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不自然なスタンピート②


私は魔力の変化に敏感で、ほんの少し周りの魔力が濃くなっただけでも落ち着いて寝られない。

そんな私がこんな時間まで寝付けないということは……



「はぁ……。やっぱりこれ、そうだよね……」



よりによって深夜。

他の冒険者に任せるわけにはいかない。

この規模、ましてこの時間だと、放っておくと死者が出そうね。

……私が出るしかない、か。



落ち着くのよ、ユノ。

貴女はただ、目の前の魔力の塊に魔法をぶつければ良い。

……魔力の塊は可愛くなんてないわ。

私はできる。前も出来たじゃない。



自分に暗示をかけ、重い足を動かして宿を出る。

当然ながら、宿の周りは人が一人も見当たらないほど寂れており、静寂に包まれている。


……ドクン、ドクン、ドクン。


自分の足音が、嫌に大きく聞こえる。

……いや違う、これ心音だ。

足音はほとんど聞こえていなかった。


こんなに暗いと、幽霊が出てもおかしくないわね。

……まぁ、私には対霊魔法があるから、別に遭遇したところでそこまで驚くことはないだろうけど。

多分、幽霊よりも驚くのは今このタイミングで【白銀の旋風】のメンバーに出くわすことかしらね。

私が一人でスタンピートに対処するなんて言っても、私の本来の力を知らない皆からすれば無謀な話だろうし、きっと止められるだろうなぁ……



「ユノ……その魔力は何ですか?」



「え!? ミューエ!?」



しまった。

周りに誰もいないと思って、魔力を抑えていなかった。

……それにしても、この子はどこから来たの?

私が常に張り巡らせている魔力のセンサーには何の反応も無かった。


……時々、私の探知魔法を以ってしても居場所が掴めなくなる、ある意味得体の知れない女の子。

それが、私がミューエを「不思議ちゃん」と形容する理由だ。



「……そうですか。貴女も『そう』だったのですね」



「え? どういうこと……?」



え、この子泣き出しちゃったけど……

本当にどういうことなの……?


しかも、今のミューエの発言を言葉通りに捉えるなら、「ミューエも私同様に力を隠していた」ということになる。

……ミューエが私の探知を掻い潜れた理由は、単純に私の探知を誤魔化せるほどの実力があったから?



「『貴女も』と言ったわよね。逆に、ミューエもなの?」



彼女は目を赤らめながら、首を縦に振る。

ひとつ、謎が解けた。

仲間に魔法を向けた時に手が震えなかったのは、同様に実力を隠していたミューエが居たからだったのね。



「私は別に隠していたつもりはないのよ。でも……やっぱり、皆が私をあてにして危機感を感じなくなるのは良くないと思って黙っていたの。ごめんなさいね」



「か、隠していたつもりはない……?」



「え、えぇ。どうかした?」



「……私、間違ってました。ありがとうございます、ユノさん」



「え、えぇ?」



「負けませんから」



ミューエはそう言うと、駆け足で平原の方へと向かっていった。


……あぁ、もしかして。

私よりも先にスタンピートを治めてやるってことかな?



(……久しぶりにやる気出てきたかも)



ミューエの実力は未知数だけど、魔力だけを見るに私と同程度には強そうね。

……なら遠慮なく、魔導師のアドバンテージを使わせてもらおうかしら。



「【浮遊】」



私をやる気にさせたことを後悔しなさい、ミューエ。

貴女が到着する頃には、魔物は全滅しているわよ?

……私がすぐに心を決められたら、の話だけど。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



浅はかでした。


……実力を隠して勇者様に近づき、あわよくば恋人になりたいなどと邪な思いを抱く人間など、私以外にはいない。

そう、思っていたのに……



ユノさん、貴女も「そう」なのですね。

でも、ここで貴女と話せて良かったです。

あの口ぶりからすると、ユノさんは既に勇者様に「自分がパーティーに入った理由」を告げているのでしょう。

……確かに、その方が合理的です。

勇者様がそれを黙認されているということは、少なくとも勇者様はそれを嫌だとは思っていないはずなのですから。


……私の知らないところで、その無駄に付いた胸の脂肪で勇者様を悩殺しようとしているに違いありません。

どんな手を使ってでも、好きな人と結ばれる。

その姿勢にだけは、敬意を払います。


私は既に先手を取られていたのです。

……今のままではダメですね。

少なくとも今日は、それが知れて良かった。


もっと図々しく、太々しく。

ユノさんがその気なら、もう私も手段を選んでいられない。

……私がユノさんよりも優れているところなんて、純粋な戦闘力くらいしか無いのですから。

このスタンピートもありがたく利用させて貰いましょう。

例えば群れの中に一匹くらい操られたサキュバスがいても、一目で聖女である私が使役していると見抜ける人間なんて存在しませんし。

いえ、そんなまわりくどいことをしなくても、勇者様に直接催眠をかけてもいいかもしれません。

いずれにせよ、勇者様がスタンピートを治め次第、そのまま既成事実を捏造(つく)ってしまいましょう。

まだ夜が明けるまでには時間がありますしね。


……あぁ、こんな時のために催眠魔法を覚えておいて良かったです。

勇者様、今行きますよ。



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