表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/88

79 強者の心得

 俺はゆっくりと歩きながら、自分とアンガスに防御結界を掛けた。アンガスは、魔法が効かない相手なのでメタルスタッフを腰に差し、代わりにロングソードを抜いて構えていた。


 俺たちにできる作戦としては、アンガスが動き回って囮になり、俺が光属性魔法で攻撃する、というものだが、〈リッチ〉が俺を標的にした時がピンチだ。奴に魔法で対抗するのは難しい。かといって、アンガスには攻撃の手段がない。


(くそっ……これは詰んだな……こんなことなら、ケイドスに〈リッチ〉の倒し方を教えてもらっとけばよかった……ん? ケイドス……っ! もしかすると……)


 今、まさに戦いが始まろうという寸前、俺はあることを思いついて、急いでルーム魔法を発動し、ストレージから〝あるもの〟を取り出した。


「アンガス、ちょっと待機だ」

 俺は動き出そうとしていたアンガスを引き止めると、前に進んで、《ケイドスの印章》を〈リッチ〉に向かって突き出した。


「おい、これが見えるか? この魔力を感じるか? これは、冥界の王ケイドスと破壊と断罪の神アレッサ様から預かったものだ」


 まるで、自分が前世のテレビで見た〈水〇黄〇〉のお供の一人になった気分だった。


 で、実際はどうだったかというと……本当に、時代劇そのままだったよ。


「へ? どうしたのじゃ? 何があった?」

 今まで肉弾戦を繰り広げていたルーシーは、急に相手がスーッと離れて、玉座の階段の下に跪いたのを見て、キツネにつままれたような顔になった。


 〈リッチ〉もスーッと空中から降りてきて、骸骨王の横に並んで頭を下げた。


「あ、本当に効いちゃったよ……すげえな、あの二人の威光は……」

 俺自身が、あまりの効果に驚いていた。


 まあ、というわけで、死を覚悟した三十階層のボス戦は、無事に判定勝ちを収めたというわけである。

 卑怯? ご都合主義? うん、まあそうだな。だが、この場合はこれが最善の方法なのだ。俺たちの目的は、あくまでも最奥にたどり着くことなのだから。まあ、ルーシーは少々不満そうだったがな……。



♢♢♢


 最奥まであと十三階だ。

 俺たちは体調を万全に整えるために、その日は早めにキャンプをして休むことにした。


「なあ、考えたのだが……」

 夕食の後、アンガスが少し言いにくそうに切り出した。

「そのメタル印章を掲げて進めば、魔物は近づいてこないのではないか?」


(あ、それは、俺も思った。何で最初からこれを使わなかったんだろうって……)


「うん、でも、どうだろう、そんなに都合よくいくかな?」


「主殿、我もアンガスと同じ考えじゃ。よほど頭の悪い奴以外は、従うはずじゃぞ」


「そ、そうか。じゃあ、明日試してみよう」

 俺は、暗に二人が『なんで早く使わなかったのか』と無言の抗議をしているようで、肩をすぼめながら早々に寝袋に逃げ込んだ。


(あ、そうだ。おい、ナビ、俺が思いついたくらいだ、お前も気づいていたんだろう?)


『……はい、でも言い出せませんでした。いいえ、正直に言います。私は、マスター、アンガス、ルーシーという、今の世界で最強と言える三人が、チームを組んで戦う姿を見て見たかったのです……』


(あ、ああ、まあ、それは俺も同じだから、分かる……)


『……それに、印章など使わなくても、負けることなどない、と思いました』


(う、うん、確かに……)

 俺は、それ以上返す言葉がなくて、黙り込んだ。そして、心の中である決意をした。



「よし、決めた。印章は使わずに最奥を目指す。ただし、〈リッチ〉のような相手が現れたら、迷わず使う」

 翌朝、食事の前に俺は二人に向かって宣言した。


 唐突な俺の宣言に、二人はぽかんとしてしばらく俺を見つめていたが、やがて、ルーシーがにやりと笑って言った。

「どうしてそうなったのか、訳は分からぬが、我は賛成じゃぞ、主殿。やはり、魔物とは戦わねば面白くないからのう」


「お前がそう決めたのなら、構わぬが……理由を教えてくれるか?」


 アンガスの問いに、俺は頬を指でかきながらおずおずと答えた。

「うん……俺のわがままかもしれないけどさ……ここに、この三人がいるのは、何か特別なことじゃないかって思えるんだ。だったら、俺たちの力だけで、やり遂げたいと思ったんだ。

そして、それをやり遂げる力が、俺たちにはあるって、そう思った」


「うむ、その通りじゃ。さすがは主殿じゃ」


「ふふ……そうか……お前は、そうやってここまで強くなったのだな」


 まあ、そんなたいそうな理由でもない。要は、〝虎の威を借る狐〟になりたくなかったというだけだ。


 そんなわけで、俺たちは今まで通り、最奥まで走り抜けることになった。



♢♢♢


 ドゴオオオオォォ…ンッ……ダンジョン内に響き渡る衝撃音、ギガガガッ……と金属がきしみ、削れる音、そして、荒い息遣い……。


 三十一階層からは、金属性の魔物のエリアだった。白く無機物的な通路から、次々に現れる〈メタルスライム〉、〈メタルゴーレム〉たち、金属球や動く壁の罠が俺たちの行く手に立ち塞がった。


「ハア、ハア……こいつらは固すぎるのじゃ、腕を再生するのが間に合わないぞ」

 すでに、二十体近くの魔物を倒したルーシーが、肩で息をしながら珍しく弱音を吐いた。


 俺とアンガスも壁にもたれて座りながら、荒い息を吐いていた。


「ほら、ポーションだ……アンガスも飲め」

 俺はストレージからマジックポーションを取り出して二人に渡し、自分も一本飲みほした。

 ルーシーは、主にパンチと蹴りで戦っていたが、どんなに身体強化をしても、金属に対しては分が悪い。腕や足がつぶれても、ルーシーはすぐに再生することができるが、連続でやれば、使う魔力の量も半端ないのだ。


 それでも、俺たちは確実にフィナーレに近づいていた。


 三十九階層、急に出てこなくなった魔物の動きに注意を払いながら、慎重に通路を進んでいると、突然、目の前に天井が丸いドーム型の部屋が現れた。

 そして、その部屋の中央に、身長一メートル七十センチほどで全身金属の人型のアンドロイドのような奴が立っていた。


「ん? ラスボスか?」


「それにしては、小さいのう」


「油断するな。こいつは強いぞ」


 アンガスの言葉に、俺もルーシーも頷いて気を引き締めながら、部屋の中に足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんだレベル上げしたいから印章使って無いんだとばかり メタルスライムと戦う時はゾンビキラーだよね(FC版DQ3バグ技
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ