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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第17話:自由という毒と、選んだ夜

 夜は静かだな。

 揺らぎの中は、相変わらず音が少ない。


 昼間の出来事が、

 なぜか頭の奥で何度も再生される。


 ニナが泣いたこと。

 サンが黙って支えていたこと。


 ミケが、よく分からないまま、

 背中に寄りかかってきたこと。


「……ふう」


 ため息が、勝手に出る。


 正直に言うと、俺はこういう空気が苦手。

 上手くさばける程、女性には慣れてないし。


 正解がないんだよなあ。

 でも、何かを選ばなきゃいけない。

 そういうやつは、あんまり経験ないし。


 扉をノックする音がした。

 控えめで、でも迷いのない音。


「どうぞ、開いてる」


 扉の向こうにいたのは、シキだった。


 昼間より、ずっと落ち着いた顔で。

 でも目だけは、やけに視線が熱いんだ。


「貴方に、言いたいことがあります」


「なに? まあ、入んなよ」


 雑な聞き方だな、と自分でも思う。

 でも、今の俺にはこれが精一杯だった。


 シキは一瞬だけ考えてから、

 入り口に鍵をかけて入ってきた。


 真直ぐこっちを見る、熱い目のままで。

 シキはゆっくり口を開いた。


「自由って、権利ですよね」


「……うん?」


「選べる権利、考える権利、断る権利」


 淡々としている。

 でも、言葉の一つ一つが重い。


「でもそれって、守ってもらえない、

 ってことでもありますよね?」


 俺は何も言えなかった。


「自分で考えて、自分で選んで」

「そして、自分で責任を取る」


「それが、自由ですよね」


「……まあ、そうだね」


 シキは続ける。


「私は、弱いって思われてました」

「自分でも、そうだと思ってました」


「生きるには、頭を下げるしかない」

「でも、嫌じゃなかったんです」

「それ以外を知らなかったから」


 奴隷だった頃の話だな。

 生き残るための、現実的な選択。

 いや、選択する事すら知らなかったんだ。


「でも」


 そこで、声が少しだけ変わった。


「自由を知っちゃったんです」


 空気が、少し熱くなった気がした。


「選んでいいって」

「尊厳があるって」

「考えていいって」


「……すごく、素敵でした」


 シキは、少女のように小さく笑う。


「同時に、毒でもありましたけど」


 その言い方が、やけに刺さる。


「もう、戻れないんです」

「知らなかった自分には」


「自由を知らなければ」

「多分、奴隷でまた生きていけた」


「でも今は」

「尊厳を捨てて生きるか」

「尊厳を守って死ぬか、しかない」


 はっきり言い切る。


「一人で、この世界を生きるのは」

「正直、私には無理です」


 そこで、俺を見る。


「だから、貴方なんです」


「……え?」


「ブンペイさんなら」

「私の考えを、尊重する」


「尊厳を踏みにじらない」

「生活も、放り出さない」


 一拍置いて、続けた。


「それに」


「自由っていう、

 とても素敵な毒を舐めさせたのは」


「あなたですから」


 その夜、

 俺たちは同じ部屋で過ごした。


 言葉は多くはなかった。

 でも、選んだことだけは確かだった。


 ——それは、シキが俺を選んだ夜だった。




 翌朝。


 揺らぎの中の空気が、

 少しだけ、よそよそしい。


 気づいてないわけがないよな。

 ニナは、明らかに落ち込んでいる。


 サンは様子をうかがってるし、

 ゴロネは、いつにも増して、やけに軽い。


 ミケだけが、何も気にせずに、

 棚の上でごろごろしていた。


 その沈黙を、ミケが破った。


「ねーねー、シキ」


「なに?」


「どーして昨日はブンペイと寝てたの?」


 ピシッと空気が音をたてた気がした。

 空気は読まねえ、さすが猫だね。


 ニナは明らかに動揺してる。

 それを見たシキは若干怒った顔だ。


 シキは真直ぐにニナを見ながら言う。


「……ねえ」


 語気が、少し荒い。


「惚れた男と寝て」

「何が悪いの?」


 ニナの肩が、びくっと揺れた。


「生まれて初めて、好きって何か知って」

「好きだから好きって言って」

「接待以外で初めて抱いてもらって」


「それで、何が悪いの?」


 逃げ場のない言葉だった。


「……あんたも、いやあんた達も」


 シキは、ニナと周りを見る。


「ブンペイが好きなら」

「とっとと抱かれればいいじゃない」


 空気が、凍る。


「私たち、あの村で何もかも奪われてて」

「奪われてる事すらも、知らなくて」


「生きたくて、ぺこぺこして」

「それでも、死にかけて」


「なのに、今は自由よね?」


 声が強くなる。


「でもさ、それが明日もあるって」

「どうして思えるの?」


「奴隷から自由になれた」

「次は自由から奴隷にもなるかもよ」


 誰も答えない。


「私は、また奴隷に戻るなら」

「尊厳と自由のために」

「勝てなくても、戦って死ぬわ」


 静かだった。


「でも」


「惚れた男に、抱かれずに死ぬのは」

「もっと、嫌よ」


 誰も、否定しなかった。

 正解も、出なかった。


 ただ、

 逃げられない問いだけが残る。


 俺は、頭を掻く。


「……あー」


 相変わらず、

 格好いい言葉なんて出てこない。


 でも、これは分かってる。


 誰かを選ぶ自由も、

 選ばない自由も、

 ここにはある。


 ただし。


 『 選ばなかった結果』だけは、

 誰も肩代わりしてくれない。


 その夜、

 揺らぎの中は、いつもより静かだった。


 正解なんて、誰も言わない。


 でも。


 自由って毒を舐めた以上、

 もう、知らなかった頃には戻れない。


 俺自身も、自由が毒になるなんて、

 シキに教わるまで知らなかった。


 でも、俺は毒を舐めさせたんだ。

 それだけは、確かだ。


 だから、俺は逃げないで、

 彼女たちの選択を受け止める。


 それが俺の選択なんだ。

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