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15 交易ルートを考えよう 2

「僕に一つ考えがあります」

 俺はずっと前から温めていた考えを、三人に話した。


「アウグスト王国に中継基地を作ったらどうでしょう?交易はそこで行う。そうすれば、儲けの金銀だけ持ち帰ることができる……」


 三人は目を見開いて、身を乗り出すように俺を見つめた。


「何かあてがあるのかね?」


 村長の問いに、俺は頷いて言った。

「はい。実は、俺、もともとアウグスト王国の出身なんです。そして、そこの貴族の何人かと面識もあります。そのうちの一人の貴族の領地が、この大陸の対岸にあるんです」


「それはすごい。貴族と面識があるということは、君もそれなりの身分の生まれかね?」


 バンダルの問いに、俺は首を振って続けた。

「いいえ、俺は農民の息子です。まあ、そこら辺の事情は長くなるので、割愛しますが、話をすれば、きっと協力してくれると思います」


「よし、バンダルさん、こうなったらやるしかないぜ。うちも船員や護衛の調達には協力を惜しまないよ」

 ラーシルさんの言葉に、バンダルも頷く。

「うん、やってみよう。細かい打ち合わせは、後にするとして、まずは、それぞれで今できる準備をしておくとしよう」


(よしよし、計画がだいぶ形になってきたぞ。ゼムさんたちに、より具体的な話ができる)


♢♢♢


 それから二日後の朝、俺はバンダルさんの船に乗せてもらって、ゴラン大陸へ向けて出発した。船は真西に向かって、最短距離でゴラン大陸へ進む予定だったが、俺はある考えがあって、バンダルさんに南西へ向かってもらうように頼んだ。


「この先に、島があります。そこで下ろしてもらえればいいです」


「えっ、いいのかい?その島から大陸までは、まだ遠いんだろう?」


「はい、大丈夫です。その島には仲間がいますから、バンダルさんにも紹介したくて」

 俺の言葉に、バンダルさんはまだ不可解な表情だったが、それ以上は何も言わず、操舵手に南西へ舵を切るように指示した。


(ナビ、島までの進路案内頼む)

『了解しました。進路1時の方向へ15度お願いします』


「すみません、操舵手さん、あと15度東へお願いします」


 一本マストのスループ船はよく晴れた空の下、帆に風をいっぱいに受けて進んでいく。やがて、水平線の向こうに、小さな島影が見えてきた。

 と、その時、見張り台から岩礁や魔物を見張っていた船員が、声を上げた。


「報告っ、前方にマーマンらしき魔物三体、発見!こちらをうかがっている様子です」


 その声に、船内が一気に騒然となり、人足屋から派遣された護衛の男たちが、武器を手に船首へ走っていった。俺も、彼らと一緒に急いで船首へ向かった。

 俺の予想が正しければ……。


「ああ、やっぱりそうだ。おおい、俺だよ、お久しぶり」

 俺は、前方を泳ぎながら、波間からこちらを見ているマーマンたちを見て、大きく手を振った。三人のうち、一人は初めて見る顔だったが、あとの二人には見覚えがあった。あのザガンとリアに仕えている従者たちだった。


「大丈夫です。彼らとは顔見知りですから」


 俺の言葉に、船内はさっきより大きな驚きの声に包まれた。

 まあ、その後、バンダルさんや船員たちにさんざん質問攻めにあって、説明するのに苦労したことはご想像の通りだ。


 ともあれ、約一時間後、船は無事に島の入り江に錨を下した。


「バンダルさん、島に仲間がいるといったのは、ここに住むスーリア族たちのことです。彼らとは、あることがきっかけで仲良くなりました。今後の交易の中で、もしかすると彼らの力を借りることがあるかもしれない、そう考えて、あなたに紹介しようと思ったのです」


「あ、ああ……なんというか、君には驚かされてばかりだな。あはは……だが、これでこそ世界を股にかけて航海する価値があるというものだ、うん、おもしろい」

 バンダルは少し強がっている様子だったが、笑いながらそう言った。


「昼食は島でとることにしましょう。ただ、スーリア族の者たちも、あまりたくさんの人間が上陸すると緊張すると思うので、バンダルさんが何人か選んでください」


「ああ、分かった」


 その後、俺たちは救難用の手漕ぎボート二艘に分乗して、島に上陸した。ボートは、スーリア族の男たちが、砂浜に引き上げておいてくれた。


♢♢♢


 バンダルさんたちが開けた場所で焚火をたき、昼食の準備をはじめる傍らで、俺は、秘密の抜け穴の所へ行き、岩をどかして中に入っていった。


(ザガン、いるか?驚かせてすまなかった)


『ああ、ここだ。久しぶりだな、トーマ殿。今、報告を聞いたところだ』


 一番下まで降りていくと、そこには最初にここを作った時とは見違えるような光景が広がっていた。入口から差し込む光は、水中の何個所に置かれたクリスタルの装飾品によって、洞窟全体を淡いブルーの光で照らし、かがり火の赤い光が水面に美しく映えていた。

 ザガンとリラが快適に住めるように、サンゴのテーブルや調理用の石のかまども置かれていた。


(おお、なんか素敵な地下宮殿になってきたな。それに、なんか人数が増えてるんだが)


『ああ、実は、ここから北の水域に住むスーリア族の中の何人かが、私たちに仕えたいと来てくれたんだ。まだ、これから増えるかもしれない』


(おお、それはよかったな。やはりザガンには王の資質があるんだよ。もし、何か必要なものがあったら言ってくれ。次に来るときに持ってくるから)


『ありがとう。実は、この洞窟をもっと奥に広げたいと思っているんだ。次の時でいいから、トーマ殿にお願いできないだろうか?』

 俺は笑いながら親指を立てた。

(お安い御用だ。すぐにでも、と言いたいところだが、ちょっと、俺の用事に付き合ってくれないか?)


『ああ、もちろん。今、地上にいる人間たちのことだな?』


 俺は頷いて、簡単にバンダルのことと、俺がこれからやろうとしていることを話した。


『分かった、もちろん協力はしよう。だが、我らは何をすればいいのだ?』


(ありがとう。じゃあ、それを上で話し合おう。一緒に来てくれ)


焚火の周りでお茶を飲みながら、周囲の景色を楽しんでいたバンダルさんたちは、林の中から現れた俺と三人のスーリア族の男たちを見て、思わず立ち上がった。


「皆さん、紹介します……」


 こうして始まったザガンとバンダルさんの初めての会合は、俺の通訳を介する形で終始なごやかに進んでいった。

特に盛り上がったのは、昼食だった。スーリア族の従者たちが、両手に抱えてきた様々な海の幸は、バンダルさんたちを大いに喜ばせた。船の料理担当とスーリア族の男が、身振り手振りで意思疎通を図りながら、豪勢な海鮮料理を作って運んできたときには、全員が一斉に歓声を上げて喜んだ。


 この会合で決まったのは、以下の二点だ。

1 バンダルさんとゼムさんの船が、ときどきこの島に立ち寄り、スーリア族と交易をする。そのさい、スーリア族は海産物や真珠、魔石などと欲しい物を交換できることとする。

2 交易ルートが決まったら、スーリア族は、そのルートの魔物や気象などの情報を人間側に教える。そのさい、船には船首にスーリア族の胸像を飾り、連絡員は海上でそれと分かる装飾品(後にバンダルさんは、銀地に宝石をあしらったブレスレットを二つ用意した)を身に着けておくこと。

  言葉は通じないので、考えられる魔物や気象を描いたカードを、お互いに指さすことでコミュニケーションを図る。


 まあ、初めてのことなので、不都合が出てきたら、その都度改良していくことにした。


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