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22 冒険の旅、再び 3

「えっ、ト、トーマ君かい?」

 俺が、パルトスの冒険者ギルドに入ると、遠くから驚いたような声が聞こえてきた。周囲にたむろしていた冒険者たちの視線が、俺に集まった。


「バークさん、お久しぶりです」

 俺は居心地の悪さを感じながら、受付の中年男性の方へ近づいていった。


「おお、トーマ君、お久しぶり、よく来てくれたね。元気そうでよかった」

 ここの副ギルド長でありながら、地味で目立たない存在のバークさんが、孫を見るような優しい目で俺を見ながら微笑んだ。


「まだ、旅の途中かい?」


 バークさんの問いに、俺はちょっと申し訳ない気持ちで頷いた。

「はい。用事がすんだら、また、旅に出ます」


「そうか……残念だが、仕方ないな。ちょっと待っていてくれ」

 バークさんはそう言うと、カウンターから出て、二階への階段を駆け上がっていった。と、すぐにドタドタと重い足音が階段を駆け下りてくるのが聞こえてきた。


「トーマっ!」

 ホールにいた者たちが、皆思わずびびって首をすくめた。ギルドマスターのウェイドの声には、自分でも気づかないうちに〈威圧〉のスキルが込められていたのだ。


 だが、思わず逃げようとした俺をがっしりと抱きしめたギルマスの顔は、どこの好々爺かというほど破顔していた。

「うははは……やっと帰ってきたか。おお、少しは背も伸びたようだな」


「そりゃあ、成長期ですからね。すぐにウェイドさんを追い越しますよ」


「こいつ、口が達者なのは変わらねえな、うははは……」

 ウェイドさんは、ひとしきり俺の頭を撫でまわしてから、ようやく解放してくれた。


「やっと、この街に定住すると決めたのか?」


 俺は小さく首を振った。

「旅はまだこれからですよ。一年やそこらで帰ってきたら笑われるじゃないですか」


「うっ…ま、まあ、そうだな。では、今回は何か用があって来たのか?」


「はい、特別な用事ってわけではありませんが、ちょっと面白い場所を見つけたので、ポピィも連れて行ってやろうかな、と……」


「ほう、面白い場所か、どこだ?」


「いや、ここでは、ちょっと……」

 俺は後ろをちらりと見て、そう言った。ウェイドさんはその言葉で、ようやく俺の背後に集まった冒険者の聴衆に気づいた。


「む、よし、二階の俺の部屋に行くぞ」

 ウェイドさんはそう言うと、俺の肩を抱いて強引に引っ張っていった。


「ミレーヌ君、しばらく後をお願いね」

 バークさんも、やはり好奇心には勝てず、そう言って後を追った。


♢♢♢


「な、なにぃ、じゅ、獣人国だとっ!」

 俺の言う〝面白い場所〟が、海の向こうの未知の大陸だと知ったウェイドさんは、驚きのあまり大声を上げ、バークさんにたしなめられた。


「いや、す、すまねえ……しかし、お前って奴は、本当にぶっ飛んでやがるな。まず、どうやって海を渡ったんだ?」


 俺は、スノウに乗せてもらって、などとは言えなかったので、ローダス王国にいる獣人の漁師の船に乗せてもらった、とごまかした。


「そうか……ローダスまで行ったのか。俺も、若いころは何度かあの国へ行ったことがある。その頃は、このアウグストとも親密な関係でな、ギルドの仕事もお互いに協力してやっていたんだが……ローダス王が代替わりして、今の王になったとたん、やたら好戦的になりやがった……どうも、王の後ろで国教会がきな臭い動きをしているようなんだが、ギルドには手を出せない場所だからな」

 ウェイドさんは、悔し気に口をへの字にして、ため息を吐いた。まあ、ローダス王国の内情は、だいたい俺の予想通りだったようだ。


「ウェイドさん、ちょっと門番のラントさんに聞いたんですが、俺がこの街を出た後、ずいぶん酒場で暴れたとか?」


 俺が話を変えて、そう尋ねると、ウェイドさんは慌てて首を振った。

「い、いや、暴れてなんかいないぞ。ラントの野郎、適当なことを言いやがって……」


「あの時のことですかね?」

 バークさんがそうつぶやくと、ウェイドさんは苦々しく頷いた。そして、こう語った。


「お前が街を出て二日後だったか、この街の領政官のベルローズ準男爵がじきじきに、ここへ来られてな、トーマ、お前をレブロン辺境伯のもとへ連れていくので、呼んでこい、とおっしゃったんだ。俺は正直に、お前が旅に出たことをお話ししたのだが、えらく叱られてな、どうして優秀な冒険者をみすみす領外に出したのかって……思わずカッとなって、冒険者は自由な存在で、誰にも束縛する権利はない、って言いかけたんだが、バークに止められて、何とか罪人にならずにすんだ……」


「なるほど、そんなことがあったんですね……」


「いやあ、あの時は冷や汗が出ましたよ」

 バークさんが苦笑しながらそう言って、さらにこう続けた。

「その後、ご領主のレブロン辺境伯様からも直接手紙が来てね、君を探し出して、見つかり次第、タナトスへ連れてくるように、と。だから、慌てて国中のギルドに、君が現れたら連絡をするように通達を出したんです……」


 ウェイドさんは、ますます苦虫を嚙み潰したような顔になって、小さく舌打ちをした。

「ふん、あの頃、噂ではタナトスが陥落寸前だってことでな、たぶん、辺境伯も藁にもすがる思いだったんだろうよ。だからって、年端もいかねえ子供を、戦場で戦わせるなんて、とんでもねえ話だ。たとえお前が見つかったとしても、俺はタナトスへ連れて行く気はなかったさ……まあ、国外へ出ていたのなら、見つかるはずもねえがな……ふふふ……」


 そういうことがあったのか。なるほど、ウェイドさんが酒場で荒れていたわけだ。


「じゃあ、俺がここにいたら、まずいですか?」


 俺の問いに、ウェイドさんはきっぱりと首を振った。

「いや、戦争が終わったら、お前は用無しさ。堂々とこの街にいていいんだよ」

 

 ウェイドさんはそう言ってくれたが、俺がここにいることが代官の耳に入ったら、やはり面倒なことになりそうだし、ウェイドさんたちにも迷惑をかけるだろう。なるべく早く、街を出たほうがいいな。


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