルオートショットガンを出す。
「これ」
シキは受け取って、
重さを確かめるみたいに持ち上げた。
「……重いですね」
「でも、扱えるだろ?」
試射。
轟音が響き、的が消し飛んだ。
「……」
一拍遅れて、
シキの口角が、ゆっくり上がる。
「……すごい」
もう一発。
「……すごいですね」
最後はフルオートの轟音が響いた。
「……これ」
声が、少し高い。
「最高で最強で最悪で大好き……」
俺は若干引き気味に言う。
「テ、テンション上がりすぎな」
「落ち着け、ゆっくり息を吸え」
「はい」
と言いつつ、
目が全然落ち着いてないんだよ。
シキに手榴弾も渡す。
……大丈夫だよな?
案の定、揺らぎの外で投げて、
爆発をみたシキは目がキマッてる。
「いいか、これは勝手に投げるな」
「使う時は、必ず俺かニナに言え」
「……分かってますよ」
分かってる顔じゃあ、ないんだよね。
今までの反動だろうなあ。
尊厳を奪われてきた分、
火力で取り返そうとしてる。
危ないけど、理由はちゃんと分かる。
だから、力で他人の尊厳は奪わない。
次はニナ。
M27 RWK。
海兵隊の制式小銃、
その短銃身バージョンだ。
ニナには、指揮官役を頼みたい。
だから軽くて取り回しも良いコイツだ。
ニナの指揮官役。
奴隷だった頃、判断する役割は、
いつも他人のものだったろう。
「考えるな」「動け」「従え」
それだけで、生きてきたはずだ。
でも、どこを見るか、誰を守るか、
彼女自身が決めていい役割だ。
——間違えたら、責任は自分。
重さを理解して、それでも逃げなかった。
「任されるって、怖いけど嬉しい」
その声は、静かだけど、芯があった。
サン。
M27 IARと、RPG。
海兵隊の分隊支援火器と、
皆大好きなロシア製のニクイ奴。
替えの弾頭や弾薬入れると、
チームで一番重量があるのがサンだ。
「重くない?」と聞く前に、
普通に担いでた。
「これ、反動あります?」
「あるけど」
「まあ、大丈夫です」
実際、大丈夫だった。
反動を腕力でねじ伏せてる。
サンは武器の重さを確かめながら、
少しだけ、不思議そうな顔だ。
奴隷だった頃、
力は「使われるもの」だった。
言われたことをやる、それだけ。
でも今は、
「頼まれて」この重さを背負っている。
「……変なの」
そう言って、ニカッと笑う。
「でも、嫌じゃないです」
その一言が、彼女の答えだった。
ゴロネ。
M110A1 SDMR
7.62mm弾を使う狙撃銃だ。
有効射程は1000mまである。
「これ、遠く当たる?」
「当たるよ」
「じゃあやるよー」
軽いなあ。
でも一発目で、ちゃんと当てる。
ゴロネは、しばらく黙っていた。
当たった。
ちゃんと、自分の意思で撃って。
奴隷だった頃、
成功も失敗も、意味はなかった。
どちらも、私の物では無かったから。
でも今は違う、当たったのは、
自分が選んで撃ったからだ。
「……あれ?」
その小さな戸惑いは、
初めて“結果を自分のものにした”感覚だった。
最後、ミケ。
P90。
日本の小説で、とにかく人気の奴
軽くて50連発、音も静か。
「軽い、静か、走りやすい」
「前、行っていい?」
「行きすぎるなよ、
あと『にゃ』を付けなさい」
「分かってる」
「つけない」
ミケは武器よりも先に、
周囲の出口と影を見ていた。
奴隷だった頃も、
危険を嗅ぎ取るのは得意だった。
でも今は、逃げるためじゃなく、
みんなに知らせるために動く。
「……ねえ」
「ミケ、こういうの好き」
それは、誰かの命令じゃない、
彼女自身で選択した役割だった。
揺らぎ内で模擬戦。
結果。
背後取る。
カバー入る。
火力分担できてる。
回復も問題なし。
俺は、正直ちょっと引いた。
「……強すぎない?」
誰もヒーローぶらない。
誰も無茶しない。
ただ、生き残る動きをしてる。
シキは楽しそうで、
ニナは冷静で、
サンは頼もしくて、
ゴロネは集中してて、
ミケは自由だ。
俺は深呼吸して言った。
「これは仕事だ、命懸けの」
「だから、報酬はちゃんと払いたい」
でもなあ、
生活面や衣服とかは、連れてきて、
自由って毒を教えてしまった俺の責任。
命がけの”報酬”って何かな。
俺も実際わからないんだよ。
やりたい事があったら応援する。
やりたい事を一緒に見つける。
……命懸けるには足りないよな。
「一緒に生きるだけでいい」
ミケが急に大人びたことを言う。
そして、誰も反論しなかったんだ。
軽い訓練を始める。
構え方、合図、距離感。
本当に基礎だけ。
それでも、
全員の顔が変わっていく。
奴隷が“やらされている動き”じゃない。
チームとして“任された動き”。
休憩中、シキが息を弾ませて言った。
「……楽しいですねえ」
「お前、怖いわ」
「初めてなんです」
「何かを奪われない為の力を持つのが」
ニナはメモを取りながら静かに言った。
「仕事って、こういう感覚なんですね」
サンは汗を拭いて笑う。
「疲れます」
「でも、嫌じゃない」
ゴロネは的を指差した。
「次は、もっと遠くで」
ミケは俺の肩に乗って、
満足そうに喉を鳴らす。
「ミケ、役に立つ」
「立ってるから、にゃを付けてよ」
「いや」
俺は全員を見る。
強い、チートだわ。
でも、それ以上に——
「……居場所、だな」
施される側じゃない。
選んで、選ばれて、ここにいる。
それが、尊厳だ。
「よし、次は外だ!」
誰も、怖がらなかった。
もう、
戻れないのを知っているから。




