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第13話 重力

 わたしはローブをさらに深くかぶった。

 念のため、顔を見られないように。

 彼の顔を見ないように。


 そして、ペリットとすれ違おうとした。 



「ロコス様!」



 なのに。

 ペリットは、わたしの前で止まった。



「なんで無視するんですか!? 俺、何かしましたか!?」



 唖然とした。

 なんでわたしがロコスだってわかるの?



「ひ、人違いではないでしょうかっ」

「何を言ってるんですか? 何か悪いものでも拾い食いしましたか?」



 これは確信を持っている顔だ。

 なんで?



「えっと……わたしの顔、わかるの?」

「何を言っているのですか? 俺がロコス様の」 



「あれ? なんでわたしの姿は変わってないの? 『願いの魔力』を使ったのに」

「まさか、レン王子の野郎に会ったんですか!?」

「野郎って……」



 ペリットさん、本音漏れてますよ?


 『願いの魔力』が効果を発揮したから、レン王子たちは消えたはずだ。

 絶対に発動したはず。

 それなのに、わたしの顔は変わってない?

 なにが起きているの……?



「足元が……」

「え?」



 ペリットの指差したところを見ると、花が咲いていた。


 とても瑞々しくて、月明かりだけの夜道では光って見える。

 それも一本だけじゃない。

 石造りの道に、花畑が出来ていた。


 さっきまではなかったはずなのに。



(うそ、でしょ……?)

 


 この現象には、見覚えがある。

 おばさまと同じ。


 『土の聖女』の証。



「あれ? なんで?」



 これって、そういうことがよね。


 わたしは『土の聖女』になっちゃった……?

 おばさまが死んで、次の『土の聖女』に選ばれてしまった?


 おばさまの顔が浮かんだ。

 とっても力強くて、優しい顔。


 でも、つぎの瞬間には血で染まった。

 ぐったりと倒れて、炎に包まれて、骨になってしまった。


 あの時の肉の焦げた匂いが、蘇ってくる。



「い、いやっ!」



 こわい。

 え? わたし、暗殺されるかもしれないの?


 おばさまみたいに矢に撃たれて燃やされて、死んでしまうの?


 ずっとずっと怯えないといけないの?

 窓をみるたびに、矢に撃たれるかもしれないと思うの?


 え?

 どうして?


 もう嫌だよ。


 あ、そうだ。

 願いの魔力を使えば。


 あ、ダメだ。

 さっきわたしが使っちゃったんだ。

 そもそも願いの魔力は効かないじゃん。

 だからわたしはロコスの姿のままなんでしょ?


 え?

 じゃあ、もうどうしようもない?


 うそでしょ?

 わたし、どうなっちゃうの?



「逃げたい。逃げたい逃げたい逃げたい逃げたい」



 でも、わたしが逃げたらどうなるの?

 もしかして、わたしが土の聖女になることで両親は処刑されずに済む?


 その代わり、わたしはずっと怯えて生活しないといけなくなるの?

 ペリットとも離れ離れになる?

 そんなの嫌だ。

 でも、どっちもは選べない。


 どうしよう。

 どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。


 もうヤダよ。

 考えたくない。

 でも、考えないとダメ。


 えっと。

 えっとえっとえっとえっとえっとえっとえっと……。


 あ、やばい。

 臭いが漂ってきた。

 お屋敷が燃えて、なにもかもが崩れていく。



 おばさま。



 おばさまに刺さった矢。


 もしかして、わたしがとっさに抜けば助けられた?

 わたしが矢を止められれば助けられた?


 あれ?

 こうなったのは全部、わたしのせい?

 お父様とお母さまが処刑されるのも、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部ぜええええええええぇぇんぶ。

 


 わたしのせいだから、土の聖女になっちゃった?



 あ、あははははははははははは。


 なにやってるの、わたし。

 

 苦しい。胸が痛い。お腹の中身が全部ねじれたみたいに痛い。

 自分の体がどうなっているかわかんない。

 もう前が見えない。

 呼吸してるのかもわからない。

 


 もう死んじゃった方が楽じゃない? 



「ロコスッッッッッ!!!」

「――っ!」



 ペリットの声が聞こえた。

 涙のせいで、彼の顔はよく見えない。



「考えるのは後です。とにかく、今すぐ隠れないと」

「隠れるって、どこに……」

「ウンコ博士のところです。あそこなら、甘い花の匂いも隠すことができます」

「そ、そうだね。そうするしかない。じゃ、いこ――」

「そっちは反対方向です」

「ぁ……」



 わたしは



「冷静になってください。今が正念場です」



 ペリットの、とても強い眼差しを感じた。


 同時に一瞬、思ってしまった。

 なんでこんなに冷静でいられるんだろう、って。



「ペリットはいいよね。所詮は他人事だから。自分の家族のことじゃないから」



 あれ? わたし何言ってるの? 何言っちゃった?


 あ、ペリット、ひどい顔してる。

 わたしのせいだよね?

 彼だって小さいときに家族を殺されているのに。


 あれ、ペリットが遠くなってる?

 気のせい?


 ペリットもいなくなる?

 ヤダ。

 ずっと一緒にいたい。


 まだキスもしてないし、もっともっと一緒にやりたいことがある。


 でも、ここで離れた方がペリットは幸せかな?

 わたし、もう公爵令嬢じゃないし、お荷物にしかならない。



 自然と、わたしの手が伸びていた。

 ペリット。

 行かないで。


 だけど、ペリットは指を絡めた上に、抱きしめてきた。



「大丈夫です。少しぐらい毒を吐いてください。あなたの言葉で心に傷ができても、俺にとっては勲章です」



 背中をさすってくれる、ペリットの手の感触。



「あなたを苦しめる全てを殺します」

「はは。そこまでは言ってないよ」

「俺がやりたいんです」



 もうお別れの方がいいと思っていた。

 その方が彼のためになると信じようとしていた。


 でも、そんなのは言い訳だ。


 本当は怖かった。

 ペリットに見捨てられることが。

 わたしのせいでペリットがクズついてしまうことが。

 

 だから、距離を取ろうとした。


 でも、ダメだ。

 わたしはもうダメだ。


 彼がいなくちゃ、生きていけない。

 


「じゃあ、わたしを誘拐してくれる? どこまでも連れてってくれる?」

「かしこまりました。どんな場所でも、ずっとお供します」



 涙がポロポロとあふれ出た。

 ずっと泣くのを我慢していた。

 泣いたら動けないと思ってたから。


 でも、なぜか涙を流すたびに力が湧いてくる。


 わたしはこの人と離れたくない。

 いや、離れたくても放してくれないのかな。



 これくらい愛されるぐらいが、わたしにはちょうどいい。


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