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86 Aランク冒険者はひきこもりたい 2

 俺がパルトスの街に帰ってから、十日が過ぎた。


 パルトスの冒険者ギルドは、相変わらず朝から賑わっていた。


 ロビーの中の大勢の冒険者たちは、今日の仕事を探すために掲示板の前に集まって、ランク分けされた依頼の張り紙を眺めていたが、その掲示板の中央、とても目立つ位置に、一枚の広告が張り出されていた。

そこには、よく目立つ文字でこう書かれていた。


*********************************


《緊急報告》

 新ダンジョン発見される!  

ラーズウッド大森林、通称〈魔の森〉の奥に、これまで未発見だったダンジョンが確認された。発見者は、当ギルドの専属調査員でAランク冒険者トーマ。


 調査によると、このダンジョンは数万年前に誕生した世界最古級のダンジョンで、最下層は四十三層である。また、形態は十階層ごとに環境が変化する可変型で、周期は不明だが、定期的に環境や罠、ギミック等が変化する可能性がある。


 Cランク以上の冒険者は、(ふる)って挑戦を!

 出現する魔物については、二十階層まではCランク(ゴブリンの群れ、オークの群れ、ランドウルフの群れ及びオーガ数体等)またはそれ以下のランクの魔物が確認されており、二十五階層以下になると、Bランク(上記の魔物の上位種または変異種)が混じることがある。

 三十階層以下は、BランクからAランク(ダークメイジ、ダークウルフ、キングスケルトン、ジャイアントエイプ、メタルゴーレム等)の魔物が確認されており、〈リッチ〉、〈メタルスライムの進化特異種〉などSランク相当の魔物も確認されているので、パーティーの中に必ずSランクの者が一人以上はいることを義務とする。これに違反した者には、降級及び罰金等の処罰を課す。


 なお、詳細、場所等については受付の職員に尋ねられたし。


                      冒険者ギルド パルトス支部

                      ギルド長 ウェイド・ルグラン


*************************************


 すでに、公開に先立って噂は国中に広がっており、各地からお宝を狙う冒険者たちが、続々とこの街にやって来ていたのである。


 広告にある通り、俺は三日前にギルド本部からの通達で、Aランクに昇格した。ウェイドさんが、王都の本部に今回の調査結果と成果を報告し、俺をSランクに推薦する書類を提出したのである。本部は、王宮から宰相を招き緊急会議を開いた。Sランク冒険者は、国家認定であり、救国の英雄と言われるくらいの功績が必要なのだ。

 もし、認定されたら、そのまま男爵と同等の地位が与えられ、王宮への自由な出入りが許される。その代わり、国やギルドからの指名依頼を受けなければならない義務を負う。


 今回は、功績としては準救国級だったが、いかんせんまだ十二歳であることと、現在のクラスがBであることから、破格の昇級は時期尚早と判断された。ただ、今後再び大きな功績を上げれば、直ちにSランク認定となるらしい。


 Aランクになっても、俺の日常は何の変化もなかった。パルトスの街では、一応有名人になり、顔も覚えられたが、一歩街の外に出れば、俺のことを知っている者はほとんどいない。

 俺は、相変わらず自由気ままにあちこちに出かけ、おいしいものを食べたり、面白そうな場所を冒険したりしていた。



♢♢♢


 この日、俺はアレス・パルマー伯爵領の領都ブラスタの北から、最北の港〈自由貿易港ポートレス〉までの間にある深い森の中に来ていた。

 というのも、三日前、王都から帰って来たウェイドさんが、Aランク認定の証書と金のギルドカードとともに、一通の〈依頼書〉を俺に手渡したのである。

 それは、王宮からギルド本部を通して出された依頼書だった。中身はこんな感じだ。


『このたび国王の命によって、ポートレスから王都までの貫道を整備することになった。ついては、事前の調査を、国家指定Sランク冒険者ルーク・ラズレイとパルトス支部Aランク冒険者トーマの二名への指名依頼とする。

                     ジョアン・エルベスト』


「すまんな、トーマ……これは、間違いなく、王宮の宰相がお前を調査するために考えたテストだ」

 ウェイドさんはため息を吐きながらそう言った。


「でしょうね。たかが、調査のためにSランクに依頼するなんてあり得ませんよね」

 俺もウェイドさんの意見に賛成して頷いた。


「……ったく、上の連中のやり方には、いつもながら反吐が出る。知りたければ、自分の目で調べろってんだ……まあ、そういうことだから、すまんが適当にやってくれ。

ただ、テストのために、いろいろ仕掛けてくるだろうから、気をつけろよ。いいか、絶対短気は起こすんじゃねえぞ。このラズレイって奴は、いけ好かない野郎だが実力は本物だ。本気の勝負になったら、お前でも危ないからな」


「はい、分かりました。まあ、テストが不合格でもいっこうに構いませんから、適当にやりますよ」


 というわけで、今、俺は今朝、待ち合わせの場所だったラマータの城門前に約束の時間の三十分前には着いて、待っていたのだが、ラズレイは一時間余り遅刻して、にやにやしながら現れた。


「いやあ、すまん、すまん……夕べちょっと飲みすぎてな、寝坊しちまったんだ」


「別に構いませんよ。屋台でデザートの果物を買って食べる時間が取れましたから。マルムですが、食べますか? 二日酔いにはいいですよ」


 ラズレイは、少しむっとした表情で首を振った。

「いらん……さあて、さっさと依頼をすませようか。まったく、こんなクソみてえな依頼、やる気が出ないんだけどな、そう思わないか、少年?」


「ああ、自己紹介がまだでしたね。俺はトーマです」


 俺の言葉にラズレイはさっさと歩き出しながらぶっきらぼうにこう言った。

「そんなもん、とっくに知ってるよ。さあ、行くぞ」



♢♢♢


 門を出ると、ラズレイはいきなり身体強化を使って駆けだした。俺は難なくその後についていく。

 俺は昨夜、いろいろ仕掛けられた時のことを考えていたので、慌てることも、動揺することもなかった。そして、くだらないテスト問題には答えない、と決めていた。


「ほお、ちゃんと鍛えているようだね。じゃあ、こんなのはどうだい?」

 ラズレイは、森の入り口まで来たところでそう言うと、そのままジャンプして、五メートルはある木の上を飛び越し、森の中に着地した。


 俺もやればできるが、それに付き合わず、彼のもとまで走っていった。


「ああ、まだ無理だったか、ごめんな少年」


「トーマです。すごいですね、ラズレイさん、まるでクリムゾンエイプのようでした」


 俺はわざとラズレイを魔物の猿に例えて褒めてやった。


 ラズレイはますます機嫌を悪くしたようで、こめかみをひくひくさせながら返事もせずに歩き出した。

 実は、王都で、ラズレイは王国の宰相ジョアン・エルベストと二人だけで今回の件について話をしていた。その中で、エルベスト宰相が特に念を押したことが二つあった。


「……という少年だ。だから、今回はあくまで、彼が本当にSランクの力を持っているか、この国のために有用な人物かを試すだけでいい。くれぐれも命の危険があるような試しはしないようにしてくれ。

 それと、今回の調査は一応正式なものだ。試験も兼ねていることを、彼に悟られないよう、あからさまな方法は避けてくれ。以上だ」


「やれやれ、面倒くさいねえ。一対一で戦わせてもらえば、すぐに答えは出せるものを……」


「いや、それはできない。君は、手加減ができない男だからな。特に相手が強者なら、なおさらだ。わが国としては、大切な戦力を失うわけにはいかないのだ。難しい仕事だとは思うが、どうかやり遂げてくれ、お願いする」


「はいはい、分かりましたよ。まあ、子守だと思ってやってみましょう……」


♢♢♢


 そんなわけで、ラズレイはストレスを溜めながらも、前もって準備していたテスト項目を順番に実施していったのである。


「なあ、少年、ああ、いや、トーマだったな。なあ、トーマ、事前にこの辺りの地図を見たり、情報を集めたりはしたんだろう?」

 そろそろ中間地点に差し掛かったところで、ラズレイがそう質問した。


「ああ、はい、一応は……」

 まあ、ナビさんのおかげで、地図も情報も前もって頭に入っているからね。


「じゃあ、聞くが、ここに道を通す場合、何が一番の障害になると思う?」


 ラズレイは、いよいよ一番重要なテストを実施しようとしていた。ただ、それが思わぬ結果を招くとは、この時の彼はまだ知らなかった。


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貴族の権力・縄張り争いかねえ?
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