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63 魔族 3

【お詫び】 

 持病の治療のため、長らく執筆活動ができませんでした。ご迷惑をおかけしました。

 少し回復したので、またゆっくり続きを書いていこうと思います。

 今後とも、応援よろしくお願いいたします。

「さて、わしは今から資料作りをする。王と指導者たちの前で公開発表するからには、きちんとした資料を用意せねば……トーマ、手伝ってくれるか?」


「喜んで」


 こうして、初めての魔族の街への訪問は、思わぬ方向に展開していった。そう、まるでそれまで止まっていた魔族の歴史の歯車が、急に動き出したかのように……。


♢♢♢


「公開発表」とは、魔族の住民たちに知らせる連絡事項を、事前に王と指導者たちが内容を吟味するために行われる会議だった。問題がなければ、そのまま塔に備え付けられているスピーカー型の魔道具で、街中に肉声で放送される。前世の日本の田舎に残っていた有線放送のようなものである。


「ほう、ミランダが自ら申請に来たのか、あの偏屈老人のために?……ふふ…面白い、良いだろう許可しよう」


 ロドス王の許可によって、公開発表の審議は明日の午後ということに決まった。俺たちは、ドラン医師の資料作りを手伝い、夜も更けた頃、研究室の横の入院患者用の部屋で眠りについた。


 そして翌日。昼食後、俺たちは王が住む塔の下の三層造りになった王城へと向かった。会議が行われるのは、二階層の会議室である。

 街の他の建物が、半透明の白い石材であるのに対して、この王城や塔は薄いブルーの石材が使われている。たぶん成分そのものは同じだが、色ガラスと同じで青く発色する金属が含まれているのだろう。


『紫外線屈折率から分析すると、これは石英と石灰岩の結晶(大理石)が融合した材質のようですね。おそらく土属性魔法で創り出したものでしょう。青い色はコバルトを混ぜ込んだと思われます』


(なるほどな……コバルト以外の素材は、海の近くなら大量に採取できるだろう。俺もいつか試してみよう)


 そんなことを話しているうちに、会議室に着いた。王以外の指導者たちは、すでに席に着いて談笑していた。俺たちが部屋に入ると、彼らは話をやめて怪訝な表情で俺とポピィを見つめた。


「なんだ、あの子供は?」

「もしかして、呪いの解呪魔法が見つかったのか……」

「なるほど、それであの子供を使って実証しようと……」


 なにやら不穏なことをざわざわと話している。

 そんな中、俺たちはドラン医師、ミランダ署長とともに一番前のテーブルに並んで座った。ドラン医師が、俺の顔の近くに口を寄せて小さな声で囁いた。

「いいかね、君はわしが助言を求めたとき以外は、黙って座っていればいい。だが、もし、ロドス王から何か言われたときは、適当に答えてくれ。くれぐれも、短気は出すなよ」


「分かりました」

 俺は小さく頷いた。なるべく我慢はしよう。貴族の傲慢さや理不尽さはよく理解している。だが、限界はある。たとえ魔族が相手でも、その限界を相手が越えてきたら、戦うまでだ。


 俺が、横で緊張しているポピィの背中をそっと手で叩いて微笑みかけた直後、ドアが勢いよく開かれ、護衛の兵士に挟まれて「魔族の王」が入ってきた。

 指導者たちが立ち上がって頭を下げたので、俺たちも慌てて立ち上がって頭を下げた。


「ご苦労、座るがよい」

 王が着席してそう言うと、皆が一斉に着席する。


「それでは、公開発表についての御前会議を始めます……」

議長役であろう男が告げた。

「……では、医師ドラン、提案内容と説明を始めよ」


「はい。失礼いたします。では、まず資料をお配りします。それを見ながら私の話をお聞きください」

 ドラン医師の言葉に、ミレナさんが資料を、まずロドス王にうやうやしく手渡した後、出席者に配っていった。


「では、まず、現在わが国の一部で〈呪い〉と認識されている〈人口減少と障害を持つ新生児の増加〉問題についての経過と現状について、再確認したいと思います……」

 ドラン医師は静かに語り始めた。


「……以上の問題の原因について、これまで偉大な先人たちも必死に研究、究明を続けてまいりましたが解明できず、ついには不敬にも、始祖アレッサ様に問題の責任を押し付けてしまう風潮さえ出てくる始末……」


 ドラン医師の言葉に、出席者たちがざわめき、反論しようとしたが、事実なので何も言えず歯ぎしりしながら睨みつけていた。


「……しかし、このたび外の世界から、この問題についての全く新しい視点がもたらされました。実は、我々が抱える問題は、外の世界の人族たちも経験し、すでにその解決策も見出していたのです……」


 その言葉に、室内は一段と大きなざわめきに包まれた。


「静まれっ!」

 ロドス王が手を横に振って、どすのきいた低い声で叫んだ。


 一瞬にして静まり返った室内で、魔族の王は俺たちに鋭い視線を向けた後、ドラン医師に問いかけた。

「その外の世界の知識を持ってきたのが、そこにいる人族の子どもなのか?」


「はい、その通りです」


 ドラン医師の答えに、出席者たちから声が上がった。


「バカな……そんな子どもの言葉が信用できるか」


「そうだ。しかも、下等な人族の子どもだぞ」


………………………………………………………………

………………………………………………………………


 ああ、こりゃだめだ。俺は騒然となった室内を眺めながら思ったね。どんなに理路整然と説明しても、魔族の中にある人族への差別意識と自分たちの選民意識をなくさない限り、受け入れられることはないだろう。


 ロドス王が再び手を横に振り、出席者たちを黙らせた。


「どんな解決策か、申してみよ」


「……はっ。では、資料の三枚目からご覧ください……」

 ドラン医師も、説明が無駄に終わるのを予感していたのだろう。力ない声で、しかし、研究に携わってきた者の使命感から、「遺伝の法則」そして「遺伝病の発生原因」までを説明し始めた。


 だが、その説明は途中で終わった。


「ああ、もうよい、やめよ」

 ロドス王は二度手を横に振って、いかにも不快そうな表情で言った。


「病の原因が、我らの〝近親婚姻〟にある、じゃと? では、貴様はそれを解決するためには、我々が人族と婚姻すればよい、というのだな?」


「……は、はっ。そうするしか、魔族の血を残す方法はない、かと……」


「黙れっ‼ そのようなたわごとに騙されおって……その人族の子どもは、我々を弱体化させるために人族から送り込まれた〈工作員〉に違いないわっ!」

 魔族の王ロドスはそう叫んで立ち上がった。


「お、お待ちください、この者たちは、〈冥界の王ケイドス〉の印章を……」


「ええい、そのようなもの、偽物に決まっておるわっ! もう、よい、この者たちを捕らえ、地下牢に叩き込んでおけ」


 ロドス王がそう叫んだ時だった。


「待ちなさいっ!」


 まるで、天から聞こえてくるような厳かな声が響き、その場にいた者たちは、驚いて周囲や天井をきょろきょろと見回した。


 その直後、入り口のドアが音もなく開き、辺りを圧倒する魔力を放ちながら、一人の若い女性が、侍女の少女を従えてその場に現れたのだった。


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