家族の敵討のために悪魔を召喚したら一目惚れされてお持ち帰りされてしまった!?
絶対にやつらを殺してやる......!
銀に煌めく髪を月明かりで輝かせながら、私は復讐を誓った。的外れでも八つ当たりでもなんでもいい。けれど、やつらだけは...!この手で殺してやる。
銀髪は魔性の証明と言うけど、私には全く力がない。高位の魔性は銀髪を隠せると言うし、私は本当にむかーしに魔性の血が混ざった存在なんだろう。力はないのに銀髪なんて、全く、ついてない。
両親が死んでから1年。1人の生活もどうにか整えた。
寂しさが紛れると同時に募ってきたのは、両親を殺した奴等への憎しみだった。
私は復讐のためにありとあらゆるコネを総動員した。ラッキーなことに私の身分は伯爵令嬢だったので、動きやすかった。
今、私の手にあるには、一冊の古びた書物だった。
普通の人間ですら禍々しいと感じるそれは、悪魔を召喚するための書物である。それによると生贄が1人必要らしいが...それは私でいいだろう。復讐さえ果たせればいいのだ。
私は書物の通りに魔法陣を描き、その中心に書物を置いた。
「我、汝との契約を望む者。我の召喚に従い、我が望みを叶えよ!」
まともな神経をしているのならこのような儀式はできないだろう。まず禍々しいし、中二病のようで、やっていても羞恥がある。
けれど、もしこれが成功すれば...!
私は復讐を果たせる。
かつて私は幸せだった。
あの頃に戻ることはできない。
けれど。
私から「時」を奪った者たちを罰することはできる。
法で裁くよりも、その何倍もの苦しみを!
私は与えてやりたいのだ。
残された女1人に、できることは、あまりにも少ない。
「我と契約を望むのは汝か。」
地獄の底を這うような声に震えが走る。が、事実この声は地獄から聞こえているのだ。当然である。
「しかり。我が求めに応じよ。」
誰が喋っているのかよくわからないが、仕事をしてくれればそれでいいのだ。私は書物に一言一句違わず答える。
「よかろう、召喚は成立した。」
私が定規とコンパスを使って一生懸命に描いた魔法陣が光った。悪魔が出てくるはずなのに、光の色は明るい黄色なのだからなんともアンバランスである。
ゴッと魔法陣が波打った。
さあ、異形が現れる。まずは角だ...!
そう思っていた私は非常に驚いた。
い、イケメンが現れたのだ。
角はなく正真正銘金髪碧眼。慈愛に満ちた優しい微笑みはまるで天使のよう。着ている服は我が国の貴族階級が着るような服と大差ない。
「て...天使..!?」
嘘でしょ、悪魔ってこんなに素敵なの!?
「馬鹿が。悪魔召喚で天使が出てくるわけないだろ。」
「嘘でしょう、顔はイイのに口が悪すぎるわ...!なんて残念なイケメンなの!?」
「喧嘩売ってんのか?」
ハッと私は我に帰った。
貴族モードの微笑みを作る。天使の微笑みだ。
「失礼いたしました、悪魔殿。わたくしはルピナス・ディ・スペンサー。スペンサー伯爵家の生き残りです。悪魔殿のお名前を伺っても?」
私はお淑やかなコーツィを披露した。
「私は上級悪魔のフィロデンドロンだ。スペンサー伯爵家の悲劇は知っている。」
悪魔も礼儀正しく応じる。
ならば、と私は続けた。
「では、その復讐をあなたにしてほしいの。私の家族を暗殺した人ととそれに関わった人達を全員、」
殺してきて。という前に悪魔に止められた。
「女の子がそんなことを言わなくていい。おまえの復讐は俺がやり遂げる。」
「ええ、ありがとう。」
私はにっこりと微笑んだ。これでやっと1年間の成果が実ったのだ。
「報酬は、私の命でいいのかしら?」
「そうだな...。」
悪魔はしばし考え込んだ。
「まずは口調を素に戻せ、ルピナス嬢。...正直命も魂も飽きたんだよなぁ...。」
「財産なんてうちにはないわよ。」
私はぶっきらぼうに言い放った。
「知っている。ならば...おまえ自身をいただこう、ちょうど使い魔が欲しかったんだ!」
名案、と悪魔が膝を打つのを、私は恨めしく見つめた。
私は猫が嫌いなのだ。使い魔といえば、黒猫だろう?
しかし悪魔はこの条件でしか契約しないという。仕方がない。私は了解の意を示した。
「ルピナス、右手を出せ。」
契約合意の握手だろうか。そう思って出した私の手を悪魔は引き上げ、額に当てて握った。
「我は代償の上でこの者の望みを叶える...契約、締結!」
悪魔が契約、締結といった瞬間部屋が地震のように揺れ、召喚陣が消え去った。
「さて、悪いがうちは前払いなんだ。使い魔契約を結ぼうか。」
そう言い切らないうちに、悪魔が私の前にしゃがんだ。
徐々に近づく距離。何をするんだろうか、悪魔の眷属というと一回死んでるのだろうか、そんなことを思っていたら...唇を塞がれた。
「んん......!」
軽いやつじゃない。がっつりしたやつだ。私は抗議しようと思って悪魔の胸板を叩いたが、逆に男性の広い胸板にドッキリするだけの結果になった。
ルックスは死ぬほどいい男なのだ、この悪魔は。
キスしているところから、温かい何かが私に体を伝ってくる。それが全身に行き届いたと思ったら、悪魔は口を離した。ニヤリと笑いながら。
「さぁて、うぶなお嬢さんのファーストキスももらって、俺の魔力で染め上げたし...さくっとやりに行くか。」
あの温かいものは悪魔の魔力だったのか...そう納得しているうちに悪魔は立ち上がり、大きな杖を手に持っていた。
ファーストキスへの幻想は両親が死んだ日に捨てた。
悪魔が契約を果たすなら、それでいい。
「あまり見ていて清々しいものにはならんだろう。ここで留守番しておきな。」
悪魔はそう言い残すと翼を出して、飛んでいってしまった。がっつり見るつもりだった私は、一瞬、呆気に取られてしまった。
夜が明けてから、悪魔は戻ってきた。
「全部狩ってきたぞ。」
悪魔はそういうと私を抱え上げた。
「おまえの望みは叶えた。次は俺が魔界におまえを連れていく。」
しゅっという音と共に転移した魔界はあっけないほど普通だった。
「ねえ、フィロデンドロン?私はあなたのことをなんと呼べばいいの?」
「ん?ああ...呼び捨てでかまわん。俺はご主人様と呼ばせる趣味はないんだ。」
「そう。で、私はいつ黒猫に変わるの...?」
使い魔といえば黒猫で、ご主人様と呼んで悪魔に付き従う者だ。私がそういうと、悪魔は目を見開いた。
「違うぞ。使い魔っていうのは、そもそも悪魔でないものが魔力を与えられ、悪魔になったやつの総称だ。広義で言えば黒猫は使い魔だが、その中でも従属魔にはいる。で、お前は単なる悪魔だよ。寿命が延びることと魔法が使えるようになる以外、変化はないな。」
「ならどうして私を悪魔にしたの?」
私で何をしたかったの?
心の底からの疑問に悪魔はフッと笑って答えた。
「一目惚れしたんだ...おまえの紫の瞳に。」
悪魔は...フィロデンドロンは私にそっと口付けを落とした。
彼は上級悪魔と名乗っただけあって、恐ろしいほどの財力、権力、魔力を持っていた。そしてその全てを私のために使おうとするから...なんなら私は一国の王よりも豊かな暮らしをしていると思う。
それを言ったらフィロデンドロンは真顔で、
「魔王様の方がもっとすごい。あの人は伴侶をドロドロに甘やかして、世話してるぞ。」
魔王様の種族はダークエルフで、王妃様は吸血鬼らしい。
王妃様の美貌を見つめた魔族はすぐに魔王様に殺されてしまうとか。
あなたも似たようなもんでしょ、というと愛する夫は困ったように笑って、私にキスを落とした。
王妃様は私と同じ銀髪で紫に瞳だという。いつか会ってみたいが、私の夫が私を簡単に外に出してくれるとは思えないし、王妃様もそうだろう。残念だ。
私はクスッと笑った。
こんにちは、橘蜜柑です。
いつもブクマ、ポイント、誤字報告ありがとうございます。感想や疑問、批評などもじゃんじゃんお願いします!
もし私が悪魔を召喚できたら...そうですね...お持ち帰りされると困るので、望みはいっぱいあるけど召喚はしないことにします。
追伸:今回のキャラのお名前は花に名前で攻めました。
これの後日談を「魔界で誘拐されたら(以下略)」に載せています。シリーズから飛べますのでよければどうぞ!