閑話:皆の覚悟と、甘やかされる猫とおかしなブンペイ
朝の揺らぎは、わりと平和だった。
昨日の空気が嘘みたいに、
サンは台所で動き回っている。
ゴロネは椅子に逆向きに座って
脚をぶらぶらさせている。
お前は子供か!
「おはようございます、ブンペイさん!」
ゴロネは元気がいいな。
元気すぎて、何も考えてなさそうな。
「おはよう、よく寝られた?」
彼女は、椅子から降りて俺の前に立つ。
「私は旦那様といたいです」
「お腹いっぱいで、屋根があって、
怖い人がいなくて寝られたのも」
「こうして選ぶっていうのも初めて」
「全部、旦那様がくれたの」
「だから私も全部あげたいの」
なんかゴロネらしいな。
俺は照れずに、逃げずに言う。
「うん、じゃあ貰うわ」
彼女はお日さまみたいに笑った。
「ねえねえ旦那さま」
「今日も外行くんでしょ?」
「まだわかんないけどね」
「……ていうか、その呼び方やめろよ」
「えー、じゃあブンペイさん!」
即切り替える、この子の強さだ。
俺には無いものだから、眩しいな。
サンは少し離れたところで、
包丁を拭きながら様子を見ていた。
「サンは何かある?」
「私は……」
一瞬だけ言葉を探して、それから笑う。
「考えるの、やっぱり苦手です」
あら、昨日と同じ結論だ。
「だから、分かる人のそばにいるって、
それを自分で決めました」
「それで後悔しないかい?」
「しません」
即答だった。
「間違えたら、その時考えます」
「それも、自由なんですよね?」
ああ、ちゃんと考えてる。
理解の仕方は人それぞれだ。
「……うん、そうだよ」
俺が頷くと、
サンは少しだけ安心した顔をした。
そこへ、棚の上から声。
「ねー」
ミケだ。
丸まって、こっちを見下ろしている。
「なに?」
「今日は、外、いかないの?」
「今日は行かないかな」
「多分な」
「ふーん」
興味なさそうに言って、
次の瞬間、俺の肩に飛び降りてきた。
「重いぞ」
「うそ」
耳が、ぴこぴこ動く。
……くそ、可愛い。
「ミケは、ここがいい」
「そりゃどうも」
「ごはんあって」
「寝るところあって」
「ブンペイいて」
それだけ言って、
俺の肩に顎を乗せる。
完全に、居場所認定だ。
「……お前なあ」
頭を撫でると、
喉を鳴らして目を細めた。
サンとゴロネが、それを見て笑う。
「ミケちゃん、甘えん坊ですね」
「猫だもん!」
まあ、いいよな、今はそれで。
誰もが完璧じゃないし、
覚悟の形も違う。
でも、ここに戻ってきて、
飯を食って、文句言って、
笑っていられる。
それだけで、今は十分だ。
「……さてさて」
俺は肩の重みを感じながら、
少し先のことを考えてた。
外に出る日も、近いな。
今度は、全員で行こう。
でも今日は、
このままでもいい。
ミケの耳をもう一度撫でて、
俺はこう言った。
「なぁミケ?」
「ん?」
「なにか言った後は『にゃ』を付けて」
「……何?」
「そこは『何にゃ』だ! カモーン!」
ミケは逃げた。




