第3話 婚約破棄なんてパワーで解決ですわっ! 後編
決闘には細かいルールはない。
相手に「参った」と言わせるか、意識を飛ばしたら勝ち。
魔法や剣技だって使ってもいい。
あと、基本的に相手を殺してはならない。
かなり雑だけど、シンプルでいい。
「ははっ! 公爵令嬢ごときがオレに勝てるわけがないだろう」
そう高らかに叫ぶと同時に、レン王子の背後に炎が現れた。
途端に周囲の気温が上昇して、額に汗がにじむ。
最初はただ広がるだけだった炎が、少しずつ形が整えられていき、9本のキツネの尻尾が出来た。
まるで九尾の狐だ。
野次馬からは「おー」と感心の声が漏れている。
「これが何なのか、もちろん知っているだろう?」
「存じておりますわ。『火の精霊』。何度見てもキレイですわね」
「ふん。そんなお世辞で手加減はしないぞ」
「ええ。問題ありませんわ」
この世界には、火・水・風・土の4つの魔力がある。
基本的に1人に1つ。
平民はほとんど持っていなくて、貴族や王族が有していることがほとんどだ。
というか、強い魔力を有していることが貴族の主な存在理由だったりする。
その他にも特別な魔力があって、その1つがゲーム主人公ことイベリスの持つ『願いの魔力』だ。
そんな魔力持ちの中でも、とびっきり強力な力を持っているのが『精霊憑き』。
そして、レン王子は『火の精霊憑き』だ。
わたしは『精霊憑き』じゃない。
魔力の差は明らか。
でも、わたしの心は覚悟を決めた。
本当は自信があまりない。
だから、このパーティーから逃げていた。
それでも、やらないといけない時だ。
「いくぞ。死なないように気を付けるんだな」
レン王子の手のひらから、火球を放たれた。
人ひとりなら簡単に炭にできそうな大きさだ。
アタシは足に力を込めて、地面を操る。
アタシの魔力は土。
土の魔法は地面を作り出したり、操ることができる。
その中でも、わたしが最も得意としてるのが『土人形』だ。
造形はもちろん、最推しのハイエナ獣人。
彼がわたしを守る執事になってくれたイメージだ。
まあ、かなり大きいんだけど。
多分、全長で4メートル近くある。
そのせいでパーティー会場はぎゅうぎゅうだ。
そして、土人形が腕で払うと、レン王子の火球は消え去ってしまった。
「なっ……!」
レン王子の表情が初めて曇った。
だけど、すぐに何度も火球を放つ。
それでも土人形の表面を少し赤熱させるだけで、びくともしていない。
「舌を噛まないでくださいね?」
土人形がデコピンをすると、レン王子は吹き飛ばされて、気絶してしまった。
しばらくの静寂。
その後、大歓声が上がった。
「そんなちっぽけな魔力で、わたくしに勝てると思いまして?」
勝った。
完勝だ。
よかった~~~。
正直、本当に勝てるとは思っていなかった。
この時のために特訓した甲斐があったっ!
わたしは思わず右手を掲げて「ヴゥォオオオッ」と叫んだ。
プチハイエナの声真似が無意識に出ちゃった。
「大丈夫ですか!? レン王子!」
イベリスはレン王子に駆け寄って、上体を起こした。
だけど、レン王子は気絶したままぐったりとしている。
その姿を見て青ざめたイベリスは、わたしに鋭い無線を向けた。
「あなた、卑怯なことをしたのではありませんか!?」
「いや、正々堂々戦ったんですけど……」
「その体で、レン王子に勝てるわけがありません!!」
(ん? 言い回しに違和感があるなぁ)
きっと動転して、言葉がおかしくなってしまったのだろう。
「これでもずっと特訓してきたしたから。誰にも負けないように」
「特訓……ですか。それでも、ありえない……」
「楽な特訓ではありませんでした。でも、わたしには心強い師匠がいましたから」
「師匠……」
たしかに、レン王子の魔力はわたしよりも強力だ。
でも、扱い方ならわたしの方が圧倒的に上手だった。
まあ、火の魔力なんて燃やすことしかできないもんね。
土の魔力だったら『理想の推し』に守ってもらえるのに。
それに、わたしには心強い師匠がいた。
おかげさまでかなり成長することができたし、今度何かお礼しないとねっ!
「それでも……おかしいです。ありえないっ!」
「では、何度も決闘をお受けします、とレン王子にお伝えください」
今回のことで自信がついて、ついつい言っちゃった。
でも、いいよね。
一応婚約者なんだから、つながりを完全に断つのはかなしいし。
(さて、すっきりしたから帰りますか)
周囲が騒がしいけど、今は勝利の余韻に浸りたい。
あー。安心したらお腹減っちゃった。
ぐ~~~、とお腹が鳴って、近くにあったバゲットをそのまま齧った。
付け合わせもないとただのパンなんだけど、勝利の余韻もあってかとってもおいしい。
「あ……」
ふと、視線を感じると、そこには獣人の子供がいた。
薄汚くてわかりにくいけど、ハイエナ獣人だ。
(わ~~~。ハイエナ獣人! ずっと見つけられなかったけど!)
どうして、ここに獣人の子供がいるのだろうか?
あ、わたしの推しに似ている気がする。
でも、推しはもっと大人だった。
確か登場は今から1年後だから、同じハイエナ獣人じゃないと思う。
わたしは目線を合わせるようにかがんだ。
「えっと、食べる?」
わたしはお話しする口実が欲しくて、バケットを差し出した。
あ、やば。
わたしが齧ったやつじゃん。
慌ててひっこめようとした。
だけど、子供ハイエナは奪うようにバゲットを持ち去っていってしまった。
その後姿も可愛くて、思わず頬にえくぼができちゃう。
(ああ~~。やっぱりハイエナ獣人はかわいいなぁ~~。推しに早く会いたいな~~~)
周囲は大騒ぎだったけど、わたしはずっとニタニタとしていた。
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