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16 交易ルートを考えよう 3

 バンダルさんたちの船を見送った後、ザガンの要望に応じて、洞窟の内部を土魔法で拡

大し、ついでに従者たちの休憩室も造ってやった。


「じやあ、またな」

 俺はスノウに来てもらって、スーリアたちの見送りの中、手を振って別れを告げた。


「ああ、また世話になった。この恩は必ず……」

 ザガンの言葉を途中で手で遮って、心の声で続けた。

(それは、なしだ。その代わり、これからもお互いの繁栄のため、協力をお願いする)


『分かった。約束しよう。あ、リアもトーマ殿にお礼を言っている』


 俺は、スノウの背中に乗って空中に上がっていきながら、リアに親指を立てて小さく頷く。彼らは、俺が俺が夕暮れの空の彼方へ消えるまで、ずっと手を振り続けていた。


(さて、次にやることは……いろいろあるが、とりあえずあの人に会うか。スノウ、進路、北西に頼む)


『オーケー、じゃあ、ビューンといくわよ』


 うおお、いつもながら加速が半端ねえ。これなら、二十分はかからないな。


♢♢♢


 アウグスト王国の北の端、元パルマー伯爵領ポートレスの街。昔は北回りの交易船の基地として栄えていたが、パルマー伯爵がボイド侯爵の策略によって罪を着せられ、刺客に命を奪われてからは、ボイド侯爵の支配地になり、重い税金が課されたり、港の整備などがされなかったりで、治安も悪くなり、すっかり寂れた街になっていた。

 しかし、半年前、伯爵の長男、アレス・パルマー子爵が、主家に反旗を翻して、ボイド侯爵の不正と国家転覆の計画を暴き、国王の前で亡き父の汚名を晴らしたことで、街は再びパルマー家の領地となり、昔の活気が戻りつつあった。


「アレス様?ご領主のアレス・パルマー伯爵様のことですか?」


(あ、そうか、アレス様はあの件で、子爵から伯爵に昇格したんだな)


「あ、はい、その伯爵様です」


 ポートレスの冒険者ギルドの受付嬢は、怪訝な顔で俺を見つめながら言った。

「伯爵様は、こことブラスタの街の中間にあるエラムの街のお屋敷においでですが……あなたは、いったい……」


「あ、そうですか。分かりました、ありがとう」

 俺は面倒な説明をする前に、そそくさとギルドを後にした。


(なるほど、爵位が上がって、領地も増えたんだな。ブラスタの街も直轄の領地になったのか。出世したな、アレス様)


 俺は、すっかり日も落ちた街の通りを歩きながら、一人納得して小さく頷く。とりあえず、今夜の宿を探して、明日早朝にエラムへと向かうことにした。


 翌朝はあいにくの雨だった。宿で簡単な朝食を済ませてから、フード付きのコートを着て外へ出ていった。街の門を出たところで、無属性魔法〈防御壁〉で体全体を覆い、加速を使って走り出す。

 二つの魔法を同時に使うので、魔力の消耗は多いが、〈防御壁〉は雨を防ぐためだけの薄いものだったので、一時間くらいは走り続けても大丈夫である。


(戦闘用のブーツは、やっぱりぬかるんだ道を走るには重いな。普段履きのブーツ買うか…)

 途中で休みながら、三時間近くかかって、ようやくエラムの街の門の前に着いた。防御壁を解き、数台並んだ馬車の後ろに並ぶ。


 このエラムの街は、パルトスの街から西へ十五キロほどの距離にある小さな街だ。小さいが、農業や牧畜が盛んな地域の中心にあり、街の大きな市場は、連日、買い付けに来る商人や遠くからの買い物客などで賑わっている豊かな財政の街でもある。


「よし、次」

 俺の番が来たので、衛兵に身分証の代わりのギルドカードを差し出す。


「冒険者か。商人の護衛か?」


「あ、はい、そんなところです」


 俺の答えに、衛兵は眉を少しひそめながらもカードを返して、「通れ」と言った。

 だって、領主様に会いに来たって本当のこと言ったら、それこそ怪しまれて面倒なことになるからな。


♢♢♢


(さて、アレス様の屋敷って、どこだろう?ナビ、分かるか?)

『ちょっとお待ちを……確かだとは言えませんが、ここから北東に、他の家よりは少し大きな館があります。そこの可能性が高いかと』


 ナビにも確信が持てないほど、領主の屋敷というには小さな建物らしい。偉くなっても、相変わらずライナス様は質素な暮らしぶりのようだ。


 雨はまだ降り続いていた。むしろ、先ほどまでより強くなっている気がする。


「あのう、すみません」

 俺は、ナビが教えてくれた建物の門の前まで来ていた。門番がいるので、確かに貴族か金持ちの屋敷には間違いないだろう。


「ん?何だ、お前は?」

 門番の兵士らしい男は、門の横にある詰所の窓から顔を出して、胡散臭そうに俺を見た。


「ええっと、ここは、パルマー伯爵様のお屋敷ですか?」


「ああ、そうだ。お前のような者が来る……」


「よかった。伯爵様に会いに来ました。トーマが来たと伝えてください」


「な、お前が、伯爵様にだと?いったい、どういうことだ?」


 ああ、毎度のことながら面倒くさい。俺が金ぴかの服を着て、馬車にでも乗って来れば、通してくれるのかよ。


「えっと、俺をこのまま帰してしまうと、おじさん、伯爵様からすごく怒られると思うけど、もう面倒くさいので、帰ることにするよ。じゃあね」

 俺はそう言って、にこりと微笑み、体の向きを変えようとした。


「ま、待て……執事に取り次いでくる」

 門番は俺の脅しにまんまと引っ掛かって、慌てて雨の中を駆け出していった。


 門番が屋敷の中に消えて一分も経たないうちに、屋敷のドアが勢いよく開いて、背の高い人物が飛び出してきて、その後ろから、執事らしき老人とメイド服を着た女性、そして門番が、追いかけるように走ってきた。


「トーマっ!あはは……トーマ、久しぶりだな、会いたかったぞ!」

 今を時めく若い伯爵が、雨に濡れるのも構わず門に駆け寄り、その後ろから何か喚きながら、老人が傘を伯爵に傘をさしかけ、メイドがレインコートを伯爵の肩に着せかけている。他の誰かが見たら、何事だろうと目を丸くしたに違いない。


「アレス様、お久しぶりで、うわっぷ!」

 まるで、戦場から息子が生きて帰ってきたかのように、伯爵は門扉を勢いよく開くと同時に、俺をしっかりと抱きしめた。


 な、なんかさあ、柄にもなく故郷のリュート兄さんや親父のことを思い出しちゃったよ。雨に濡れていたけど、あったかい腕だったんだ。


 俺は、アレス様に拘束されて屋敷に連れ込まれたんだけど、すぐに侍女兼護衛役のメリンダさんに、「濡れている」、「汚い」と散々ののしられて、まずは風呂に入って着替えろと、そのまま浴室に追い立てられたのだった。


(いや、汚いって、宿屋で湯あみくらいしてますけどね……しかし、すごいな、常に温かいお湯が出てくるなんて……外に給湯器があって、誰かが薪を焚いているのかな?……うん、魔石を使った湯沸かし器なんて作ったら、売れるかもな)

 俺は石造りの湯船に浸かって、彫像のドラゴンの口から出てくるお湯を見ながら、そんなことを考えていた。


読んでくださってありがとうございます。

少しでも面白いと思われたら、★の応援よろしくお願いします。

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