(SAC視点)空間管理者TIFA
第1広域空間群・第1空間・空間管理中枢《SAC》。
神坂に大きく後れを取って、本来の監督者、空間管理者・TIFAが室内に転がり込む。
「遅れた!状況は!?」
「神坂さんが早すぎなだけですよ……」
「神坂さんがオールトの雲に転移。
同宙域で未確認勢力・宇宙艦隊と思しき兵器群と戦闘中です」
階級について補足しておく。
ここのSAC室長(一級法術師)<TIFA(空間管理者)<神坂(広域空間群管理者)である。
つまりTIFAは無謬性を帯びた上位管理者、神坂の独断専行に頭を悩ませる立ち位置となる。
「ふー。落ち着け俺。クールダウンだ……。
分析は進んでいるか?」
「ええ。神坂さんからの観測データも送られてきています」
「内部にマイクロブラックホールと思しき高質量による空間歪曲を確認」
「縮退炉……?」
「使用兵器は今のところKEP。実体弾の弾幕です」
「おいおい。彗星落着予想シミュレーションしなおしだよ。
恨んでやる」
「全くです」
SACには絶望を帯びた笑いが響く。
「あ、でも神坂さんが《魔力の弾》で全弾迎撃!」
「えっと?敵艦隊のRPMは」
「あ、もう“敵艦隊”呼びなんですね。
……35000RPM、24門、8隻」
BMI(脳マシンインターフェイス)と接続して大規模魔法を行使する彼らにとって、
そんな演算は電卓をたたくより簡単なものだ。
「分間6,720,000発。秒間112,000発」
「で、それを全弾迎撃してると。相変わらず化け物だな」
「まあ、それを撃ち出している敵艦隊も侮れんな」
「敵艦隊、行動パターン更新。
──こっちの迎撃ログを学習して、弾道分布を最適化してきてます」
「やめろ……あいつらAIかよ」
「はい。少なくとも“反応速度”と“補正リズム”が有機生命じゃありません。
計算機構が層構造。多段の並列推論……」
「待て待て……つまりあれか?
無機生命の侵略とでも?」
「少なくとも有機生命ではありませんね!」
「……いやホントもう嫌なんだが。
なんでうちの上位管理者は毎回こういうヤバい相手を引き寄せるんだ……?」
「慣れですよ、慣れ」
「慣れたくねぇよ!!」
SACに、焦りと諦観と乾いた笑いが奇妙に混ざった空気が流れた。
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「あ、敵艦隊から核弾頭ミサイルが発射されました」
「はいはい、対象は神坂。神坂は迎撃態勢をとっています。だろ?」
「……はい。もう危機感すらないですねー」
「神坂が《空間開闢》を行使」
「核弾頭、消失」
「《空間開闢》?」
「あ、なんか転がり込んできた」
SACの扉から一人の法術師が入ってきた。
「黒羽……か」
特務空間管理者、黒羽蘇芳。一級法術師、空間管理者以下の身で独学で空間開闢を習得し、
胞構造空間群と対立した経歴のある法術師だ。
対立した結果、管理者職ではない空間開闢習得者として、
胞構造空間群を巡り、空間管理者たちの空間干渉の技量を引き上げる役職についた。
が、そんな彼が突然ここにやってきたのはほかでもない。
「神坂の空間干渉を感知してな」
「──まあ、そうだろうな」
「敵艦隊、第2群、ワープアウト!」
「別艦隊のワープアウト予兆!対処許可を!」
コンソールの警報が一段階上がる。数字が跳ね、空間マップの歪曲層が一斉に赤く染まる。
オペレーターが慌てて神坂に通信を図る。
「……俺が行こう」
黒羽が前に出る。
「いや、転移管制中だ、少し待て……」
TIFAが止める。
だが黒羽は、ほんの一瞬だけ目を細めた。
その視線の先には今も光の雨を撃ち出す、敵艦隊と迎撃する神坂の姿が映る。
「この規模の戦闘だ。
第2群も同じような戦術だろう……」
その声音には、珍しく焦りが宿っていた。
「……黒羽さんが焦るなんて、相当ですね」
「神坂一人ではもう手一杯だ。
……制止を振り切ってでも行くぞ」
室内が一瞬静まる。
TIFAは息を吸い直し、肘掛けを握る。
「転移管制、解除されました!」
神坂に通信したオペレーターが転移管制の解除を告げる。
「恩に着る」
黒羽の足元に空間の揺らぎが生じた。
超空間転移の予兆だ。
直後、彼は座標を繋ぎきって転移していく。
神坂とは違い、周囲に時空震を残して去る彼は一級法術師、
空間管理者に連なる者ではなく“災害”のようですらある。
TIFAは額を押さえながらぼそりと呟く。
「焦った……今日の宇宙、忙しすぎだろ」
後席のオペレーターが乾いた笑いを重ねた。
「宇宙が忙しい、は名言ですね室長」
TIFAが手を叩く。
「さて、仕事が増えるぞ、戦闘区域が二つになったんだ。
《精神オーバーライド》、向精神薬合成。
集中するぞ。きりきり管制しろよ」
──さて、TIFAの魔術を説明しよう。
《精神オーバーライド》。
周囲の法術師の脳領域に干渉。監視して連携を補助する、
グループ管理者として申し分ないそれが彼の得意魔術だ。
これによって集中力を引き上げられたSACオペレーターが端末に向き直る。
ここからが正念場だ、とTIFAは気を引き締めなおした。
※転移管制とは
空間転移を使う組織において最も避けたいのは同タイミング・同座標での転移による事故。
これを避けるため空間転移習得者が空間全域に向かって転移先の予定座標と危険領域を「予約」してから転移する仕組み。
神坂レベルの力量なら回避するっしょ要らなくね?
……あれだよ、多発的に空間転移(=空間歪曲)すると空間が泡立つので……




