接触
景色が切り替わる。一瞬で星空が視界を埋める。
と同時に真空と恒星風が身体を襲う。
宙域に転移した際の手続き。
気管支に気密結界。
肺胞内では、CO2からO2とCへ分子変換する術式を起動。
肺の運動に同期。
真空の負圧に対して体表面に内向きのベクトル場生成。
その外側に電磁バリア展開。恒星風防御。
発熱術式。体温36度を維持。
宙域飛行術式起動。
Vec(0,0,100)(m/s)。
ゆっくりと体が前進し始める。
そして——30秒後。
視界が激変した。
遠方に見える星たち、否、大質量のなにかは、
瞬く間に接近し、視界の大半を占有する。
星空はその巨大な艦隊に遮られ、
星空の輝きは、艦隊の反射光にとって代わる。
ただの質量による引力じゃない。
…………各艦体内に、局所的なシュバルツシルト空間。
一隻一隻が、重力場を備えた単独天体に等しい。
まさか、ブラックホール機関か……?
ブラックホールを制御できるなら、文明レベルはカルダシェフ3。
だが、これだけで断定はできん。
神坂の観察眼が冷徹に走る。
その刹那、艦隊の先頭艦から、一条の光がこちらへ向けて照射された。
高速通信か、あるいは兵装か。
光速を超えるものではないが。
磁場を確認。熱量、放射線量は微弱。
殺傷力は、ない?
トラクタービームか?
拘束目的。捕獲優先というわけか。
即座に対応。
宙域飛行術式の出力を強化し、外力に逆らうように軌道を逸らす。
急軌道だ。ブラックアウト対策に、血流操作……いや、演算リソースを使いたくない。
体表面にベクトル操作領域。圧迫で妥協。
耐Gスーツのノリだ。
30秒後——
ひとつの砲塔が静かに旋回し、砲口を神坂に向ける。
そして、発砲。
その衝撃を皮切りに、他の艦からも連鎖的に“実体弾”の弾幕が解き放たれる。
その眼、ポストヒューマン魔術師としての観察眼はその一発ごとの殺傷力概算を行う。
質量:540g
運動エネルギー:1.8MJ
大した脅威ではないが、その動きは衝撃を受けたかのようにわずかに硬直した。
……宙域で実体弾、だと……?
舌打ちして、《魔力の弾》。
回避したものも含め、すべて迎撃。
……馬鹿かお前ら。
オールトの雲の小惑星群が惑星系、
──文明のある惑星に落下したらどうしてくれるんだ。
……この宙域の背後の雲間に星を数える、小さな文明。
あの星の文明から観測すらできない、俺たち超文明の戦いの趨勢次第で理不尽に滅びる。
必ず守る。空間管理者として。




