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プロローグ

 オレは独りだ。

 いくら目を動かしても、叫んでも、同族はどこにもいない。


 家族はいた。

 両親に、5人の弟。

 とてもうるさくて、常に喧嘩が起きていた。

 ご飯の時間なんて取り合いだ。みんな必死に肉を奪い合って、我先にと食べていた。

 オレは一番のお兄ちゃんだったから、まだ小さい弟のために肉を取ってあげたりしていた。


 いつもいつも(にぎ)やかで、心が休まる時がない生活。

 オレはそんな日常が大好きだった。



 でも、もうなくなってしまった。



 声も足音も聞こえない。誰も喧嘩してないし、叱ってもいない。

 何度も自分に耳がついているか確認した。

 でも、オレの耳はちゃんとついていて、ずっとあの時(・・・)の音をリピートし続けている。



 家族の骨を断つ、鈍い音。



 全員、無表情に殺されてしまった。 

 突然襲ってきた人間の手によって。



 オレは1人で逃げた。

 ただただ必死だった。

 家族のことは心配だった。見捨てたくなかった。でも、どうしようもなかった。

 逃げ出したい気持ちを、抑えきれなかった。



 そして残ったのは、独りになった自分だけ。



 オレは屍肉で飢えをしのぎながら、さまよった。

 どこに何があるかとかは全然わからなかったけど、とにかく遠くに逃げようと歩き続けた。

 オレは、ずっと住んでいた山以外のことは何も知らなかったのだ。


 数日後、大きな街にたどり着いた。


 安堵した。

 こんなに人がいっぱいいるんだから、助けてくれるはず。


 オレは早速、大きな門から中に入ろうとした。


 だけど、待っていたのは侮蔑の視線だった。



【お前は(けが)れている】



 武器を持った人から、言われた。

 何とか入れてくれるようにお願いしたけど、全然聞く耳を持ってくれなくて、オレは夜中にずっと泣いていた。

 

 その後、こっそり荷物に隠れて街に入ることができた。

 でも、その先も地獄だった。


 ニコニコでリンゴを売っていたおじさんも、オレの顔を見るだけで鬼の形相に変わった。


 常に顔を隠して過ごさないと殴られる生活。

 とにかく隠れるようにして生き続けた。

 

 どうやら、オレがハイエナ獣人なのが悪いらしかった。  


 幸いなことにオレはなんで食べられたから、飢えることはなかった。

 ゴミ箱の中身でもご馳走だ。



 ゴミ箱を漁って。

 見つかって叩かれて。

 ゴミ箱を漁って。

 見つかって叩かれて。

 ゴミ箱を漁って。

 見つかって叩かれて。

 


 そんな生活を繰り返しているうちに、オレの中に芽生えた想いがあった。



 復讐してやる。



 大きくなったら、人間を殺してやる。

 今まで暴力を振るってきたやつら、家族を殺したやつらを噛み殺してやる。

 オレや、オレの家族と同じ苦しみを味わわせてやる。


 その憎しみだけを(かて)に、生き延び続けた。



 そんなある日、ある一人の女性を見かけた。

 いや、オレの前に現れてくれた、と言ったほうがしっくりくる。



 周囲の人を笑顔にしながら走っていく姿に、目を奪われてしまった。


 オレはこっそりと追いかけてしまった。

 彼女は怖い男に連れていかれて、大きな建物に入っていった。

 あとで知ったのだけど、お城というらしい。


 そこでは、キレイな服を着た人がいっぱいいて、見たこともない豪華な食事を食べていた。


 ついつい、お腹が鳴ってしまった。

 

 おいしそう。

 食べたい。


 でも、人間の前でご飯を食べたら殺されてしまう。

 いや……。


 この場にいる人間を殺してしまえばいいんだ。

 殺してしまえば、オレが殺されることはなくなる。

 それに、彼女を手に入れることもできるかもしれない。


 他の考えが思いつかない。

 もう、そうするしかない。


 意を決して部屋の中を襲撃しようとした。

 次の瞬間――。



 突然、父親が現れた。



 明らかに大きくてゴツゴツしていたけど、顔も体つきも完全に父親だった。


 オレは涙をこらえながら抱き着こうとした。

 だけど次の瞬間にはボロボロに崩れて、いなくなってしまった。



「うわっ!」



 突然のことでバランスを崩したオレは、転がり落ちるように大部屋の中に入ってしまった。



 そして、出会ったんだ。



 オレに向けてくれる、お月様みたいな笑顔。



 それと、とっても甘い、食べかけのバケット。


読んで頂き、ありがとうございます


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