第六話 挑戦状とトレーニング
前回のあらすじ!
晴れて弦が仲間になったが、ほまれは弦に疑念を抱く。
そんな中、ほまれと弦は、豪華客船で行われるパーティーで、命を狙われているブレイジー王国の王の護衛を任せられる。
王国の王女、エリスとの出会いや、暗殺者ジェリー・ポマードの宣戦布告を経て、二人のわだかまりは解けたのであった。
ブレイジー王国の護衛任務と、ジェリー・ポマードとの遭遇から二週間。
6月に入り、雨の日が増え、武島中の雰囲気も何だか重い。
そんな雰囲気をよそに、Arts Labの面々はいつも通り集まっていた。
「「「アーツ・クエスト?」」」
「そう、君たち三人やっと仲良くなってくれたでしょ?このタイミングで、アーツの使い方を再認識
させようと思ってね。密かに作っていたんだよ」
目を点にしている三人を置いて、春希は続けた。
「これはアーツの使い方を実戦形式で学べるソフト。このソフトの最大の特徴は、受講者本人がソフトの
中に入って特訓できるんだ!スゴイだろう?」
春希はソフトの概要を鼻を高くして語った。
「す、すげーー!春希先生、こんなの作れるんだ!」
壮真は目を輝かせながら興奮した。
「だろう?一か月前から頑張って作ってたんだよ。百聞は一見に如かず。早速始めよう!」
春希は奥の部屋に行き、そこからコントローラーを持ってきた。
「使うのはコントローラーにある大きいボタン一つだけ。アーツとエレメントメダルが必要だから、
たくさん持って行ってね」
そう言われ、各々アーツとエレメントメダルを引っ張り出した。
「準備はできたみたいだね。それじゃあ、コントローラーのボタンを押してくれ!」
三人は言われるままに、コントローラーのボタンを押した。
すると、三人の体は見る見るうちに吸い込まれ、ゲームハードの中に入っていった。
「君たちは希望の星だからね。僕が長時間戦えないから。ここでくたばっちゃ困るよ」
三人がいなくなった後、春希が静かに言った。
3人はある空間で寝ていた。一番先に起きたのはほまれだった。
「うーん…私たちは確か、春希先生の言うとおりにボタンを押して…って、何処だココは⁉」
ほまれは眼前に広がる光景に言葉を失った。
そこには、鬱蒼と草原が広がっていたのである。
ほまれはまだ寝ている二人をたたき起こした。
「な、なんだよほまれさん…え⁉Arts Labは?」
壮真と弦も遅れて、非日常な光景に唖然とした。
『やぁみんな、起きたかい?春希だよ』
三人にいつの間にか仕掛けられていたトランシーバーから、春希の声が聞こえた。
『おそらくもうゲームの中に入れたみたいだね。早速アーツを解放させて洞窟へ進んでくれ。
たぶん地面に矢印が見えるはず。僕はゲームの外から助言させてもらうよ』
「なるほど。これはこの世界のどこかにいるボスを倒せば、元の世界に戻れるというパターンでしょう?」
『さすがほまれクン、飲み込みが速い。まったくもってその通り。このゲームのラスボスを倒せば
元の世界に戻れるという、転生モノにありがちな設定さ』
「よし、じゃあさっそくボスのとこへ…ってうわ、何かいる!」
三人の前に、赤いゴブリンが現れた。
「まずは力任せに吹っ飛ばすか。アーツ、解放!」
弦が我先にとアーツを解放させた。そしてそのまま、ゴブリンに向かって刃先をぶつけた。
しかし、ゴブリンに攻撃は効いておらず、ピンピンしていた。
「嘘だ!俺のアーツが効かないわけは…。」
『弦クンはせっかちだなぁ。これがアーツの使い方を学ぶコンテンツなの、忘れたのかい?』
春希はあきれたように言った。
「下がれ。ここは私がお手本を見せてあげよう。エレメントメダル・水、装填!」
ほまれのアーツは青いオーラを帯び、そこから放たれる矢は、流れるようにしてゴブリンに命中。
ゴブリンは一発で倒れた。
「おそらく、このゲームの敵キャラクターは有利属性でしか倒せないようにプログラミングされて
いるのだろう。うまいことを考えたものだ」
ほまれは何事もなかったかのようにすたすたと矢印が示す方向へ歩いて行った。
弦と壮真は慌ててほまれを追いかけた。
三人は矢印に従い、しばらく歩いた。
体感25分くらい歩くと、モンスターたちの視線が変わってきた。
その視線は針金のように鋭く、そして氷柱のように冷たかった。
「なんか…モンスターの視線が怖いな…」
弦が冷や汗をかきながら言った。
「ああ。ボスが近付いている証拠だ。みんな私たちを倒そうとねらっているのだろうな。
強さに自信があるものは、そのあとのことまで見据えているんじゃないか?」
「「ひぇっ…」」
二人の顔から血の気が消えた。
「ここでビビっていても仕方がない。さっさと終わらせてしまおう」
ほまれを先頭に、三人は洞窟へ歩みを進めた。
三人は洞窟の最深部にたどり着いた。
最深部の空間には水滴が垂れる音しかせず、この後戦いが繰り広げられるとは思えない静寂である。
三人は恐る恐る奥へ向かった。
奥には、大きな鬼のような風貌のモンスターが鎮座していた。
「君たちが私を討伐しに来た者か?」
モンスターは低めの声で三人に話しかけた。
「そうだ!お前を倒せばこのゲームの世界から出られるんだ。元の世界へ戻るために、倒させてもらう!}
壮真が意気揚々と言うと、モンスターは何やら悟ったような顔をして、
「フフ…私は所詮、構成された存在…。私を倒すことが君たちの糧となるのなら、
全力を出して相手をしよう!」
モンスターは顔の色を変え、襲い掛かってきた。
「まずは攻撃を避け続けろ!今変わっている赤色のほかに、まだパターンがあるかもしれない」
二人は言われるがままに、赤い顔のモンスターの攻撃を避け続ける。
モンスターは青、黄、緑、茶とコロコロ色を変え、赤に戻った。
「赤、青、緑、黄、茶…この色、何かが引っかかる…。そうか、わかった!壮真、アイツの顔の色と同じ
属性のエレメントメダルで攻撃してみてくれ」
壮真は、赤い顔の状態のモンスターに炎の斬撃を浴びせた。
モンスターは怯んだ。
「あれ、なんか効いてるみたいだぞ!」
「読み通りだ、これは臨機応変にエレメントメダルを切り替えて戦うトレーニングなんだ!」
「「「いっけえええええ!」」」
三人は立て続けに様々な属性の連続攻撃を叩き込んだ。
モンスターは顔の変更が追い付かずに気絶した。
その途端、三人の視界がぐにゃりと歪んだ。
「よっしゃー、出れたー!」
「なかなか長い旅だった。良いトレーニングになったな」
「脳筋論だけじゃアーツは使いこなせねぇのがよーくわかったぜ…」
三人は各々の感想を述べた。
「三人ともいいトレーニングになったみたいだ。良かった良かっ…」
春希が言い終える直前、Arts Labをけたたましいサイレンの音が包んだ。
その音は四人の不安をかきたてる。
「…遂に奴らがやってきやがったか」
「弦?どういうことだ?」
「俺は二人と戦った時、アーツ密売組織の幹部だった。その時にボスであるリドーは言っていた。
アーツ密売組織『chemitry』に仇なす奴には手段を選ばない…と」
「なるほどね。今日、その総攻撃のターンが回ってきたわけだ」
春希は淡々と続ける。このような修羅場を、何回も潜り抜けてきたのだろう。壮真はその姿勢に、大人の
風格と頼もしさを覚えた。
「単刀直入に言う。町に解き放たれたミストは分かってるだけでも100体弱、このままでは町は
大混乱に陥る。君たち三人は町中のミストを殲滅し、被害を最小限に抑えるよう努めてくれ。
僕はここに残り、Arts Labの守護とアジトの発見に徹する。元々アーツの取引は禁止されてる。
この街にアーツの波が押し寄せる前に、『chemitry』を壊滅させよう」
「「「了解!」」」
四人は決意を固め、視線をあわせた。
次回予告!
アーツ密売組織「chemitry」との対決の火ぶたが切られた!
壮真、ほまれ、弦は町に放たれたミストを次々と撃破していく。
そのうち、三人は弦と戦った廃工場にたどり着く!
次回 ARTS第七話「防衛と進撃」お楽しみに!