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19 とんとん拍子に……

 はい、すみません。獣人たちに対する俺の考えは、まだ甘かったようです。彼らは純粋で優しい心の他に、溢れるようなフロンティアスピリットも持っていました。


「なんと……この短期間にそこまで話を進めていたのか?……まったく、お前さんは驚くべき少年だな」


「ほんとだよ。何度も言うけど、トーマ、お前、何者なんだ?」


「ジル、そんなの今はどうでもいいよ。トーマはトーマなんだし。あたいらに、こんな大きな夢を持ってきてくれた、それだけで十分だよ」


「ああ、ベルの言う通りだ。あはは……なんか、ワクワクが止まらねえぜ。で、トーマ、俺たちは何をすればいいんだ?」


 ゼムさんや若い獣人たちの興奮がひとしきり収まったところで、俺はバルの質問に答えて言った。


「ルッダの港とポートレスの港を船で往復するだけだよ。まあ、月に二、三往復くらいじゃないかな」


「それだけか?」

 若い獣人たちは、拍子抜けしたように、お互いの顔を見合った。


「うん、それだけだ。もちろん荷物の上げ下ろしとかはあるけどね」


「それだけで、金儲けができるのか?」

 

 ルドの問いに、俺は少し考えてから、しかつめらしい顔で答えた。

「うーん…契約内容次第だけど……たぶん、一回の取引で動く金は、数百万ラグナ、いや、一千万を超える時もあるかもしれない。そうなると、経費もろもろ込みで、輸送代は少なくとも十数万ラグナってところだろうね」


「じゅ、十数万……まじか?」


「に、二回行けば、その倍……俺たちの一年間の稼ぎより多いんじゃないか?」


「お、お兄ちゃん、あたしたち、お金持ちになれるの?」


「……あ、ああ、なんか、分からないけど、そうみたいだ」


 若い獣人たちが、緩んだ顔で思い思いに夢の世界に入るのを見て、ゼムさんがやれやれという表情で大きな声で言った。

「おいっ、お前たち、まだ夢を見るのは早いぞ」


 若い獣人たちは、はっとして顔を引き締め、ゼムさんの方を見る。


「海には危険が多く潜んでおる。船乗りは、何より経験がものをいう仕事だ。明日から、長期航海の訓練を開始する。いいな?」


 ゼムさんの言葉に、若者たちは力強くこぶしを上げて、おうっ、と声を上げた。


 俺はふと思いついて、バルたちに尋ねた。

「なあ、皆は船酔いとかしないのか?」


 若者たちはその問いに、一様に首を振る。

「最初のころは、少し気分が悪くなったことはあったが、すぐに慣れたな」

「俺は最初から平気だったぜ」

「あたいも」


(へえ、獣人て陸には強いけど、海は苦手なイメージがあったけど違うのかな?)

 

 俺の疑問に答えるように、ゼムさんが笑いながら自慢げな顔でこう言った。

「ふふふ……船酔いなんぞしていたら、漁師はできねえさ。俺たちは、荒れた海でも、船が沈まない限りどこへだって航海してみせるぜ」


『ふむ…おそらく獣人たちは三半規管が人間とは異なるのでしょう。彼らの高い運動能力や平衡感覚から考えて、三半規管が高度に進化していると考えられます』

 獣人たちの興奮したざわめきの中で、ナビの冷静な声が聞こえてきた。


♢♢♢


 こうして、事は順調に進んでいった。俺とアレス・パルマー伯爵、オリアス・クラウトン準男爵、サバンニさん、ラスタール卿、オルグ村長、バンダルさんの七人は、ポートレスの領政所の会議室で、二回の会合を行い、契約書を作成した。それをいったん持ち帰り、それぞれで吟味した後、三回目の会合で三枚の写しに署名し、アレス様とサバンニさん、バンダルさんの三人で交換した。


 契約内容の骨子は次の通りだ。


 一、ポートレス港の所有者であるパルマー伯爵は、ここを〈自由交易港〉とし、国交の有無に関係な 

  く、認可された商人が自由に交易をおこなう権利を保障する。


 二、交易をおこなう商人は、使用税として、一回につき銀5ボルム(銀貨5枚分に相当)に交易で生じ

  た利益の一割を加えて、交易事務所に納める。



 三、港とそこに隣接する指定区域内での飲食、宿泊、商売等の行為は、公衆の利益に反しない限り認め 

  る。


 四、交易事務所は、パルマー伯爵、サバンニ商会、バンダル商会がそれぞれ信用できる人物を出向さ

  せ、その三人と共同選考によってえらばれた十二名の事務員によって業務を行う。主な業務は、正確 

  な納税の監視および管理、交易船の乗組員の登録および健康状態の確認、航海に関する情報の記録と

  提供等とする。


 まだ、他にもこまごまとした内容の記載もあったが省略する。

要するに、この契約内容は、単に現在の関係者だけに適用されるものではなく、将来を見据えて、誰でも希望する者は国に関係なく自由に交易をおこなえるように、と考えられて作られたのだ。



 俺は、二回目の会合の中で、ずっと心に引っ掛かっていたことを、思い切ってラスタール卿に問い掛けた.

「ラスタール卿、一つ心配なことがあるのですが……ゲルベスタ鉱石を見て、法王様はローダス国王に、再びルンダ大陸への軍の派遣、侵攻を進言されたりしませんか?」


 俺の言葉に、他の出席者たちも緊張した顔でラスタール卿に注目した。


 ラスタール卿は、少し苦笑を浮かべた後、おもむろに口を開いた。

「この場で一つ知っておいてもらいたいことがある……わしは、確かに国教会で法王様のお側に仕える者だ。だが、それはわしの家が代々継いできた職務を受け継いだだけのこと。

そのもっとも重要な職務は、国教会の組織を正常な状態に維持すること。つまり、組織が正常に機能しないと判断したときは、それを正すように動くということなのだ……」

 ラスタール卿はそこで間をおいて、俺に目を向けた。

「……トーマ、お前は不思議な力を隠し持っている、いや、ここでそれを白状しろとは言わぬ。だが、お前はすでに気づいておるのだろう?現在の法王が、その地位にふさわしくない所業をおこなっていることを……」


 それは、その場にいる者全員が驚愕するような告白だった。ラスタール卿は、あえて、自分の主、絶対的権力者である法王を公然と弾劾したのだ。

 俺は、そのラスタール卿の勇気と誠実さに応えなければならないと思った。


「実は、先日、ラスタール卿がお話になったジャミール遺跡に、以前行ったことがあります。そこで狩りと訓練をしたのですが、たまたま、遺跡の地下への入り口を発見して、入ってみたのです。すると、そこには二十人ほどのゾンビがいました……」


「な、なんと……」

「ゾ、ゾンビ?」

「まさか、そんな……」


 ラスタール卿も他の者たちも、俺の告白に青ざめて息を飲んだ。


 俺は、話をつづけた。


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