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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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第16話:戻る場所と、泣いていい理由

揺らぎを開いて中に入ると、

 店の空気がなんだか暖かいな。


 静かで、少し暖かくて、

 本当の意味で無防備になれる感じ。


「……ただいま」


 誰に言うでもなく、そう呟く。


 奥から足音がして、

 一番に顔を出したのはミケだった。


「あ、ブンペイだ」


 そう言って、

 なぜか俺の方を一周してから止まる。


「……何してんの?」


「確認」


「何を?」


「生きてるかどうか」


 意味は分からないが、

 表情はやけに満足そうだ。


 昨日まで、動くための許可を

 探してたのと同じ子とは思えない。


「くすぐったい、勝手に触んなよ」


「いいじゃん」


 耳がぴくっと動いた。


 ……あーもう、猫耳って反則だよな。

 正直、可愛いぞチクショウ。


「やっぱ猫は自由だなあ」


 思わず言うと、ミケは首を傾げる。


「猫? 自由?」


「うん」


「よく分かんない」


 でも、一番自由を体現してる。

 それが、ちょっと羨ましい。


「まあ、楽しそうならいいや」


 俺がそう言うと、

 ミケは勝手に納得したらしく、

 そのまま棚の上に座った。


 ミケ、……ほんとに自由だな。


 

 奥の方から、ニナが出てきた。


 姿勢がいいな。

 背筋が、やたらと真っ直ぐだぞ。


「お帰りなさい」


「うん、ただいま」


 それだけのやり取りなのに、

 ニナは少し緊張している。


 目が真面目で、ちょっと怖いんだけど。


「何か、変わったことは?」


「えっと……」


 俺が考えていると、ミケが割り込んだ。


「パン、勝手に食べた」


「……食べていいって言ったしな」


「あと、寝た」


「それもいいんだよ」


「あと、走った」


「……危ないとこは行くなよ?」


「行ってない」


 本当かどうかは怪しいが、

 とりあえず信じておく。


 ニナは、そのやり取りをじっと見てる。


 理解しようとしている顔。

 理解しなきゃ、と思っている顔だ。


「……ミケは、自由ですね?」


「ほんとにそうだよな」


 俺が返すと、

 ニナは少し困ったように笑う。


「本当は、まだよく分かりません」


 その声が、少しだけ重い。


「何のこと?」


「……あなたの言う、自由です」


 ああ、そこがまだか。


 ニナは続ける。


「考えても、正解が見えなくて」


「間違えたら、いけない気がして」


 その時点で、

 もう十分苦しんでるのが分かる。


「ねえ、ニナ」


 俺は言葉を探しながら、

 ゆっくり口を開く。


「正解とか、分からなくていいんだよ」


「でも……」


「うん、分かるよ」


 分かる、という言葉に

 ニナの目が少し揺れる。


「俺も、自由ってよく分かってない」


「……え?」


「いや、ほんと」


 俺は頭を掻いた。


「上手く言えないんだけどさ」


 ここで格好つけたら、

 多分、ニナには届かない。


「ニナが、死んだ子のことで」


「泣いていいのが、自由だと思う」


 一瞬、

 時間が止まったみたいになった。


 ニナの表情が、

 ぱきっと音を立てて崩れる。


 唇が震えて、息が詰まって、

 次の瞬間、

 大粒の涙が、ぽろぽろ落ちた。


「うえ? ど、どうしよう……」

 

 俺は完全に固まる。

 どうしようパニックだ。


 俺、慰め方なんて知らないぞ。

 人生でそんなカッコいい場面、

 今までなかったよ。


 ニナは声を上げずに泣いている。


 肩が揺れて、

 呼吸がうまくできてない。


「……あ、えっと」


 俺は近づいて、彼女を見たんだ。

 意を決して、そっと腕を伸ばす。


 ぎこちないハグだ。

 

 正解かどうかも分からない。

 でも、逃げるのは違うよな。


 ニナは一瞬驚き、それから力が抜けた。


 背中にサンの手も添えられる。

 サンは黙ってニナを支えている。


 しばらく、そのままだった。


 時間の感覚が、

 揺らぎみたいに曖昧になる。


 やがて、ニナの泣き声が落ち着く。


「……ごめんなさい」


「いや、謝らなくてもいいんだ」


 それだけは、即答できた。


 気まずい空気の中、俺はサンを見る。


「サンは……何か分かった?」


 サンは、にっと笑った。


「私は、考えるの苦手!」


 即答だ。


「だから、ニナちゃんと」

「ブンペイさんと、ずっといます!」


 あまりにも迷いがなくて、

 逆に言葉が出なかった。


「あ、そうなんだ」


 一拍置いて、


「……うん、一緒でいいよ」


 それ以上は何も言わなかった。


 約束もしない、拒否もしない。

 ただ、言葉を受け取る。


 ミケはその様子を見て、

 俺の背中に寄りかかっていた。


「ねえ」


「どうした?」


「ミケはここ、好き」


「……そりゃどうも」


 俺は天井を見る。


 さっきまで色々あったはずなのに、

 今は妙に静かだな。


 完璧じゃないし正解も分からない。


 でも、ここが戻る場所だってことは、

 なんとなく分かるんだ。


「……まあ、なんとかなるかな」


 誰に向けた言葉でもなく、

 そう呟いたんだ。

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