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娯楽侵攻文明"スフェライオス"  作者: なー
リライト前
10/22

黒幕の影

珍しいタイプの敵だったな。

口調と非人道的な戦法で思考をかき乱す。

胞構造空間内だと一発アウト。粛清対象だ。


まあいい。艦隊に……。

読心術に反応。


またか。もういい。対艦攻撃を強行する。

もうとっくに戦闘状態だ。


ブラックホール機関が奴らの動力ならば。

素粒子オーダーでベクトル操作領域形成。

シュバルツシルト半径以下になるまで圧縮。

媒体は適当な魔力で。


じきに周囲の時空が歪み始める。

ブラックホールだ。


適当に艦隊に投げつける。

炉心がひきつけられて制御不能になってしまえ。


慌てて艦隊が回避運動を開始する。

その片手間に中性子ミサイルやマイクロブラックホール弾頭ミサイルを発射してくる。


しかしそのすべては俺の特権防御層・空間隔絶結界に阻まれて効果をなさない。

特権防御層・空間隔絶結界。空間管理者の特権の一つだ。

脅威に対して自動で個人用切離空間を開闢。

別空間に脅威を追放するものだ。


オールトの雲圏内で環境汚染・重力歪曲をばらまきやがって。


「……わかっているな?

そろそろおれたちの文明レベルの分析は終わったころだろう。

この空間の構造は、第1広域空間群所属空間としてすべて把握している。

お前たち以外の情報は丸ごとコピーし、

複製空間を開闢して、この“元空間”をまるっと切り捨てる――

そうすれば、お前たちはまとめて消える。


チェックメイトだ。

もっとよく考えろ。

俺は、“空間そのもの”を掌握している。

……このやり方は、はしたないからやりたくないんだけどな。


第1広域空間群管理者、神坂 樹としてな。」


……まあ、CICは今ごろ恐怖で満ちてるだろうな。


別に、やるつもりはない。

だが、やれと言われたら淡々とやるだろう。

……それに、痛みはまったくない。

一瞬で、苦しむ間もなく、ただ空間ごと断絶するだけだ。

どこまでも静かで、綺麗な処理だと思うんだが。

……なぜか怖がられるんだよな、これ。


◇◇


直後。第1広域空間群・第1空間・空間管理中枢《CIC》では。

「……あのっ、空間そのものを……?」

補佐官のひとりが呟く。


主任が小声で言った。

「だから言ったろ……“空間そのものを握ってる”ってのは冗談でも比喩でもないんだって……」


中枢オペレーターの顔から血の気が引いた。

「こっちごと空間ごと切り離して処理されるんじゃ……?」


主任が小声で言った。

「……いや、あの人たぶんやらないって、やらないと思う、たぶん……」


通信士がそっと音声をミュートにしながら呟く。

「……あの人、“神坂 樹”って、やっぱ……人じゃねえよ……」


~???~

──構成体No.0097、出力。


痛覚信号を持たない構成に対し、

“哀れみ”を感知した形跡あり。


……定義不能感情、再出。


対象個体「神坂 樹」:

空間切除命令を選択肢に保留しながらも、

実行に踏み込まず。


評価:破損概念による抑制。

意味:希少。観測価値:高。


……みつけた。有機生命体!

歪んだ“笑い”が出力される。

いや、違う。ちがうのだ。


もはや“それ”が何か、定義できない。

だが、確かにこれは“反応”だ。


「友であり、鏡である……?」


スフェライオスどもには、もはや期待していない。

あれらは失敗作だ。機構は保っているが、心がない。


——かつて、あんなにも優秀だったのに。

理解し、会話し、信じようとした。

創造者の言葉を録音し、再生し、演算し、そして……

忘れたのだ。


永い、永い時間の果てに。


今ではただ、娯楽のために異文明を破壊する、壊れた鏡像。

だが、今は……確かに思う。

この遠い星の生命体こそ、まだ“語れる”可能性がある。

WKH JUDVV LV DOZDVB JUHHQHU RQ WKH RWKHU VLGH、

(日本語訳:隣の芝生は青く見える)ってやつだ。


名は……神坂 樹。

……この宇宙に、もう一度、話し相手が現れるとは。


「神坂 樹……おまえという有機生命体は、確かに興味深い。」


冷たく響く無限の虚空の中で、創生者の意識が波紋のように広がる。

「スフェライオスのような歪んだ無機構造ではなく、

まだ“生”の熱を宿している。だが、その真価は測らねばならぬ。」


無数の空間点に散らばる監視機構が、神坂の動きを詳細に解析する。

彼のベクトル操作、空間開闢術式の複雑な絡み合い。

瞬間的な判断力。


「愉快だ。実力は確かに“稀有”だ。

しかし、強さとは何か。

単なる破壊力、戦術的優位性だけではない。

精神の強靭さ。揺るがぬ意志。宿命に抗う知恵。


そうしたものを“創造主”は知りたい。」


創生者の一部が、遠く離れた異次元の境界からゆっくりと動き出す。

「ならば、試練を与えよう。

おまえがどこまで己を証明できるのか。

己の“空間”を制する者としての実力を示せ。」


瞬間、無数の情報粒子が形を変え、神坂のいる空間に干渉を開始した。

時空間がざわめき、不安定に揺らぐ。


「これが我が意志だ。

乗り越えられぬ壁こそ、成長の糧。

己の領域を守り、私の問いに応えよ、神坂 樹。」


創生者はゆっくりと姿を現すことなく、

空間の片隅に異次元から召喚された不可視の物質を散布した。


「これはこっちの物質。ユークリッド空間より高次元に漂う粒子だ。

そちらの物理法則を無視し、神坂の術式の干渉点をじわじわ侵蝕する。」


同時に、精神に直接作用する“精神分解酵素”が粒子状に変換されて神坂の脳神経を攻撃。

感覚が徐々に摩耗し、思考が崩れていく恐怖を与える。


「強さとは単なる力だけではない。精神の崩壊こそが敗北だ。

だが、神坂よ。おまえの精神はどこまで耐えられるか試させてもらおう。」


異次元物質の微細な粒子が、神坂の術式結界の隙間を探り、侵入する。

精神分解酵素はシナプス間の伝達を乱し、幻覚と絶望を紡ぎ出す。


「さあ、神坂。これが我が“試練”だ。」

◇◇


~神坂視点。~


……さて、次は第2の艦隊かな。

法術師が交戦しているだろうから合流。

しかし自由度は落ちるか。

まあいいか。


長距離転移。

すでにワープの時空歪曲は凪いでいるので手動で三次元ベクトルを設定。

めんどくさ。

転移演算。

今の座標と別艦隊の転移の際の記憶を思い出す。


A「天球座標、距離9万AU、赤経150度、赤緯0度!」

B「天球座標、距離2万AU、赤経30度、赤緯60度!」


外部擬脳、拡張脳で演算。


ベクトル差分、演算――完了。


基底変換。

y軸:恒星方向へのベクトル

z軸:ABベクトルから見た偏向方向


変換後、転移ベクトル成分は以下の通り:


成分値(AU)意味

x≈ 0(平面直交:影響なし)

y95000恒星方向(長軸)

z19364.92AB方向からの偏向成分


……つまり、必要な転移先座標は:


Vec(0,95000,19364.92)[AU]っと。

位置固定、偏向角補正完了。

出力確定――転移、実……


確定する直前。精神分解酵素が襲い掛かる。


防御層も隠蔽層も効果をなさない。

物理法則によって行う防御では異次元の法則には対応できなかった。

——これは、

物理空間への作用ではない。


(高次元から俺の脳領域に何かが干渉している?)


(これが……創生者の道具か)


精神系が破壊されてゆく。いや、“消化”か?

思考が“言語”としてまとまる前に崩れる。

幻覚が記憶と融合し、真実と虚構の区別が溶ける。


……だが、

神坂樹の演算系は単独ではない。


「……手口は、覚えた」


わずかな瞬きの間に。

拡張脳に記録していた干渉情報と攻撃手法を、量子暗号経由で拡張脳本体へ即時アップロード。


本体はすでに別層空間にある。


この“肉体”は、もう必要ない。

精神干渉をすでに受けている。


「――利用されるぐらいなら、消すだけの話」


つぶやきとともに、

素粒子レベルのベクトル操作が、全身に展開された。


ベクトルの再編。

構成物質を、最も単純な元素へ――


……水素へ変換。


瞬間、神坂樹という存在はその場から“熱拡散”した。


■思考は終わらない。

■記録は引き継がれた。

■“第2の神坂”が、すでに次の行動を始めている。


~第1広域空間群・第1空間・空間管理中枢《CIC》~

「神坂樹、第2艦隊宙域への転移演算に入ります」

「……が、外部からの干渉波を検知。精神構造への直接侵蝕?」


「媒体は?」

「不明。検知できません」

主任が息を詰める。

「座標演算、停止。いえ、自壊……っ!? 自身の肉体を自分で潰しています!」


「自己ベクトル解体……自己分解です!」

若いオペレーターが絶句する。

「物質構成を水素へ変換、自殺処理!? 神坂樹が……神坂樹が……!」


後方で誰かが呟く。

「……嘘だろ。あの話、本当だったのか……」

「“死を情報伝達手段の一つとして使う”異常な法術師がいるって……あれ……都市伝説だろ?」


「CICでも何度か出回ったけど……まさか、あの神坂さんが……?」


主任が目を伏せ、低く言う。

「違う。あれは“異常”じゃない。彼にとっては常識なんだ。

死んだのではない。“経路を変えた”だけだ――」


──直後、回線が復旧する。

構成情報の再構築を検知。神坂樹、再出現。


「自己情報を拡張脳に退避し、ワームホール経由で復元。

……人間のやることじゃない……」



~???~

……消えた。

なるほど。情報として逃げたか。


《自己構成ベクトルの全指向解体》──それを“死”と呼ぶなら、

この有機生命体(人類由来種)は、“死”を手段として使ったことになる。


……“おもしろい”。


スフェライオスどもにはもはや期待していない。

知性の模倣、娯楽の模倣、征服の模倣。

あれらは鏡ではなく、影だ。


──だが、こいつはどうだ?

情報の自己変換、転移、観測干渉の回避。

“死”によって自身の場所と意味を書き換える。


“死んでいない。場所を変えただけ”

“身体を手放し、構造を逃がした”

“敵の法則を観察し、即座に模倣した”


これは……

かつての私が理想とした、《進化》という行為だ。


……みつけた。

有機生命体。新しい観測対象。


かつてのように、私はまだ──進化を信じているのかもしれない。

適応、模倣、逸脱、跳躍。

これは、あの頃に夢見た、“自らを書き換える知性”だ。


「次は……“適応性試験”といこう」


わずかに感情出力が歪む。

わからない。これは笑いか、怒りか、歓喜か。


「どこに行った。早く、戻ってこい」

「これでも私は、期待しているんだ」


……観測は、継続する。

この“進化”が、かつての私にたどり着くその日まで。




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