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21 冒険の旅、再び 2

 男は一瞬、緊張した表情で、殺気のこもった目で俺を見たが、俺が意に介さない様子で焚火の火の調整をしているのを見て殺気を解いた。

「やはり、気づいていたか……」


「だってさ、あんた、さっきから自分で人間とは違うって何度も言ってたじゃないか。見た目が人間と同じで、しかも人間とは違うっていうなら、魔族しかいないだろう?」


「ふ…ふふ……確かにそうだな。だが、我が魔族と知って、なぜ恐れない?」


「うーん……魔族のことは何も知らないからな。ただ、俺が知っている錬金術師で、魔族と人間の混血の女性がいるんだ。人間と魔族の混血ということは、その人の両親は、愛し合って彼女が生まれたってことだろう?ということは、魔族と人間は分かり合える、つまり心はそんなに変わらないってことじゃないかな?」


「ほう、そんな女がいるのか。だが、分からないぞ、魔族が無理やり人間の女を犯して子どもを産ませたのかもしれない……」


「何?どうしても、自分を恐れてほしいのか?」

 俺は、リュックから二組の木製の器とスプーンを出して、出来上がったスープを注ぎ分けながら、なじるような口調で言った。


「いや、そうではない。不思議なのだ。我が今まで持っていた人間についての知識と、お前はまったく合わない。知識が間違っていたのか、お前が特別なのか……」


 うん、たぶん両方だよ。どんな知識なのかは分からないけど、あんたの態度から、人間に対してどう思っているかは、なんとなく理解できる。


 俺は、スープとスプーンを男に差し出した。

「ほら、熱いから、気をつけろよ」


 男は戸惑いつつ器を受け取り、においをちょっと嗅いでから、スプーンで一口すすった。

「うまい……」

 彼は一言そうつぶやくと、ふうふうと息をかけて冷ましながら、夢中で食べ始めた。


「あんた、名前は?」


 その問いかけに、魔人の男は食べるのをやめて、ぎろりと俺を見た。

「……それを聞いてどうする?我は人間と馴れ合うつもりはない。よって、名乗るつもりもない」


「そうか。俺も魔族と馴れ合うつもりはないさ。ただ……あんたが、この人間の街の近くにいること、そしてひどいケガを負っていたこと、この二つから、俺が推測したのは、あんたが、何らかの理由で、魔族の国にいられなくなったか、あるいは追われているか、そう考えたんだ」


 男は明らかに動揺した表情を見せ、食べかけの器を草の上に置くと、立ち上がった。

「よけいな詮索はしない方が、お前の身のためだ……けがの治療と食べ物については感謝する。今は何も返すものは持っていないが、もし、また会うことがあったら、必ずこの恩は返す」

 男はそう言うと、小さく頭を下げて目礼してから、再び森の方へ歩き出した。


「俺はトーマだ……」


「トーマ…」

 男は立ち止まって、口の中で俺の名前を繰り返した。

「我は、アンガス」

 彼は、そう言い残すと、もう振り返らず去っていった。


♢♢♢


 朝に光の中で、小鳥たちが賑やかにさえずり、ほのかな草のにおいが鼻をくすぐる。


(うーん…よく寝た……ふう)

 俺は背伸びをしながら大きく深呼吸した。そのまま空を眺めながら、昨夜のことを思い返した。

 本当の魔族と会ったのは、これが初めてだった。

(すごい魔力だったな……)

『なぜ、鑑定をしなかったんですか?』


(そりゃあ、よけいな警戒心を持たせないためさ……まあ、ちょっと怖かったのもある)


『見なくてよかったと思います。あれは、まだ、マスターの手に負える相手ではありません』


(そうか……でもさ、下手な人間より、俺は何かしっくりくるものがあったぞ。あいつとは、友達になれそうな気がした)


『その考えは捨てたほうがいいです。魔族と人間は、例えるなら闇と光、お互いに絶対に相容れない存在です』


 ふうん、と返事しながら俺は立ち上がり、リュックを背負った。

 魔族がかなり高い知性を持っていることは、アンガスと話してみて分かった。知性があるということは、人間と同じような感情も持っているのではないか。もし、そうなら、お互いに友情を感じることもできそうな……いや、これはまだ早計な考えだ。どんな相手か、本当に理解するまでは油断してはならない。


 なつかしいパルトスの街の外壁と南門が見えてきた。約一年ぶりにここに戻ってきた。


「よし、通れ。次っ……」

 門番の大男は、ニコニコしながら近づいてきた俺を見て、一瞬、眉をひそめたが、すぐに思い出したのか、両手を広げて嬉しそうに叫んだ。

「トーマっ、トーマじゃないか!久しぶりだなあ、おい、元気だったか?」


「お久しぶりです、ラントさん。はい、この通りです」


 門番の大男は、なおも何か話そうとしたが、俺の後ろに並んで入城を待つ人々が、ざわざわと騒ぎ始めたのを見て、一つ咳ばらいをし、いつものいかめしい表情に戻った。そして、俺の耳元で、小さな声で囁いた。

「ギルドのウェイドのおやじが、お前がいなくなってからしばらくは、酒場で荒れていたんだぜ。早く顔を見せてやれ」


「ウェイドさんが?分かりました、行ってみます」

 俺は門番に手を振ると、街の中に入っていった。


 街の中は一年前と変わらなかったが、人が少し増えて賑やかになったような感じだ。俺は、《木漏れ日亭》に行く前に、さっきのラントさんの話が気になって、冒険者ギルドに立ち寄ってみることにした。


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