第13話:街道と盗賊と、感情の置き場所
揺らぎから昨日の場所に出る。
朝の街道は、妙に静かだった。
霧が低く垂れて、遠くがぼやけている。
音も吸われて、足音だけがやけに近い。
「あー、これ絶対何かありそう」
根拠はない、ただの勘だけどな。
こういう日は、だいたい碌なことが起きない。
今日はMTBは使わないでおこうかな。
見通しが悪いし、歩きで行く。
街道の両脇は草が伸び放題で、
ところどころに倒木があり、遮蔽物が多い。
隠れるには十分だよな。
少し歩いたところで、違和感に気づく。
鳥の声が聞こえない。
風の音も、途中で切れている。
「あ、こりゃ居るなあ」
自分を落ち着かせる為に、声を出す。
驚きはない、あえて確認しただけだ。
揺らぎで逃げる事はできる。
でも、人を殺した時に決めたんだ。
自分の思う通り生きて行くってな。
きっと争いになるだろ。
そこには正義も憤りもない。
俺が逃げたくない、だから戦うってだけだ。
倒木の影から人影が出てくる。
一人、二人。
そして反対側からも、三人。
後ろにも気配がする、囲まれてる。
人数は七人か。
装備は統一されていない。
短剣に弓、それに錆びた剣。
服もボロボロだな。
顔を見て、少しだけ納得した。
「……大岩村の残りか」
獣人がこいつらの中にいるな。
耳を隠しているが、動きで分かる。
盗賊というより、
行き場を失った連中って訳か。
先頭の男が声を上げる。
「止まれ」
「荷を置いて、道を戻れ」
盗賊のテンプレだな。
俺は素直に立ち止まってみる。
「それ、俺に言ってるの?」
男の眉が上がる。
「他に誰がいる、大人しくしろ」
「通行税とか、そういう話?」
男が舌打ちした。
「殺されたいのか?」
やっぱ交渉は無理っぽいわ。
まあ、俺はハナから殺す気だろうしな。
俺はリュックを肩から下ろす。
ゆっくりと、見せるように。
その瞬間、矢が飛んだ。
同時に、俺は揺らぎに飛び込む。
矢が刺さってたのか、地面に落ちる。
「……痛え、ついてない」
恐怖は、一度均してあるんだよね。
だから恐怖は、俺の足を引っ張らない。
次の瞬間、あいつらの後ろに、
揺らぎから出た。
収納からAA12を出す。
32連発のフルオートショットガンだ。
山賊連中との距離を詰める。
一番近い男に、二発撃った。
肉と骨が潰れる音がして、男が崩れる。
俺の感情は静かで、頭がよく回る。
次は、剣を振ってきた男だ。
おいおい、そりゃ間合いが遠いだろ。
胴体を撃ったら剣を落とした。
空いた鳩尾にもう一発。
獣人が横から来る、さすがに早いな。
でも、ショットガンを相手にするには、
あまりに動きが単純すぎるわ。
踏み込みに合わせ、足に、二発流し撃ち。
倒れたところを、首に一撃する。
息が止まる感触、気持ち悪い。
弓の男が距離を取った。
矢がこちらに飛ぶ。
俺は揺らぎに飛び込み回避した。
弓の男の裏に揺らぎを出し、
外に出ると同時に撃つ。
頭に当たって、弓が落ちた。
残りは三人だ。
ああ、完全に腰が引けているな。
でも、ここで逃がしたら?
次に襲われるのは、誰なんだろうか。
隊商の気のいい商人か。
黙々と畑を耕す農民か。
それとも、たまたま通りかかった子供か。
「まあ、それしか、ないよなあ……」
独り言が出た。
この世界は、戦国時代みたいなもんだ。
盗賊は、捕まえたら、処刑が当たり前。
見逃しても、罪ではないかもしれない。
だが見逃せば、また誰かが襲われる。
それを知って見逃すのは、罪だろ。
俺は一歩踏み出す。
逃げようとした一人の背中に、
二発、胴に向けて撃つ。
あっけなく倒れる。
残りは二人。
一人は震えていた。
もう一人は、歯を食いしばっている。
「恨むなら、自分を恨めよ」
聞こえないだろうが、言っておく。
二人とも、終わらせた。
その途端、急に世界に音が戻った。
さっきまで、バカスカと銃を撃ってたのに、
世界はとても静かだったんだ。
霧の中に、血の匂いが広がる。
少し遅れて、胃の奥がきゅっと縮む。
「あー……きたなあコレ、キツいな」
嫌悪感だ、はっきり分かるな。
気持ち悪いわ、吐く一歩手前だよ。
でも、俺はこれに沈まないぞ。
こんなのに、飲み込まれたくないもんな。
昨日、七時は外で迎えた。
だから今は、感情は引き継いでいる。
ちゃんと、「嫌だ」と感じられている。
揺らぎに戻れば、一瞬で平らになる。
すごく楽だよ。
でもな。
せっかく、積み上がった感情なんだ。
この嫌悪も、怒りも、俺のものだ。
均して逃げるのは、最後だよ。
「……忘れちゃ駄目だよな」
独り言が漏れた。
殺して、何も感じない俺ってどうよ?
人殺しは、嫌だと思う自分が良いわ。
死体を収納する、痕跡は残さない。
血痕も、武器も全部収納した。
街道に残す理由はないしな。
終わって、周囲を見まわしてみた。
霧が少し晴れてきてるな。
ああ、森には鳥の声も戻ってる。
世界は何事もなかったみたいだ。
「ほんと、ついてない日だなあ」
肩を回す。
感情は、まだ足りてない。
でも、それでいい。
今日も均さない、このまま生きる。
「……フロウム、行くかね」
リュックを一度揺すって、街道を歩き出す。
歩みは重いが足は止まらない。
感情を抱えたまま進めるなら、
それで十分だ。
次は、どんな街だろうな。
そんなことを考えながら、
俺は街道の先へ向かった。




