上位空間管理者
次の瞬間。
光も音もなかった。
ただ、そこに“人影が一つ”増えていた。
「……見せて」
その声は、静かに、しかし空間の全体に干渉するように響いた。
誰も気づけなかった。誰も反応できなかった。
「誰だ、許可なく——っ!」
「広域空間群管理者、神坂だ」
反射的に人影にがなり立てる室長を、たった一言で制止するその名乗り。
いや、室長だけでなく全員の動きが止まる。
その名が意味するものを理解するには、1秒の余地も要らなかった。
広域空間群管理者。複数の空間を束ね、管理する手練れの空間管理者。
わざわざそんな者がこの空間管理中枢(SAC)に訪れる。
──上位役職が動く、緊急性の高い異常。
「変な空間歪曲を感じたから来てみたが……」
上位空間管理者として培われた空間に対する肌感覚。
それがどれだけ脅威か、それは本人にしか知る由もない。
「7次元座標が一致……ね。
胞構造空間群の外側から来たのか……?」
神坂は前に進む。
空間マップの前に立ち、ただ一点、光の歪みに目を向けた。
——その先にあるのは、何だ?
——あのワームホールの奥から、“何か”が来る。
SAC全体に、重力波のような無音の震えが走る。
緊張によるものだと、神坂の圧力かと思われたが、
数秒後、警報が鳴り響く。
「重力波観測——位相反転……これは!」
「恒星級エネルギー反応! 中心座標、接近中!」
「外宇宙より——巨大構造体、接近!」
「この大質量……宇宙艦隊……?」
神坂は静かに口を開く。
「……偵察してくる。転移管制。
法術師は該当座標の10光秒内に転移させるな。
……めったに用なんて無いと思うけど」
超空間転移。
転移元:第1広域空間群・第1空間・開闢空間-SAC。
転移先:基底世界-恒星系外縁-(天球座標系)距離9万AU,赤経150度,赤緯0度。




