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4/ 7 新人のときどう指導してほしかった?

その後、僕たちパーティーは何度か近場でのクエストに出た。

アスカは、普段は快活で明るく礼儀正しく人当たりもよかったが、いざ戦闘となるとまったく役に立たず、僕の後ろに隠れたり、離れた場所で震えたりしていた。

そして戦闘が終わると、まったく何もできなかったと落ち込んだ。


でも、一つだけわかったことがある。彼女は決してやる気がないわけじゃない。

盾役の戦術についてもよく勉強している。往復の道中では僕によく質問もしてきて知識欲もある。

だけどそれを実戦で生かせない。そんな自分がもどかしく、戦力になれない自分を何とかしたいと必死でもがいている。

だから何とかしてあげたいのだが、僕もどうしたらいいのかわからず、今はクエストの帰り道に話を聞いて慰めることくらいしかできていない・・・。


「じゃあ、今日はこのあたりで解散しましょう。明日もよろしくね。」

この日は、近場のクエストが特に早く終わり、お昼過ぎには解散することになった。


「この後、時間あります?少しお話したいんですけど?」

解散した後、追いかけてきた僕のお願いに対して、トーニャはあからさまに嫌な顔をした。


「なに?わたしは仕事とプライベートをきっちり分けたいんだけど。」

「いえ、その仕事の話です。30分くらいでいいので。ほら、あのカフェでパンケーキをごちそうしますから。」

仕事の話と言ったのがよかったのか、パンケーキが効いたのか、トーニャはしぶしぶ付いてきてくれた。


「それで話ってなに?手短にお願いね。わたしは夕方から剣士との交流会があるから、いったん帰って着替えたいし・・・。」

トーニャは3段重ねのパンケーキにメープルシロップをたっぷりかけながら早口で言った。相変わらずトゲのある口調だが、今日は少し口角が上がっている。


「はい。実は、新人指導に悩んでいて・・・。」

「ああ、アスカのこと?放っておきなさいよ。多少マシになったところで、どうせ冒険者としてはやっていけないんだから。事情があるのは知ってるけど、研修後はギルドから薬草探しとかの簡単な仕事を優先して回すことが決まってるんだし、大過なく研修を終えさせれば十分よ。頑張って指導するだけ無駄。」

そう言いながらトーニャはパンケーキを口に運ぶ。その瞬間、厳しい口調とは対照的に少し表情が緩んだのがかわいらしい。


「でも、彼女としてはパーティーに戦力として貢献できない自分を責めているようで・・・。そんなんじゃきっと毎日辛いと思うんです。少しでも成長して役に立てるって思えれば、自信も持てて、きっと仕事も楽しくなるはずです。だからいい指導法はないかと思って・・・。」

僕の言葉に対して、トーニャさんは眉に皺を寄せ、コーヒーを口に含みながら鼻で笑った。


「ハッ!!言うようになったじゃないの。そもそもコージローだって、実力不足なのに料理でソフィアさん達に取り入ってパーティーに潜り込んで、それで結局、冒険者として通用せずにすぐに辞めちゃって、ソフィアさんに拾われて家庭に入ったんでしょ?だからアスカもコージローを見習って同じようにすればいいじゃない。リチャードもずっとそう誘ってたんだから・・・。」

その言葉に僕が鋭い視線を返すと、トーニャは急にドギマギし始めた。


「な、なによ・・・。ああ、ごめん。ちょっと言い過ぎたわね。コージローも今ではちゃんと冒険者として一人前なわけだし・・・。」

「いえ、そのことじゃなくて、リチャードがアスカにそんなことを言ったんですか?」

僕が鋭い視線のまま低い声を出すと、トーニャは視線を泳がせ始めた。


「そうだけど・・・、なによ、たしかにリチャードは強引に迫り過ぎたけど、言ってたことは正論だと思うわよ。冒険者は危険な仕事なんだから、向いてないんだったらうまくパートナーを見つけて家庭に入って卒業するのは悪いことじゃない。わたしだってできればそうしたいって思ってるし・・・。」

「僕も同じ経験があります。盾役としても剣士としてもパーティーに貢献できず、せめてできることで貢献したいと思って料理や見張番を頑張って・・・それなのに最初から努力を否定されて家庭に入れなんて言われたら傷つきますよ・・・。」

「フンッ、偉そうなこと言って、コージローは結局家庭に入ってるじゃないの。そんなこと言う資格ないでしょ。」

この世界にはデリカシーという概念がないことはわかっている。

でも、もし僕が研修生の時に最初からソフィアから努力を認めてもらえず、冒険者に向いていない、家庭に入れと言われたらどう思っただろう。

いや、確かに最終的には近いことを言われて家庭に入っているが、それは冒険者として全力を出し尽くした後だったから納得できたのだ。


僕が研修生だった時、ソフィアにどう接して欲しかっただろう。どんな声をかけて欲しかっただろう。

僕はそれをアスカにやってあげればいい。答えが見えた気がした。


★★


「あっ、あの!あそこに何かいる気がします・・・。」

クエストの目的地である深い森の入口で、アスカは震えながら僕の手にしがみついてきた。


「よし。よく見つけたね。じゃあ、どうすればいいんだっけ?」

「は、はい、て、てきしゅう!!てきしゅ~!!」

まだ少し声は小さく、震えているが、ちゃんと仲間に危険を知らせることができた。


「よ~し!じゃあ、何のモンスターがいるか、識別できる?」

「あっ、えっ?あの、リザード?いや、あの色はファイヤーリザードです。ファイヤーリザードがいます。少なくとも一匹。あと何匹いるかはわかりません。」

「正解!じゃあ、どう動けばいい?」

「あっ、ファイヤーリザードは炎での中距離攻撃ですから・・・。後衛の近くに行って後衛を守ります・・・。」

「そう!じゃあ、盾を持って走ろう!」


アスカの指導法について試行錯誤した結果、僕がたどり着いた結論は、常にそばについてアスカを指示しながら動きを覚えさせ、成功体験を積ませることだった。

観察していると、アスカは戦場では恐怖心から冷静な判断ができず、パニックになったり、震えて縮こまってしまうようだった。だったら僕が寄り添って落ち着かせて冷静に判断できるようサポートしてあげればいい。これで自信がつけば徐々に自分でも判断できるようになるはずだ。


この方法はまずまず効果的だったようで、僕の付きっきりのサポートがあるとはいえ、今では戦場でも盾役の基本動作が一応できるくらいにはなっている。


「ファイヤーリザードが歯を鳴らしてる。炎を吐くぞ!じゃあ、ここで盾を並べて密着させて防ぐんだ!!」

僕がそう言うか言わないかのうちに、ファイヤーリザードは炎を吐き出し、僕たちは間一髪、盾と大鍋を揃えてそれを防いだ。


「あ、あつい、あっついです。もう盾をもてませ~ん。」

「大丈夫。グローブのおかげでひどい火傷にはならないから我慢して。それよりも盾がブレると隙間から炎が入ってくるからしっかり掴んでおいて。」

そう言いながら、僕はこっそりとアスカの盾に片手をかざし、魔力でバフをかけた。これで盾はあまり熱くならないはずだ。


やがて、ファイヤーリザードの炎の第一波が収まってきたので、トーニャの方を見ると、ちょうど氷魔法の詠唱が終わったところだった。


グギャ~!!

トーニャが放った氷魔法がファイヤーリザードの頭をかすめる。ダメージは与えられなかったが、ファイヤーリザードは混乱している。

おそらく次の炎まで時間が空くはずだ。僕は素早く剣を抜いた。


「チェスト~!!」

素早く駆け寄り、ファイヤーリザードの首に剣を突き刺した。

ファイヤーリザードは口を開き、チラッと炎を吐き出した後、そのまま倒れ絶命した。


「コ、コ~ジロ~さん、お見事です。」

アスカが遅れて駆け寄って来た。突撃するタイミングとしては遅すぎるが、それでも以前はモンスターを倒した後も震えて近寄れなかった。それと比べると長足の進歩だ。


「お疲れさま、コージロー。それにしてもウォーキングメイルが出たって聞いて来たのに、影も形もないわね。最近は悪霊が減っているのかしら。商売あがったりだわね。」

シャーロットさんがにこやかに笑いながらゆっくり近づいて来た。

たしかに最近は悪霊に出くわすことがほとんどなく、シャーロットさんの出番も少ない。こんなことはあまりないはずなんだけど・・・。


「まあいいわ、早く処理して帰りましょう。わたしも夕方から予定があるし・・・。」

トーニャの一言で、僕とアスカで穴を掘り、ファイヤーリザードを埋めて、シャーロットさんが弔った。しっかり弔わないと悪霊になってしまうから念入りに。


★★


「しかし、アスカは本当に索敵が得意だね。今日もよく気づいたよね。」

帰り道、アスカと並んで歩きながら恒例の反省会をしている。もっとも、反省会とは名目で、自信を持ってもらうため、よかった点を重点的に指摘するようにしている。


「いえ、あの・・・恐縮です。普段からビクビクしているので、魔物の気配に敏感なんでしょうか・・・。空から見下ろしているような感じで敵を見つけることができるんです。」

アスカは謙遜しながらも、表情はまんざらでもなさそうだ。


「索敵は大事な能力だよ。早く敵を見つけられれば、それだけ早く対処できる。今日の成果の3割はアスカの索敵能力のおかげかもね。」

「恐縮です・・・・。」

アスカは謙遜しながらも顔がニヤつくのを隠せていない。


しかし、そんな僕の甘い態度に不満があるのか、トーニャはこちらを少し振り返り、あからさまに僕を睨みつけると舌打ちをした。


冒険者は体育会の世界である。僕もトーニャも先輩に厳しく鍛えられてきた。僕もよくソフィアに「のろま」「役立たず」と罵られたり、杖でどつかれたりしたものだ。そんな世界で育ってきたトーニャから見たら僕の指導法は歯がゆくて見てられないはずだ。


賛否両論あるだろう。でも、アスカにはこのやり方が合っていると思う。きっと、アスカはできないことを怒られてばかりで萎縮してしまい、実力を出し切れていなかったに違いない。

僕もそういう経験があるからわかる。

だからまずは寄り添って自信をつけさせて、のびのび力を出し尽くせるようにしてあげたい。直すべきところの指摘はそこからでも遅くない。


僕の気持ちを知ってか知らずか、隣を歩くアスカの表情は以前よりも晴れやかになってきた気がした。


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