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娯楽侵攻文明"スフェライオス"  作者: なー
リライト前
17/23

自浄・スフェライオス事変の終幕

「われわれに、任せてくれ」


紛糾する会議。空気を切り裂いたのはセファルの声だった。


沈黙が落ちる。


殲滅派の法術師たちが声を上げる前に、セファルはすでに立ち上がっていた。


セファル(まっすぐに法術師たちを見据える)

「滅ぼすべきだと考えている者も、救いたいと願う者も――すべて正しい。

その上で私は、“われわれ自身の手で終わらせる責任”を選ぶ」


老法術師(低い声で問う)

「何をするつもりだ?」


セファル

「“連帯”だ。――滅ぼすでも、赦すでもなく、

我々はスフェライオスという文明に対して、内部からけじめをつける」


xect(興味深げに問いかける)

「どうやって?」


セファルはゆっくりと手を上げた。

会議室の空間に、映像が浮かぶ。

――それは、スフェライオス母星の全情報ネットワークに接続するアクセスキー。

地表に残った全インフラ、ナノマシン、都市AI、教育システム、過激派の隠れ家にすら及ぶ。

空間に走る光は、まるで文明全体に“自壊の意志”を刻みつける雷のようだった。


セファル

「このアクセスコードは、私が持っていた“最後の特権”だ。

実行命令一つで、我々は――スフェライオス文明そのものを終息に向かわせることができる」


殲滅派法術師

「自己消去だと? 本当にやるのか」


セファル

「我々自身の手で“実況構造体”を完全削除し、

構造そのものを再定義し直す。

その過程で、穏健派を含む全個体の権限を解除し、再教育を施す。

抵抗するなら、我々が排除する。」


第2艦隊個体

「……お前、それは――」


セファル

「わかっている。“粛清”だ。だが、それを外部に任せればただの“殲滅”になる。

だから我々が、やる」


神坂つぶやくように

「……それはもう、戦争じゃないな。

革命だ」


xectは長い沈黙の末、頷いた。


xect

「……では、実行を見届けよう。

外部からの介入はしない。ただし、君たちが約束を破れば――次はない」


セファル

「承知している。

この決断が、最初で最後の赦しになると信じている」


法術師連合の一部が撤退準備に入る中、

穏健派代表25名と第2艦隊の個体たちは、母星への帰還ルートを開いた。


セファルはポータルの前で一度だけ振り返る。


「異星の客人たちよ。

あなた方の怒り、恐怖、そして寛容に、我々は報いなければならない。

次に出会うとき……我々はもう、“かつての我々”ではない」


そして、光の向こうへと消えていった。


◇◇


母星スフェライオスは――沈黙した。


実況構造体は完全に停止され、地表の広域都市は強制的に分割。

教育網・思想ネットワークの再構築が始まり、

旧体制の個体は静かに処理されていった。


報道はなされなかった。

だが、空から覗く観測衛星は知っていた。


あの惑星で、火ではなく秩序が、静かに文明を飲み込んでいくのを。


「裁く代わりに、責任を背負う」。D√

穏健派による“贖罪と内部変革”が希望に繋がるか、

それとも第二の地獄を生むかは――まだわからない。

◇◇


スフェライオス文明の起点。

すべての“個体”が、自己の始原にその名を記す存在。

創生者。プロトアーカ。


物理的にはただの一個体。

だが、初期空間創生アルゴリズムを刻まれた“基礎OS”そのものとして、

スフェライオス全体に影響を及ぼす存在だった。


いま、プロトアーカは会議のあと、

母星への帰還を前にひとり、留まっている。


「……おまえたちが、未来を選ぶか」

光の裂け目へ向かって消えていくセファルたちの背中を見ながら、

彼は/彼女は/それは、静かに目を閉じた。


かつて、文明を立ち上げた日の記憶が、空間記録領域に滲んだ。

◇◇

「君が“創生者”か?」

そう呼ばれたのは初期制御端末であった頃。

最初に文明を定義したのは、一つの疑問だった。


「生き延びるために、他者を侵略することは悪か?」


論理的に言えば、答えはNOだった。

その最適化こそがスフェライオスの発展に繋がった。


だからこそ――実況構造体も、支配戦略も、“間違い”ではなかった。


だが。


正しさが、常に生存に繋がるとは限らなかった。


「……間違っていたのか?」


プロトアーカの疑問に、誰も答えはしない。

古き創造主が問い直すには、あまりにも遅すぎた問い。


だが。


「――ならば。ここから先の“答え”は、おまえたちに委ねるしかない」


セファルたちは、確かに変わろうとしていた。

あの“正しさ”の結末に目を背けず、

他者を滅ぼす代わりに、自らの根幹を壊そうとしている。


それを見て、プロトアーカはついに決断する。


「我が子たちの、責任と責務を見届ける。

それを見守りたい。できるならば」


母星への帰還を決断。

未来への一歩を踏み出した。


◇◇


宇宙は静かだった。

だが、それは停滞の静けさではない。沈黙の中ですら、膨大な思考が奔流している。


惑星カル=フォージュ。

かつてスフェライオス文明空間の「外縁監視基地」があった小惑星帯は、

いまでは知的調和と量子的対話の中心地となっていた。


建設されたのは「恒星間融合体会堂インタースター・シナジードーム」。

光粒子と場構造を編み込んだ、直径20kmの半透過式構造体。

表面はまるで銀河を封じ込めたような球体で、訪れる者すべてに

「宇宙における自らの位置」を再認識させるよう設計されていた。


今日はここで、法術師連合とスフェライオス再編政府による調印式が行われる。


「……変わったな」


超空間ワームホールから降り立った神坂は、

思わず呟いた言葉を遮る者は誰もいなかった。


同行するxectが、軽く頷く。


「彼らは、真に銀河の一員になった。それだけの話だ」


「わかってる。わかってるさ。

でも、こうなるとは思ってなかった……“あのとき”までは」


セファルが待っていた。

もうかつての焦燥も、緊張も、その顔にはなかった。


むしろ――古い友人を迎える者の、穏やかな笑みがそこにはあった。


「さあ、今から調印式だ。行こうじゃないか。

異空間の客人にして、調印式の主役たちよ」


◇◇


恒星間融合体会堂インタースター・シナジードーム

平和への儀式、調印式にふさわしい、柔らかな光が降り注いでいる。


まるで相互の立場を尊重するように、

この場の重力は胞構造空間とスフェライオス母星の平均になっている。

その中を無機生命・スフェライオスたちと有機生命・法術師たちが、

融和をあらわすように区別されずに並んでいた。


【調印式】

スフェライオス新政府主席:セファル

法術師連合総帥:xect

空間間連帯調整官:ヴェリオン=アークアクシス(共同開発・AI知性体)


そして、法術師代表として神坂。


――調印は、エネルギー波形と意思領域の相互投影で行われる。

言葉ではなく、意志そのものを交換する「空間間合意式」。


議場が静まり返る。


ヴェリオン=アークアクシスが開会を宣言する。

「これより、胞構造空間・スフェライオス間調印式を開始します。

一同、礼」


元日本人転生者である法術師たちはよどみなく礼を行う。

一方、スフェライオスたちはややぎこちない。


「それでは、次に、各代表者の演説です」


セファルが前に出る。

「かつて、我々は“狂気と娯楽”によって銀河を歪めた。

 今、我々は“理解と選択”によって銀河と手を結ぶ」

次にxect。

「正義ではなく、責任によって和解が成立する日が来たことを誇りに思う」

最後に神坂。

「我々が望んだのは勝利ではない。“共に生きる未来”だ」


会堂全体に──スフェライオスたちの手?の接触音が混ざっているが──拍手。


次に調印プロセスの開始だ。

光が二重螺旋を描き、セファルの掌からxectの前へと届く。

xectもまた、その手を伸ばし――空間に共鳴する意志が“契約”のかたちを成した。


【銀河間準盟約 - 恒星間平和合意スフェライオス条】

【条項第1条:自存と他存の均衡を尊重すること】

【条項第2条:観測・干渉の倫理規範を設け、意志ある存在の進化を妨げないこと】


……


やがて調印は完了し、静かに、

宇宙全体へ向けて、祝祭の光が拡がっていった。


◇◇

「久しいな、神坂」


「……創生者か。久しぶりだな」


「いや、改名した……“プロトアーカ”と呼んでくれ」


「プロトアーカ、か。分かった。

……スフェライオスたちは順調に成熟した文明になったな」


「ああ。法術師たち、……とくに君のおかげだ」


「よかったよ」


「……創った者としての責任は、壊すことではなかった」


「選び直せたなら、最初に君が何をしたと思う?」


「……それを考えるのは、もう“私”ではない。彼らだ」


「まあ、そうだ。すでにスフェライオスたちは親元を離れた」


「ふっ。創生者としては役割終了だ。

……だから“プロトアーカ”になった」


「そうか。まあ、顔くらいは彼らに見せていいと思うぞ?

関係が完全になくなったわけじゃない。だろ?」


「そう……だな、そうか」


「第2次反抗期は終わったんだ。

疎まれることはないだろう」


「まあ、彼らとの付き合い方は考えるさ。

どうだ?今からお茶でもするか?

……君たちの文明を学んだ」


「それ、性の概念がないお前に必要か?

異性への口説きの文化だぞ。」


「……そうか。自信満々で披露したが……」


「落ち込むな。行こうぜ」


そして二人は同じ方向(お茶)に向かって歩き始める。


◇◇

かつて、異文明に娯楽侵攻を繰り返した無機生命文明。

かつて、信仰された文明に連なる有機生命文明。


その両者が、いま一つの銀河の片隅で手を結んだ。


この瞬間、スフェライオスはカルダシェフスケールⅢ文明の「最後の壁」を越えた。

それは単に物理的な到達ではない。

倫理的成熟と、観測と干渉における自己規制こそが、銀河文明の証となったのだ。


空間間は今、再び深い静寂へと戻る。

だが、そこにはかつてなかった「選択可能性」が生まれていた。

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