第五話 不器用とお人好し
前回のあらすじ!
壮真とほまれは斧のアーツ使い、藤崎弦と対決する。
序盤は弦の圧倒的なパワーに追いつめられる壮真たちだったが、エレメントメダルを活かした攻撃で
弦を撃破。
春希の粋な計らいで、弦はArts Labの一員となったのであった。
弦との戦いから、一週間が経った。
町は落ち着きを取り戻し、物騒な話題も鳴りを潜めた。
しかし、Arts Labには安息の時期はなかった。
春希の謎のコネクションによって、任務が舞い込むからだ。
今日もほまれと壮真は、春希からサインを受けた。
ほまれが帰宅の準備をしてArts Labに向かうころには、壮真はもう教室にいなかった。
「壮真のやつ、もう行ってしまったのか…って、はっ!」
ほまれは一瞬我に返り、ここが教室であるのを再認識したのと同時に、キャラを戻した。
「み、みなさん、さようなら。明日もいい天気だといいですね」
クラスメイトにそう話しかけ、ほまれはArts Labへ歩みを速めた。
ほまれがArts Labに入ると、壮真は弦に勉強を教えてもらっていた。
「ここがわかんねぇ…。弦さん、どうすればいい?」
「そこか。そこはな…、()をⅹに置き換えて考えるんだよ。そしたら、見慣れた景色が見えてくんだろ?」
「ほんとだ!いっつも解いてる因数分解の式に戻った…。弦さんあざっす!」
「礼には及ばねぇよ。一応高校生だからな。ほまれの嬢ちゃんもそろそろ来るみたいだし、残りは後で
やるか」
壮真と弦は、勉強用具を片づけた。
そのとき、入り口からほまれが姿を現した。
「ほまれさん、やっと来たか!聞いてくれよ、弦さんめちゃめちゃ勉強教えんの上手いんだぜ!」
壮真はほまれに嬉々とした表情で語った。
奥から春希が出てきた。春希も見るからに上機嫌だった。
「ほまれクン聞いてよ!Labのお掃除も僕のオヤツも、弦クンが作ってくれたんだ!やはり弦クンを引き
入れた僕の目に狂いはなかった!」
春希も壮真と同じように、目を輝かせて嬉しそうだった。弦はそんな二人を見て照れている。
ほまれは何だか虫の居所が悪かった。
「ほまれの嬢ちゃん、何か浮かない顔してんなぁ。悩みあったらいつでも吐けよ」
そう言って、弦はほまれの肩にポンと手を置いた。
しかし、その手をほまれがはねのけた。
「仲間面を私にまで向けるのもいい加減にしろ。私はお前をまだ信用しきっていない。私には話しかけ
ないでくれ」
ほまれはそっけない態度をとったまま、任務発表を待った。
そのあとの場の空気は、水を打ったように静かになった。
そのまま一同は、次の任務の話に移った。
「今回の任務はね、護衛任務だ。僕の友達が大臣を務めてるブレイジー連邦から言付かった。
最近、ブレイジー国王に暗殺予告が届いたんだって。その日を皮切りに、国王は震え上がって職務も
ままならないらしい。そして、今週末には武島市へ来日し、武島サンセットポートから出港する船で
船上パーティーときた。ガードマンがたむろしてると威圧しちゃうし、パーティーにならないって
言ってたから、僕らに客の一員として船に潜入し、陰ながら護衛してほしいみたい」
春希は任務の概要を説明した後、周りを見渡した。
「さ、パーティーの開始は次の土曜の午前10時からなんだけど…三人とも予定は空いてるかい?
僕は会議が立て込んでて残念ながら行けないんだよね…」
春希が話し終えた途端、壮真が恐る恐る手を挙げた。
「なんだい?壮真クン、何か質問かい?」
「えーっと…その…土曜日、オレ追試があるんです…。ゴメン、ほまれさん!今回は参加できん!」
壮真は申し訳なさそうに頭を下げた。
「一人はさすがに危ないから…任務のためなら仕方がない。ほまれクン、弦クン、二人で行っといで」
その言葉が耳に入った途端、ほまれは顔色を失った。
「ええええぇぇぇぇーーーーっっっっ⁉」
ほまれの悲痛の叫びが、Lab中に響いた。
そして、次の土曜日。
二人は武島サンセットポートに赴き、国王が来るのを待った。
10分くらい待っただろうか。
黒塗りの長いリムジンが、二人の目の前に停まった。
その中から、顔のやせ細った男性が出てきた。
体はガリガリ、呼吸も荒い。今にも倒れてしまいそうな風貌だ。
「あなたがブレイジー国王ですか?初めまして。私はArts Labから派遣されました、溝呂木ほまれと
申します。本日はあなたのことを誠心誠意お守りします。」
「俺も右に同じ。Arts Labの藤崎弦っす。よろしくお願いしまっす」
二人は国王に挨拶を交わした。
「君たちが話に聞いてた子たちか。きょ、今日はよろしく頼むよ。君たちが来てくれたおかげで、
少し気分が良くなったみたいだ」
その言葉の通り、ほまれは国王の顔色が二分前より良くなったと感じた。
そうこう話しているうちに、巨大な豪華客船、クロード号が港に姿を現した。
ほまれは意気揚々と船に乗り込もうとしたが、弦に止められた。
「お前、何をする!私の邪魔をするな!」
「嬢ちゃん、そのままの格好で乗り込むつもりか?その恰好じゃかえって怪しまれるし、このパーティー
はドレスコードがあるんだぜ。着替えは春希先生からもらってきたから、着替えろよ。俺はそっぽ
向いててやるから」
「む、むぅ…」
弦にぐうの音も出ない正論を言われたほまれは、春希が用意した黒いドレスに身を包んだ。
弦も黒スーツに着替えた。
弦はガタイがとても良いため、スーツだと違和感を感じる。
改めて二人は、クロード号に乗り込んだ。
乗り込んだ船内では、武島市の市長や、各国の要人が来ていた。
皆ワイングラスを片手に、和気あいあいと酒を嗜んでいる。
ほまれはパーティー会場の端、弦はステージの近くで目を光らせていた。
ブレイジー国王は、市長などと呑気に笑いあっている。
しかし、その暖かな空気は一変した。
パーティー会場の中に、銃声が響いたのである。
その弾丸はブレイジー国王の持っていたワイングラスを貫き、ワインが血のように床にこぼれた。
それを合図に、銃を持った男の集団が、ブレイジー国王を取り囲んだ。
「私が出る!」
そう言って助けに行こうとしたほまれの許に、一人の少女が転がり込んできた。
「そのガキはブレイジー国王の娘さんだ!軽くパニックになっちまってる。嬢ちゃんが守ってやってく れ!ここは俺が食い止めておく!」
弦はそう言い、パーティー会場で戦いを始めた。
ほまれは苦悩した。
たしかに弦はまだ信用してはいないが、二人で乗り込んだ以上、協力は避けられない。
ましてや人の命がかかっているのに、個人的な嫌悪で任務に背くなど、あってはならない。
「…わかった。この少女はわたしに任せておけ!」
ほまれは少女を抱え、パーティー会場を飛び出した。
それを追って、集団から五人くらいがほまれの後を追った。
ほまれは人目のつかないところに座り込んだ。
「君…名前は?」
ほまれが優しく少女に尋ねた。
「あたし…エリス。ねぇおねえちゃん、パパ、しんじゃうの?」
エリスは目に涙を浮かべ、震えた声で言った。
そんなエリスを、ほまれはふわりと抱きしめた。
「泣くんじゃない。私は君のパパから頼まれたんだ。君のことは、私が絶対守るよ」
足音が近づいてきた。そして二人は見つかってしまった。
二人はじりじりと距離を詰められ、行き止まりに追い込まれた。
「君は後ろに下がっていろ!私がこいつらを蹴散らす」
そう言って、ほまれはアーツを手の前に掲げた。
「アーツ、解放!」
ほまれは、壁を蹴り、五人を翻弄した。
壁伝いに縦横無尽に駆け回るほまれに対し発砲をするが、すべてかわされた。
五人はほまれの矢を食らい、そのまま倒れてしまった。
「さあ、無事なところへいこう」
そういった途端、ほまれの肩を銃弾が貫いた。
ほまれはその場にうずくまり、肩に手を当てた。
「誤算だった…まだ仲間がいたなんて…」
ほまれの目の前に、茶色のロングコートを着た男性がゆっくりと現れた。
「俺はブレイジー王国の陰の暗殺者、ジェリー・ポマード。当然君たちのことは調査済みだ。
いつもの剣の少年はいないのかい?…その様子だといないようだね。残念だなぁ」
そう言いつつ、ジェリーは撃鉄を起こした。
「その綺麗なドレスが君の死に装束だよ。次は心臓をブチ抜いてあげる」
ジェリーが引金に手をかけたその時だった。
ジェリーの頭が強靭な斧にぶつかった。
ジェリーはそのまま棒立ちのまま倒れた。
「大丈夫か、嬢ちゃん!」
弦がほまれへ向かって走りかけてきた。
「大丈夫だ。肩を少しやられたが大したケガじゃない。すまなかったな。私はあなたを少し誤解していた ようだ。あなたは人ごみの中でもエリスのことまで考え、私にエリスを託した。私はそこで思ったよ。
壮真があなたを仲間と認めたことは、正しかったとね。それより、国王は?」
「ああ、アーツ出して取り巻きは一気にぶっ飛ばした。国王も俺の威力に腰抜かしてさ。医務室に
運んどいた」
「無事なのだな…よかった」
二人が話していると、後ろからジェリーがよろめきながら立ち上がった。
「こいつ…気を失ったんじゃ⁉」
二人は身構えた。
「いやいや、今日はもう戦らないよ。殺し屋には、引き時ってもんも大事なんだよ。また縁が
有ったら遭えるかもね。今度は額に鉛玉を丁寧に入れてあげる」
ジェリーはそう言って、海の上を飛び立っていった。
三日後。
Arts Labには、いつも通りの四人の姿があった。
「なぁ弦さん、ここがわからないのだが、解説求む」
「そこはだなぁ、代名詞に置き換えて…」
「あれあれ?ほまれさん?先週までは『お前など認めない』とか言ってたのに~!」
弦に勉強を教えてもらうほまれを、壮真が冷やかした。
「五月蠅い!補修とかいう情けない理由で休んだ君に私を侮辱する資格はない!」
「なんだとぉ!」
二人はArts Labの中を追いかけあった。
弦は、微笑みながらその様子を見ていた。
次回予告!
弦とほまれのわだかまりも晴れ、さらに団結力を高めたArts Lab。
アーツの新たな可能性を探るため、春希は三人に挑戦状を明け渡す!
春希の挑戦を三人はクリアできるか⁉
次回 ARTS第六話「挑戦状とトレーニング」お楽しみに!