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18 交易ルートは決まった 2

(さあ、忙しくなってきたぞ。ここからが正念場だ)

 アレス様と次の会合予定日を決めてから、俺は雨が上がった戸外へ出て、街の外を目指した。エラムの街から少し離れた、人目につかない林の中で、スノウに来てもらうように連絡を取る。

これからやることは、交易ルートが決まったことを獣人国の面々に伝え、その後、ローダス王国へ飛んで、サバンニに、ここまでに決まったことを伝え、彼が飛びつきそうな餌を見せるということだ。


 スノウが来るまで、俺は倒木に座って、日が差し始めた空をぼーっと眺めていた。

(あれ?……よく考えると、俺って、なんでこんな面倒なことやっているんだ?)

 ふと、心に疑問が浮かぶ。


『ゼムさんたちのためじゃないんですか?』


 うん、確かに、ブロスタの獣人たちに何かしてやりたい、と思ったのがきっかけだったけど……それが知らず知らずのうちに、こんな大きな話になってしまった……まあ、人を動かす、ってのは、それだけ大変だということだな。


 交易の準備が万端整ったら、俺は早々に手を引くつもりだ。何せ、俺の一番の人生目標は、この第二の異世界ライフを存分に楽しむこと、そして魔法という夢の力を極めること、なのだから。


『ご主人様、来たよ~』

 パルトスの街からなので、本当にあっという間だ。スノウは嬉しそうに空中で一回くるりと回ってから、俺のもとへ突進してきた。


♢♢♢


「な、なんだ、この剣は……」

 サバンニは、俺が抜いたゲルベスタ製の剣を見て、目を丸くした。


「これは、獣人国でゲルベスタと呼ばれる金属で作られた剣です」

 赤い光を放つ美しい剣を、俺は再び鞘の中に収めた。それは俺がベローズ村の鍛冶屋で手に入れたものだ。

サバンニは、もっと見たい様子で剣に手を伸ばしかけたが、ぐっとこらえて一つ咳払いをした。


「なるほど、確かに素晴らしい剣だ。商品としての価値も高いだろう。だが、私はミスリルが欲しいと言ったと思うが……」


「はい。もちろん、ミスリルも入荷する予定です。ただ、このゲルベスタは、性能的にはミスリルを超えます。まあ、魔法が使える者でなければ、その性能を十分に生かせませんが」


 俺の言葉に、サバンニは顎に手を当てて少し考えてから言った。

「よかろう、そのゲルベスタという金属も交易品に加えよう。もう他には、めぼしい品物はないのかね?」


「そうですね……まあ、果物はまた次回にいくつかお見せしますよ。あとは……これなんか、どうです?」

 俺はポケットから、金色の金属の塊を取り出して見せた。


「ん?金か?」


「いいえ、金ではありません。よく見てください」

 俺は、その金属の塊をサバンニに渡した。

 それは、俺がルッダの街の雑貨屋で、あり合わせの銅の鍋と亜鉛が含まれる女性用の化粧品を買って、宿屋の部屋で〈調合〉のスキルを使って間に合わせに作った粗悪な「真鍮」だった。


「うむ、確かに金ではないな。固いし、輝きも少ない」

 サバンニは、手に持った金属の塊をあらゆる角度から眺め、ナイフで表面に傷を入れた後、俺の顔を覗き込んだ。

「これは、何だね?」


「それは、〈シンチュウ〉という合金です。アウグスト王国では割と使われている金属です」


 俺は以前、王都に行ったとき、アルバン商会のジョアンさんに真鍮の作り方を教えたことがある。彼はそれを特許申請すると言っていたので、実際に見たわけではないが、ある程度王国中に広まっているはずだ。


「ほう〈シンチュウ〉ね……」


「はい。加工もしやすく、錆びにくい。合金の混ぜる割合を変えることで、色合いも硬さも変えられます。それこそ、金にそっくりなものから、銀より硬いものまで……」


 俺の殺し文句に、大商人の目がきらりと光った。

「ほう…で、その混ぜる金属とは……」


「それは言えません。アウグストの王都にある商会が、特許権を持っていますからね」


 俺はそう言ったが、まあ、炉の温度を変えて、溶ける金属を分けてみれば、何の金属が使われているか、すぐにばれるだろう。


「ふむ、そうか……よかろう、これも交易品の中に入れるとしよう。では、あとは契約書の作成と締結となるわけだが、君がさっき言った関係者が、一度に会合できる場所はあるかね?」


 俺は少し考えてから、彼にこう提案してみた。

「サバンニさんさえよければ、これから交易の場所となるポートレスの港でどうですか?ここからは少し遠いですが……」


 サバンニはにやりと笑った。

「確かにそこが最適地ではあるな。私にとっては、敵の腹の中だが……ふふ……幾多の修羅場をくぐってきた商人として、退くわけにはいかぬな。よかろう、日時が決まったら連絡してくれ」


「ありがとうございます。ポートレスに行かれるときは、僕が水先案内人兼護衛として、船に乗らせていただきますよ」


「ほう、それは楽しみだな」


 俺たちはしっかりと握手を交わした。


(よし、これで大物は片付いたな。残るはゼムさんたちの説得だ)

 俺はルッダの街を出て、ブロスタへ向かいながら、まだ、観光しか考えていない獣人たちを、どう説得して交易の仕事に引き込むか、これが一番の難題かもしれない、そう考えていた。


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