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不自然なスタンピート①


……なんだ、この気持ちの悪い魔力反応は。


深夜、俺は妙な胸騒ぎで目を覚ました。


これは、ダンジョンからはぐれた魔物が発生した、などという生優しい比ではない。

夥しい数の魔力が蠢いているのを感じる。


……スタンピート。

それも、かなり規模が大きいようだ。


こんな時間帯だ、有事の際に対処に当たる冒険者や騎士は恐らく皆眠っているだろう。

見張りの衛兵が彼らを「起こす」というワンクッションを挟むだけで、何十、何百人もの死者が出るだろう。

……久しぶりに、「勇者」として戦う必要がありそうだ。

俺は宿を飛び出し、魔力反応のあった方向へ向かう。



「久々にお前の力を借りるぜ。聖剣【エクスカリバー】」



「……アーサー、お前もそうだったんだな」



「うおっ!? ファクス、なんでここに!?」



「俺はこれからスタ……散歩だよ」



「そ、そうか。散歩か」



……ファクスが馬鹿で良かった。

エクスカリバーの所持者は「勇者」と呼ばれる人間だけ。

エクスカリバーの存在を知られるということは、俺が勇者であるとバラしているようなものなのだが……

どうやら、気づいていなさそうだ。



「お前も散歩か?」



「あぁ。そんなところだ」



「そうか。なら、お前は俺と逆方向へ行け。アーサーと同じ方向に向かうのは癪に障る。俺は1人で散歩してぇんだ」



「……なら、お前が逆方向へ行けよ」



「ふん、お前みたいな雑魚に譲る理由なんてねぇんだよ。お前は黙って俺に従えばいいんだ」



クソ、こんなときに面倒な奴に出会っちまった。

このままファクスがスタンピートの現場に遭遇してしまったら、こいつの実力じゃまず生き残れない。

しかも、一度意見を固めたファクスはちょっとやそっとのことでは説得できない。

一体、どうすれば……



「……わかった。どうしてもそっちに行きたいなら、俺も連れて行け」



「話聞いてたか? 俺は1人で散歩が……」



「二つに一つだ。俺と一緒に平原の方向へ行くか、お前が逆方向に向かうか。これ以上妥協する気は無いぞ」



「なんだってこんな時に…………どうなっても知らないからな。ついてくるなら勝手にしろ」



これでいい。

到着した瞬間に背後を魔法で爆破し、ファクスが後ろを振り向いた瞬間に魔物を蹴散らせばいい。


……猶予は一瞬しかない。

いくら勇者である俺でも、かなり難しい局面だ。

最悪バレたら全てを終わらせた後で、ファクスには俺のことを黙っているよう口止めをさせてもらおう。




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



……なんだ、この気持ちの悪い魔力反応は。


深夜、俺は妙な胸騒ぎで目を覚ました。


これは、ダンジョンからはぐれた魔物が発生した、などという生優しい比ではない。

夥しい数の魔力が蠢いているのを感じる。


……スタンピートか。


こんな時間帯だ。

対処に当たる冒険者は恐らく皆眠っているだろうな。

……仕方ねぇ。

久しぶりに、「伝説の盾役」として戦ってやるか。

俺が目的を果たす前に、ギルドがあるこの町が滅ぶのも面白くねぇ。



(……ん? あれは)



宿を飛び出してしばらく走ったところで、前でアーサーが剣を眺めながら歩いているのを見かけた。


「久々にお前の力を借りるぜ。聖剣【エクスカリバー】」



ははん、あの野郎、剣を新調して浮かれてやがるんだな。

なぁにが久々に、だ!

昨日まで持ってなかった剣に「久々に」!?

しかも名付けた名前が「エクスカリバー」!?


……いや、そうか。

お前も今、かつて俺が苦しんだ病に侵されているんだな。

アーサー、周りの奴らがどれだけお前を笑おうが、俺は決してお前を笑わねぇぞ。



「アーサー、お前もそうだったんだな」



「うおっ、ファクス!? なんでここに!?」



その慌てよう。

……わかるぜ。

誰も見てないと思ってポーズを決めた瞬間。

誰も聞いていないと思って言葉を発した瞬間。


その瞬間に他人の視線に気づいた時の絶望と羞恥は、俺が誰よりも知っているからな。



「俺はこれからスタ……散歩だよ」



危ねぇ。

俺がスタンピートに一人で立ち向かうことを知ったら、こいつは間違いなく止めてくるだろう。



「そ、そうか。散歩か」



ま、本当は違うけどな。

にしても、こいつはこんな時間に一体何をしてるんだ?



「お前も散歩か?」



「あぁ。そんなところだ」



「そうか。なら、お前は俺と逆方向へ行け。アーサーと同じ方向に向かうのは癪に障る。俺は1人で散歩してぇんだ」



テメェのことが嫌いなわけじゃねぇ。

……が、お前の実力じゃあれは生き残れねぇんだよ。

だから頼む、どっかに行っててくれ。



「……なら、お前が逆方向へ行けよ」



「ふん、お前みたいな雑魚に譲る理由なんてねぇんだよ。お前は黙って俺に従えばいいんだ」



「……わかった。どうしてもそっちに行きたいなら、俺も連れて行け」



「話聞いてたか? 俺は1人で散歩が……」



「二つに一つだ。俺と一緒に平原の方向へ行くか、お前が逆方向に向かうか。これ以上妥協する気は無いぞ」



こいつ、頭大丈夫か?

……あー、なんかだんだんイライラしてきたな。

俺がこんだけ必死にお前を遠ざけようと努力してるってのに、アーサー、テメェときたら……!



「…………どうなっても知らないからな。ついてくるなら勝手にしろ!」



いいよ、人間一人庇いながら戦うくらいなんてことねぇ!

そんで全てが終わった後にこいつの口封じだ!

クソ、アーサーめ、余計な手間を増やしやがって!



ファクスさんのセリフボツ

「こいつは毎日誰も見てないところで厨二病発言してんだよ。お前らは毎日誰も見てないところで厨二病発言してんのか? してない奴は笑うな!」

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