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事故死したので異世界に転移しますが、管理者のミスなのでアメリカの店ごと持っていくことにしました  作者: だい


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 第15話:フロウムの市場と、ほどほどの俺

 朝、目が覚めたら知らない天井だ。


 でもこりゃ病院の天井じゃないな。

 隣の部屋の声が、普通に聞こえるわ。


 揺らぎ帰ろうと思って寝ちまったな。

 マットも敷いてないし、体バキバキ。


「……意外と疲れてるわ」


 ぼそっとひとり言を呟く。

 寝たはずなのに、頭が重い。

 たぶん、昨日の匂いがまだいるな。


 七時を揺らぎで迎えれば、楽だけどね。

 でも、今日はやめとく。


 昨日の気持ち悪さが残ってる。

 こういうのってたぶん大事だから。


 顔を洗って、髪を撫でる。

 鏡の俺は、まあ、いつもの俺。

 

 英雄でも悪党でもない、ただの大学生。

 大学生って言っても、誰も分かんないか。


 宿の飯は薄い粥だった。

 薄い塩味のみ、でも腹に入れてみる。


 隣に座ってる親父が、話しかけてくる。


「兄ちゃん、行商か?」


「はい、そうですよ」


「フロウムは悪くねえぞ」

「マトモな品なら、商売になる」


 それが当たり前だけど、

 外の街ではきっと珍しいんだろう。

 役人やバカが、たかるか潰しに来る。


 俺は親父に笑って、粥を飲み干した。


 外に出ると、市場の匂いがする。

 パン、肉、汗、獣脂。

 それに、紙と墨の匂いも混ざってる。

 

 なんか良いな、この感じ。


 昨日、商人組合でもらった札を出す。

 売っていい許可証みたいなやつ。

 

 こういうのがあるだけで、だいぶ安心する。

 俺ってほんと小市民だわ(笑)


 市場の端に、小さな空きがあった。

 場所代窓口があって、ちゃんと領収の札も出る。

 

 賄賂も、含みも、今のところ無し。

 俺は素直に銅貨を十枚、置いた。


 布を広げて商品を並べていく。


 出すのは針、糸に店に置いてた布。

 刃物はハサミとカラトリー系だ。


 鑑定で見る限り、地球産は価値が高い。

 だから安くしないでおく。


 売れなきゃ売れないで良いんだし。

 行商人も他の街に入る為の仮面だしね。



 最初の客は、若い女だった。

 髪をまとめて、手が荒れてる。

 縫い物の人だな。


「それ、折れない?」


「めったに折れないと思う」

 

 品質は地球産だ。

 折れにくいと鑑定にも出てる。


 女は針を一本、指で弾いた。

 音が違うのか、眉が動く。


「……銅でいくつ?」


「一本で銅一、太い皮用は二だね。」

「あと銀一枚以上で一個これが付く」


 俺は鉄製の「指ぬき」を渡す。


 実はこの「指ぬき」は、

 鑑定君では、銀一枚以上の品なのだ。

 フフフ、価値が見抜けるかな?

 これがオマケだから実際は半値だ。


「針だよ? 凄く高いよね」


「まあ、試して決めればいいよ」


 俺は針と布の端切れを渡す。

 女は指ぬきを付けて針を刺し驚く。


「何これ?!気持ち悪い位に刺さる!」

「この”指ぬき”っての凄い!」


 女はかなり長い時間悩んでいたが、

 ハサミを見て手に取り、動かなくなった。


 そして買った、金一枚のハサミを。

 ……日本円だと十万越えよ?


 他に太い針が二本に普通の針を十本。

 指ぬきは十二個付けた、手入れ道具も。


 女は金を払い、大事そうに持つ。


「売って何だけど、高かったでしょ?」


「そうだね、月の稼ぎが全部。」

「でも、こんなの見逃せないよねえ。」

「大丈夫、これで直ぐ稼いでみせるよ。」


 女は笑った。

 その笑い方が、ちょっとカッコ良い。

 俺の中の嫌な匂いが、少しだけ薄まる。


 

 午前中は、こんな感じでぽつぽつと。

 糸と布は、丈夫で色が綺麗と人気だ。

 

 針も、思ったより動くな。

 布切れは、まあ、おまけ扱い。


 昼過ぎ、男が二人来た。

 革の前掛けに腰に工具。

 鍛冶屋か、職人だな。


「お前、外の物を持ってるって?」


 なんかイラっとする物言いだ。

 でも、どこでも、職人なんてこんなもんか。


「噂って早い、何が欲しいの?」


「針はもう見た」

「刃物をもっと見せろ」


 うーん。

 今日は控えめって決めたのにな。


 小ぶりのシースナイフを出した。

 見た目は地味だ。

 刃だけは、まあまあ切れる。


 二人の目が変わる。

 分かる人は分かる、ってやつだ。


「……これ、鋼か?」


「鋼だね、改良するとこうなるらしい」


 俺は専門じゃないし、説明が雑だ。

 

 俺が言うより実際に触れば良い。

 一人が触って、すぐ手を引っ込めた。


「切れすぎだろ」


「だから売りに来たんだよ?」


 自慢すると思ってたんだろうな。

 でも、これって安いナイフだしな。


「いくらだ」


「金一枚だね」


 男は鼻で笑って、銀貨を出した。


「銀一でいいだろ」


「は?」


「黙って受け取れ」


 その時、もう一人が俺にこう言った。


「これを、金一枚だ。」

「あと、金三枚まで出せるから

 良いのあれば見せてくれ。」


 俺は有名メーカーのハンティングと、

 日本の剣鉈を出す。


「おお……、しかし金が足りん」


「持って行きなよ。あんた鍛冶屋だろ?」

「代わりに、良い物打てたら売ってくれ。」


 俺たちは笑ってグータッチした。


「……ありがとうな」


「うん、大事に使って」


「当たり前だ」


 男はナイフを布で包んで去る。

 背中が、ちょっと嬉しそうだった。

 

 なんか、いいな。

 こういうの、好きだわ。


 さっきの奴がうるさいな。


「お、俺にも売れ!」


「は?誰が売るかよ。他人に

  敬意も金も払えない奴は帰れ」


 追い払いながら、俺は商品を補充する。



 夕方になると、市場の声が変わる。

 皆、ちょっと疲れた声になってきた。

 

 値切りも雑だなあ。

 それでも、ちゃんと回ってる。


 俺は片付けながら、周りを見た。

 

 獣人が普通に買い物してる。

 耳も尻尾も、隠してない。

 人間も、特に気にしてない。


 もちろん全員が優しいわけじゃない。

 嫌な目つきの奴もいる。

 

 でも、ガルドみたいに「見下す空気」が

 町全体に染みついてない。


「……住むなら、ここだな」


 いや住むとか、まだ早い。

 俺には店があるし、五人もいる。

 でも、選択肢としては、悪くないよな。


 片付けが終わって、金を数える。

 金貨も、ちゃんと残ってる。

 手の平に乗せると、冷たい重さがある。


「……これが一枚十万かあ」


 思わず笑う。

 学生の財布に十万って、けっこうデカい。

 いや学生じゃねえって。

 脳内でツッコミが止まらない。


 土産も買っておくか、と思って露店を回る。

 干し肉、甘いパン、木のスプーン。

 五人が何に反応するか、まだ分からない。

 でも、甘いのはだいたい正義だろ。


 それと、紙と鉛筆。

 字が読めるなら、書けた方がいい。

 でも、店の商品の方が良いな。

 

 …いや、書くのは別か。

 読むのと書くの、全然違うもん。

 でも、やらないよりマシだな。


 宿に戻る道すがら、掲示板を見る。

 

 衛兵の募集に盗賊注意、市場の規則。

 それと、行方不明の紙。


 子供の名前が書いてある。

 人間の子だ、歳は八。

 特徴は、茶色の髪。


 胸の奥が、ちょっとだけ動く。

 

 あー、こういうのなあ。

 俺、探しに行っちゃうタイプだろ。

 

 でも、今はあの五人がいるしな。

 これ以上の面倒は、俺のキャパ超える。


 宿を通り過ぎて、酒場に入る。

 この世界の酒場にちょっと興味ある。


「薄いやつ、あります?」


 店主は俺を見て、顎で樽を示した。

 鉄貨五枚。

 払うと、薄いエールが来た。


 エール、酸っぱく温く不味い。

 よく、異世界物で出てくるよね。

 だから、ちょっと飲みたかったんだ。


 近くの席で、男たちが話している。

 

 盗賊がどうとか、街道がどうとか。

 聞き耳立てるほど上手じゃないけど、

 勝手に耳に入ってくる。


「最近、子が消える」

「森側だ」

「いや川側だ」


 話がバラバラだ。

 胸の奥が、もう一回動く。


 どうするのが正解なんだろう。

 俺は一口飲んで、ため息をついた。


 部屋に戻る。

 お金の重さを、もう一回確認する。

 

 商売は、普通に楽しくて嬉しいな。

 もう、昨日の嫌な感じも薄い。


 明日は何を売ろうかな?。

 

 あと、地図があるなら探したいな。

 鑑定だけじゃ、何か味気ないしね。

 五人に、外の世界を教える材料も欲しい。


 また明日よろしく。 

 そう思いながら、揺らぎを出す。


 入るとき、外の笑い声が遠くなった。

 

 

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