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3 新大陸を調査するよ 3

 ラタント村の朝は早い。村人たちは朝日が昇る前から一日の仕事に動き始める。まあ、俺にとっては、早起きは慣れたものだ。

 この村で暮らし始めて三日目。この日も俺は、まだ薄暗いうちにベッドから出て、着替えを済ませると、宿屋の裏手にある井戸へ向かった。宿屋の居候になっているので、いろいろな雑用をしなければならない。まずは、顔を洗ってから、水汲みをして調理場へ運んでいく。


「あ、お早う、トーマ君」

「お早うございます、レイジーさん」

 調理場では、この宿で住み込みで働いているレイジーさんが、掃除を始めていた。

 彼女は、ここから東にある小さな村の出身だという。家族の生活を助けるために、仕送りをしながらここで働いている。


「レイジーさん、ちょっと質問していいですか?」

「ええ、何?」

「この村には冒険者ギルドはないですよね。魔物とか、この辺りにはいないんですか?」

「冒険者ギルド?」

 レイジーさんは初めて聞いたように首を傾げた。

「この辺りの魔物は、村の男の人たちがときどき狩りに行ってるわよ。それ以外の大きな魔物とかは、騎士団の人たちの仕事ね」


 ふうん、なるほど、冒険者ギルドはないのか。獣人自体が強いから、故郷のラトス村と同じで自警団で何とかなるんだな。あとは、騎士団が国中を回って、大型の魔物なんかを狩っているのか。


「もう一つ、いいですか?この村にはいろいろな種族の人たちがいますが、同じ種族で村を作ったりはしないんですか?その、例えば、仲が悪い種族などもあるんじゃないかと思うんですけど……」


 レイジーさんは今度も小首を傾げて、少し考えてから答えた。

「うーん、もちろんたいていの村は同じ種族で作られているんだけど、あまり種族にこだわっている村はないんじゃないかな、少なくとも、あたしの知る限りでは……」


「分かりました。どうもありがとうございました」

 俺はレイジーさんに礼を言って、外に出て行った。


(ローダスの軍が勝てなかった理由が何となく分かったような気がするよ)

 俺は薪割りを始めながら、ナビに言った。

『個の力と結束力ですか』

(お、さすがだな。その二つが揃っているんだ。並の軍隊じゃ勝てないさ)


♢♢♢


 午前中の雑用を終えたら、夕方までは自由な時間だ。俺はこの付近一帯の探索をしながら、街の様子も見に行きたいと考えていた。


「お疲れ様です、ガントさん」

「おう、トーマか。今日も森の探索か?」

「はい。獲物がいたら獲って来ようかと思って」


 ガントさんは、小さく唸ってから俺の頭をぐりぐりと撫で回した。

「お前は大した奴だな。ロクさんが感心してたぜ。まだ小さいのに、よく働くし、ホーンラビットやボアなども毎日狩って来るし、これまでどんな生活をしていたんだろうってな」

「まあ、こんな暮らしに慣れているってところです。八歳くらいから狩りはやってましたから」

 俺はそう答えてから、ガントさんに手を振って村の外へ出て行った。


 今日は少し遠出をして、街の近くまで行ってみるつもりだ。ここから一番近いのは、ガーリフという街らしい。村の人たちも、雑貨屋で買えないものを買いに行ったり、特産物の果実もここに出荷したり、また、定期的にこの街の商人が雑貨屋の仕入れ品やその他の品物を運んで来たり、何かと交流の多い街だそうだ。


『街で衛兵に見つかったら、どんな対応をされるのでしょうか?』


(まあ、間違いなく詰所に連行されて、尋問、取り調べ、最悪の場合は牢屋にぶち込まれるだろうな)


『そうでしょうか?村での対応から考えると、そんなことにはならない気がしますが』


(うむ…そうかもしれない。でも、俺はなるべくリスクを負わない主義でね)


『……これまでは、その真逆だったような気がしますが』


(そ、それはだな、俺の意に反してというか、仕方なくというか、とにかくアクシデントが多すぎたせいだ。うん、俺は運が悪いんだ)


『ステータスの運が、200を超えている人間が言うセリフじゃありませんね……』


 くそう、ナビの野郎には口では絶対勝てない。こうなったら、俺が生まれついての不幸体質であることを証明してやる。



 ガーリフの街の入り口には、獣人の商人や旅人の列ができていた。俺は遠くからその様子を見守っていた。そして、その列があと二、三人になったところで、ゆっくりと門に近づいて行った。


「よし、次っ。ん?最後は子どもか。おい小僧、この街に何の用だ?」

 衛兵は、たくましい体の猫族の男だった。


「あ、はい。ええっと、薬を買いに来ました」


「ん?んん?…お、おい、よく見たら、お前、人族じゃねえか」


「やっぱり、人族には薬は売ってもらえないのですか?妹が熱を出して死にそうなんです」


 衛兵は、ううんと唸りながら考え込んだ。


「おい、バング、どうしたんだ?」

 もう一人の衛兵が、仲間のもとへやって来た。

 バングと呼ばれた衛兵が、小声で同僚に理由を話す。二人はそれから、時々俺の方を見ながら何やら話し合っていたが、やがて、バングが俺の方へやって来て、こう言った。


「小僧、一応記録を残すのでな。名前とどこから来たのか、家族は妹以外にもいるのか、答えるんだ。その後は街へ入ってもいいが、目立たないようにあれを被っていろ」

 彼はそう言うと、同僚が持ってきた毛糸の帽子を指さした。

「ケイル、こいつに貸してやってくれ」

 同僚のケイルという男は俺の側に来ると、自分が仕事の後に被っている私用の帽子を少々乱暴に俺の頭に被せた。

「ほらよ。これを被っていれば、耳が無いのを隠せるだろう。後でちゃんと返すんだぞ」


「あ、ありがとうございます」


「よし、じゃあ、記録を取るから詰所に行くぞ」


♢♢♢


『やはり、私の推測が当たっていましたね。獣人族は人情に厚いのです』

(ぐ……で、でも、詰所に連れて行かれるってのは当たっていただろう)


 数分ほどで解放された俺は、ぶかぶかの毛糸の帽子を被って、街の内部に入っていった。


 おお、かなりの賑わいだな。人間の街と全く変わらない。建物もだいたいが石と木を組み合わせたものだ。全体的に人間の街の建物より、一回り大きいだろうか。

 ただ、少し違うのは、店先で売られている物とそれを買う者たちの姿だ。肉屋とそれを料理する店が異常に多い。あとは、果物屋も多い。反対に少ないのは野菜やお菓子を売る店だ。野菜はほとんど見かけない。獣人は野菜は食べないのだろうか。


「あのう、すみません……」

 俺は、串焼き肉を売っている屋台の前で、肉を焼いている頑固おやじ風の男に声を掛けた。


「おう、らっしゃい。坊主、このうめえ肉串が食いたいか?」

「はい、一本下さい」

「おうよ……ほれ、うめえぞ。80グルーゾだ」

「あ、ええっと、これじゃだめですか?」

 俺はポケットに手を入れて、ストレージから100ベル銀貨を一枚取り出し、おやじに差し出した。俺の予想では、この後おやじが怒鳴り始め……。


「ん?お、おめえ、これはどこから持ってきたんだ?」

「か、海岸で拾いました」

「ううむ……そうか、なるほど……いいか、よく聞け小僧。こいつはな、人族が使う金で、ここでは使えねえんだ。だがな、そこの先の両替商に売れば、200グルーゾは下らねえお宝だ。だからよ、両替商でこれを売って、金が出来たら、またここに来な」

「うーん、いいよ、それ、おじさんにあげるよ」

「え?いや、それは……」

「じゃあ、もう一本肉串ちょうだい。それで、あまり値段は変わらないでしょう?」

「ううむ、よし分かった。ほれ、おまけにもう一本追加だ」

「わあ、ありがとう、おじさん」

「おう、また来な、待ってるぜ」


(ううむ……本当に良い人ばかりだな)

 肉串屋台の後も、何軒かの店に立ち寄ってみたが、どこの店の人も同じように誠実に対応してくれた。子どもだとバカにされたり、銀貨をだまし取られることもなかった。


『マスター、もう検証は十分でしょう。獣人は基本的に心がきれいなのですよ』


 確かにそう認めてよさそうである。これなら、ポピィと一緒の旅をしても大丈夫だろう。



「衛兵さんたち、どうもありがとうございました」

「おう、ちゃんと薬は買えたか?」

「はい、買いました。これ、お返しします。ありがとうございました」

「気をつけて帰るんだぞ」


 気のいい衛兵たちに手を振って、俺は村への道を戻っていった。



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