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46 後始末と新たなる目標 1

 あまりの驚きに腰を抜かして床にへたり込み、口をパクパクさせていたラビンが、ようやく震える指をルーシーに向けながら俺に目を向けた。

「な、なな、何だ、それは?ま、ま、まさかお前も魔道具を……」


 俺が答える前に、ルーシーがいかにも不快気な表情で、鎧騎士とラビンの胸にある首飾りの魔石を見ながら言った。

「ほう、なるほどのう……主殿、確かにこれは主殿の腕輪と同じ、〈転移〉魔法が掛かっておる魔石じゃな。だが、こいつは我のような高等な生き物ではない……魔物じゃ」


(魔物?鎧騎士の魔物……あ、そういえば前世のゲームの中にも出てきたな、《首無しデュラハン》だったっけ?うはあ、厨二心が疼くぜ)


「そうか、じゃあ浄化してやらないとな。こんなクズ野郎にいつまでも使役させられるなんて可哀想だ」


 俺の言葉に、ルーシーは小さく頷いた。

「うむ、そうじゃな」


「く、くそっ、勝手なことを、行けっ、奴らを皆殺しにしろっ!」


 ラビンの命令に、鎧騎士の魔物はガシャガシャと音を立てながら、剣を振り上げて俺に向かってきた。おそらく体から漏れ出ている魔力量から、ルーシーより俺の方が弱いと判断したのだろう。

 だが、さっとルーシーがそいつと俺の間に立ちはだかった。

「おっと、おぬしの相手は我じゃ。まあ、相手にもならんがのう。ほれ、かかってこい」


 鎧騎士は、次の瞬間、一気に動きを加速して、高速の剣の一閃をルーシーの頭上に振り下ろした。その場で見ていた者たちが、全員あっと息を飲んだ瞬間だった。


 ガキーーンッ。激しい金属音が響いた後、ルーシーの低い笑い声が聞こえてきた。


「ふふふ……どうした、痛くもかゆくもないぞ?では、こんなのはどうじゃ?」

 ルーシーはそう言うと、俺の目にも捉えられない速さで前に動くと、鎧騎士の腹部に左手で強烈なストレートを打ち込んだ。


 ドゴンッ、と言う鈍い音とともに、鎧騎士はほぼ水平に吹き飛び、ラビンが座っていた金ぴかの椅子や台座を巻き込んで後ろの壁の近くまで転がっていった。


「ひいいっ……お、おい、何をしている、は、早く、俺を守らんか」

 ラビンは腰が抜けて立てず、這いつくばりながら鎧騎士の方へ逃げていこうとした。


「おっと、お前はここでじっとしていろ、チャビン。ラミアさん、こいつも縛り上げてくれ」

 俺は走り寄って、ラビンの背中を足で踏んづけた。


「あ、は、はい」

 それまでの成り行きを呆気に取られて見守っていたラミアとエステアが、急いで駆け寄って来て、麻縄がもうなかったので、自分たちの腰のベルトを外して手足を縛り始めた。


 ラビンが何か汚い怒号を吐いていたが、俺は無視して、鎧騎士の方へ近づいていった。


「主殿、気を付けるのじゃ。そいつはまだ死んでおらぬ。いや、死なぬのじゃ……」

 ルーシーが俺の横に来て、続けた。

「……そいつは、アンデッドと同じでな、あの鎧の内側に魂を宿しておる。おそらく元は名のある騎士だったのじゃろうが、無念の思いを抱いて死に、その魂は自らの(むくろ)の側から離れられずにいたのじゃ。その負の感情が魔素と結びつき、この魔物を生み出したのじゃろう」


 ルーシーの言う通り、鎧騎士は再びガシャガシャ音を立てながら立ち上がった。その腹部は、ルーシーのパンチによって大きくへこみ、右足の膝の関節部も壊れて、バランスを保つのが困難なようで、よろよろと左右によろめいていた。


 俺は右手に魔力を溜め、光魔法〈ピュリファイ〉を発動した。

「さあ、もう安らかに天国へ行け。お前の使命は終わったんだよ」


 清浄の光が鎧騎士を包み込んだ。やがて、その全身から黒紫色のもやのようなものが立ち上り、そして、胸のあたりからやせ細って小さくなった魂が、青白く光りながら出てきた。

 その青白い光は、何かを語りかけるように、しばしの間ゆらゆらと揺れていたが、やがてゆっくりと天に向かって上っていき、天井に着く前に光の粒になって消えていった。


 その一部始終を見ていた者たちは、何か敬虔な感情に襲われたかのように、しばらく無言で上を見つめていた。


「なあ、ルーシー、こいつが転移でどこからか来たっていうならさ、こいつがもともといた場所って、どこなんだろうな?」

 魂が抜けてただのガラクタになった鎧を見ながらつぶやいた。


「そうじゃなぁ……おそらく、どこぞのダンジョンではないかのう。このブタ男が持っている魔道具の元の持ち主が、そのダンジョンで鎧の魔物をテイムしたのじゃろう」

 ルーシーが足の先で、ラビンの太った腹を突きながらそう言った。


(おお、いいねえ。魔石を調べれば、そのダンジョンの位置とか分からないかな、なあ、ナビ?)


 今まで何もしゃべらなかった相棒に、問いかけた。


『そんな都合のいい魔法なんてありませんよ……』


(ん?なんだか機嫌が悪いな。拗ねてるのか?)


 明らかにナビの動揺した感情が伝わってきたが、ナビはつとめて平静を装って答えた。

『別に何も……まあ、そのラビンの持っている魔道具をマスターがテイムで上書きすれば、何か分かるかもしれませんね』


(おお、サンキュー、ナビ。さすが、俺の相棒だな)

 再びさっきより大きな感情の波(弱い電流のようなぞわぞわする感じだ)が押し寄せるのを感じた。


♢♢♢


「こ、これは、いったい……」

 バンズ捜索を諦めて、昼過ぎに村の帰ってきたロムと第二部隊の者たちは、中央広場で愕然となって立ちすくんでいた。


 そこには、二十本あまりの杭が立てられ、その半分にラビンをはじめとする、彼の取り巻きの私兵部隊の者たちとラビンの妻子たちが麻縄で括りつけられていた。そして、その周囲には、激しい憎悪をむき出しにした村人たちが、今にも飛び掛からんばかりの形相で取り囲んでいたのである。


 ロムたちはすべてを悟り、へなへなとその場に座り込んだ。彼らもまた、残りの杭につながれた。


「皆さん、どうか心を静かにして、話を聞いてください」

 広場の中央にある演壇の上に立ったティアが、よく通る声で村人に語り掛けた。


「今日、この日、長い長い地獄の支配は終わりました。私たちは自由を手に入れたのです……」


 ほとんどの村人たちが涙を流し、泣き笑いの顔で「ウオォーッ」と歓声を上げた。


「……これから、新しい村を、皆が自由に楽しく生きられる村を、一緒に作っていきましょう……」


 再び歓喜の声が沸き上がり、広場中に響き渡った。


「……ただ、その前に、ここにいる者たちの罪を裁かねばなりません……」


 今度は怒号と「死を!」という連呼が、しばらく続いた。

 ティアは優しく手を上げて、静かにするように促す。

「……皆さんの気持ちは痛いほど分かります。これまで、この者たちは多くの人々の命を奪い、我々を苦しめてきました。それは、万死に値する罪です……」


 何人かの村人の賛同の声が上がる。


「……ただ、これは私の個人的な願いなのですが、私は皆さんに、この者たちと同じ罪を犯してほしくありません。あなた方の手を、この者たちの血で汚してほしくないのです……」


 ティアの言葉に、村人たちは静まり返り、お互いの顔を見合って苦渋の表情になった。


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