1 新大陸を調査するよ 1
第二部の連載を開始しました。
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(はあ?)
俺は、思わず声を上げそうになるのを慌てて手で抑え、心の中で叫んだ。
(なあ、ナビ、前にも言ったけど、この星を創った神様ってさ、絶対地球観光に行ったことがあるだろう?それに、絶対オタクだよな?)
この星が、俺が知っている宇宙と同じ宇宙の中にあるのか、地球とどれくらい近いのか遠いのか、それは分からない。だが、視線の先にいる生き物を見て、俺は確信した。この星の神は、〝地球オタク〟に間違いない、と。
『さあ、神様のことは分かりませんが、マスターの言いたいことは分かります。でも、いいじゃないですか、マスターも嬉しそうですし?』
こいつには、いつもこうやってはぐらかされる。絶対何か知っていると思うんだけどな。まあ、確かに、少し、いや、かなり喜んではいますけど……。
だって、だってよぉ、〝馬ムス〟だぜ、〝馬ムス〟。俺の視線の十数メートル先に、若い馬の獣人がいるんだぜ。それも、馬顔ではなく、可愛い顔の、あの有名某ゲームのキャラそのままの姿の少女が……。
オホンッ、失礼、つい興奮してしまった。
さて、今、俺は新大陸ルンダにいる。ここに至るまでの経緯を簡単に語ろうと思う。
あの日(前編の最後を参照されたし)、リト兄妹や獣人の冒険者たちと一緒に、ゼムさんの船で海に漕ぎ出し、予定通りシーサーペントを海の藻屑にしてやった。その後、少しばかり準備をしてから、ゼムさんにお願いして、途中の島まで船で送ってもらったのだ。
その島は、ゴラン大陸とルンダ大陸の、少しルンダ大陸に近い海に浮かぶ小さな島だ。かつて、戦争時代には、ローダス王国軍の補給基地になっていたらしい。今では草木が生い茂り、鳥や小動物の楽園となった無人の島だ。
ここまで船と一緒に泳いできたザガンとリラ、そして二人のスーリア族の男たちは、この島が気に入ったらしい。
『ここは食料も豊富だし、下の方には隠れ家になりそうな洞窟もある。我らはここで暮らそうと思う』
(そうか。良い場所が見つかって良かったな)
『トーマ殿には世話になった。何もお礼ができないのが心苦しいが……』
(いや、お礼をされるようなことは何もしてないよ。まあ、たまに遊びに来るから、その時は旨い魚をごちそうしてくれれば嬉しいかな)
『ああ、そんなことでよければ、いつでも来てくれ。待っているよ』
俺はふと思いついて、こう言った。
(そうだ、少し住みやすくしてやろうか。それに、敵が来たとき、防ぎやすい方が良いだろう。なあ、その洞窟って、一番奥は島のどのあたりになるんだ?)
ザガンは頭の上に?マークを浮かべて、戸惑いながら答えた。
『よく分からないが、入り口から距離を考えながら泳いでいけば、おおよその位置は分かるかもしれない』
(よし、やってみてくれ大体の位置が分かればいいんだ)
ザガンは頷くと、入り口がある崖の方へ歩いて行った。
『この下に入り口がある』
(分かった。じゃあ、ロープを渡すから、もう一人誰かに手伝ってもらって、そのロープを持って洞窟に入ってくれないか?)
『なるほど、分かった』
ザガンは俺の考えを理解してにっこり微笑んだ。
俺はリュックの中を探るふりをして、ストレージから、村を出るとき持ってきた二十メートルほどのロープを取り出した。
(もし、ロープが足りなかったら、後はだいたいの長さを目算で測ってくれればいいよ)
ザガンは頷くと、一人のスーリア族の従者の男を連れて崖の下に下りていった。
ザガンの測量はすぐに終わった。洞窟の内部はさほど深くはないらしい。彼は海から上がって来ると、伸ばしたロープの先端をつかんだまま、従者の男を崖の端っこに立たせて、自分は島の内部に向かってロープがピンと張る所まで歩いて行った。そこは、まばらに灌木が生え、草が生い茂った場所だった。
『この辺りだ。入り口から少し右に曲がっていた』
(よし、了解した。じゃあ、しばらく待っていてくれ)
俺はそう言うと、ザガンが立っている所へ行き、頭の中で一つのイメージを描いた。
(1メートルじゃちょっと狭いかな……1メートル30センチでいいだろう)
俺は土魔法で、一辺が1.3メートルの立方体を斜め下方向へ次々に切り取っていった。こうすれば、自然に階段ができるわけだ。切り取った土と岩はすばやくストレージに収納していく。そうやって14、5メートルほど掘り進むと、ガラガラ、バシャンと岩が崩れて水の中に落ちる音が響き、斜め下に空洞が開いた。
入口からの光が、一筋の青い宝石のような道を作り、俺が開けた斜めの穴から入って来た光が、空洞全体をほのかに照らしている。さほど広くはない空洞だが、ザガンとリラが二人で暮らすにはちょうどいいくらいだろう。
俺はストレージに収納していた立方体の土石を目の前の海水中にどんどん出して、階段に続く足場を作っていった。
(よし、こんなもんかな。ザガン、リラと一緒にここまで下りて来いよ)
俺の呼びかけに、ザガン、リラ、そして二人の従者の男たちも、ブガブガと感嘆の声らしきものをつぶやきながら、恐る恐る階段を下って来た。
(もし、海で敵に襲われたら、この穴を通って地上に避難できるし、逆に地上の敵に襲われたら、海に逃げることもできる。普段は、地上の入り口は岩で塞いでおけば安全だ)
『な、なんというか……すごいな、トーマ殿は。しかし、これはとてもありがたいよ』
ザガンもリラも男たちも、キョロキョロと辺りを見回しながら、何度もため息を吐いていた。
こうして、ザガンたちの新居が決まり、俺は彼らといったん別れを交わして、ルンダ大陸へと向かったのである。
えっ? どうやって海を渡ったのかって? ふふふ……それはもちろん、あれですよ、あれ。
《わーい、ご主人様だぁ、お久しぶりぃ》
(おお、スノウ、久しぶりだな。元気だったか?《木漏れ日亭》の皆も元気か?)
《元気元気、みーんな元気だよ》
夕暮れの空の彼方から、真っ白い犬の姿の神獣が一気に下りて来る。
スノウは俺にぶつかる勢いで横をすり抜けると、その細長い体をぐるぐると巻き付け、俺を地面に倒して、すごい勢いで俺の顔を舐め始めた。
その一連の様子を見て、スーリア族の面々は、突然俺が発作を起こしたか、毒虫に刺されて苦しみ始めたと思ったらしい。まあ、それは仕方がない。彼らにはスノウが見えないからな。
というわけで、俺が簡単に説明して、まだ夢を見ているかのようなスーリア族の面々と別れのあいさつを交わし、空へと飛び立っていったというわけだ。