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【白銀の旋風】vs魔王軍総戦力



ふぅ、めちゃくちゃ苦戦したアピールのために血のり仕込んでおいて良かったぜ。

……アーサーは完全に俺が動けないと思って戦ってやがるな。

このまま寝て、アーサーの奴を観察する。

Bランク冒険者の手に追える奴らじゃないのが、5体。

普通なら、アーサーは死ぬ。

だが……



俺はさっきの幻覚魔法を見抜けなかった。

或いは、アーサーの奴が幻覚魔法だと嘘をついたのかもしれない。

俺の魔力感知能力が正しいのか、はたまたあいつなのか。

確かめなければ。

アーサーが本当に「Bランク冒険者」なのかを。

今のところ、奴の身のこなしはBランクの域を超えている。

だが、それは当然だ。

俺が、Sランク昇格を見込める冒険者を見繕ったのだから。


アーサーの立ち回りは悪くない。

この分なら、すぐに決着がつくことはないだろう。

俺が再び参戦するのはアーサーが実力を隠しているという決定的な証拠を見せた時、あるいは奴が本当に追い詰められた時だ。


ふむ、今のところ、配下が迂闊に魔法を使えないほどのスピード以外、特筆して目立ったところはないな。

確かに普段の戦闘よりも速いが、閉鎖的なダンジョンとは状況が違う。

これが本来のスペックだったと考えていいだろう。

やはり、Bランク冒険者なのか……?



「もういい! 俺ごとやれ!」



「なっ……!? しまった、防壁を……!」



いくらなんでも間に合わない。

……その時、俺はアーサーが魔族達の集中砲火を食らったのを見た。

いくらアーサーが力を偽っていたとしても、あれをまともに喰らってしまえば生身の人間にはまず耐えられない。

盾役の俺でようやく受け止められるレベルの攻撃だ。

1人、未来ある冒険者が散った。

俺が、くだらないことを試したせいで。


……ん、あいつ無傷?

あれ?

見間違いか??



(なんで今ので生きてんだよ……あいつ生身だよな?)




「……アーサー、サイボーグ説出てきたな」




「サイボーグ? アーサー様は人間の勇者ですよ。あの程度の攻撃でやられるはずがありません」



「あー、やっぱりなのね。どうりで……」



「その声は……ミューエにユノ!? 馬鹿、危ないからすぐに逃げろ! あの敵はお前らの手には負えねぇ!」



「ファクスこそ、退いてた方がいいんじゃない?……醜い魔族が5匹。久しぶりにストレスが解消できそうね。ミューエ、ファクスは任せたわ。私はアーサーを援護する」



「仮病ですよ。全員で援護しましょう」



「……仮病なの? でも、血もいっぱい出てるし」



「……すまん。血のりだ」




「なんなのよ、人騒がせね! 動けるのにアーサーを放り出して倒れていた理由は後で聞かせなさいよ?」



「……おう」



これに関しては全面的に俺が悪かった。

いやしかし、アーサーのやつが勇者か……


ん、待てよ。

ということは、あいつが発していたのはかつての俺のように厨二から来る言葉ではなかったのか?



『輝け、エクスカリバー!』



…………なるほど、な。

アーサー、テメェだけは仲間だと思っていたよ。

許さん。

絶対に許さん。




「【火柱】!【雷柱】!【光柱】!」



「え!?」



あのユノが、無詠唱で的確に弱点属性を叩き込んでやがる。

なるほど、力を隠してたのは、俺やアーサーだけじゃなかったってか。

ということは、ミューエも?


……こうなりゃ、もう隠すのはやめだ。

今までの分、ここで暴れ回ってやるぜ!



「……どうして皆が力を隠していたのかは後々話し合うとして、今はあいつらを迎撃しましょうか」



「ふん。せいぜい俺の足を引っ張るなよ?」



「えい」



「……引っ張るなよ」



こんな時だっていうのに、こいつらの余裕ときたら。

……だが、不思議とこの面子が揃うと負ける気がしねぇ。

実力では遥かに俺が抜きん出ている……と思っていたんだがな。



「う、ウォォォォォォォォォ!!!」



「……まぁ、あっちは加勢するまでもなさそうだがな。アーサーのやつがあそこまでやるとは」



「待って。今の咆哮はまさか……」




ドドドドドド……


遥か遠くの地平から、とてつもない地響きが聞こえて来る。

仲間を呼んだのか。



「そりゃそうか。魔族だけが攻めてくる方が不自然だよな」



「どうやら先に勇者を潰してから攻め入るつもりだったみたいね。……まぁ、潰せなかったみたいだけど。しかし、一体どうやってアーサーだけを誘き寄せたのかしら?」



誘き出されたのは勇者だけじゃねぇよ。

クソ、俺まで罠に嵌ったみたいで気分が悪い。



「……アーサーは魔族を倒す。俺たちはあの大軍をアーサーの戦いに介入させない。役割がわかりやすくていいな」



「ご、ごめん。やっぱり手が震えてきた……」



「……なんでだよ。今お前魔族数匹潰したよな!?」



「それは可愛くないからいいの!」



い、意味がわからん。

ミューエといい、ユノといい……

ん? ミューエ?



「おい、ミューエ?」



何やってんだ、あいつ。

俺の見間違いでなければ、あいつユノが倒した魔族を回復させようとしてないか?



「【強制信仰(ヒール)】」



「テメェ! まさか最初から魔族側だったのか!」



「……何を言っているんですか? 私はただ、浄化して本来の使命を思い出して頂いただけです」



「ユウシャサマバンザイ! ユウシャサマバンザイ!」



「良い子ね。あの魔物の群れを倒せる?」



「モチロンデス、マスター。【石化光線】!」



……やってることが死霊術師と変わらないんだが?

は?

こいつ本当に回復役か?



……もういい、考えるのはやめよう。

俺はただ、あの大軍を止めていればいい。



「行くぞ、お前ら!」



「アーサーじゃないんだから、ファクスが一丁前にリーダーぶるのやめてよ」



「私が従うのは勇者様だけです」



……あーもう。

こいつら、めんどくせぇぇぇ!




◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



(あぁ、魔王様の言う通りだった。人間側にあんな化け物共がいるなんて、聞いてないぞ)



ヴァルガは魔王軍の敗北を悟り、一人戦場を離脱……することは叶わなかった。



「奇妙な魔法を使ってたのはお前だったのか」



「クソ、ゆう、しゃめ……」



「ありがとな。お陰で周りを気にせず暴れられる」



それが、ヴァルガが最後に聞いた言葉だった。



この日、魔王軍はたった4人の冒険者の手によって壊滅した。

深夜人知れず行われた攻防は、誰一人として知れ渡ることはなかった。

……何故なら、参謀ヴァルガがとある魔法を国全体にかけていたからである。

本来であれば確実に侵攻を成功させるための布石となるはずが、皮肉にも4人を覚醒させてしまった。


【静寂空間】……それは、指定した範囲で生じた音が、魔法の範囲から外に漏れなくなるという魔法だ。

途中からその魔法に気づいた勇者たち一向は、「音出ないならもっと派手な攻撃しても良くね?」という結論に至った。


……魔王アステラは賢かった。

わかりやすくスタンピートの魔力を放ってユノを誘き寄せ、幹部と魔王の総戦力で叩く。

ユノを仕留めた後は、後方に待機させていた大軍で国を襲う。

彼がたてた作戦も、彼が見積もったユノの力量も、殆ど間違ってはいなかった。

ユノ1人なら、この作戦はある程度機能しただろう。

最大の誤算は、ユノレベルの冒険者があと3人居たことだ。


アステラはダンジョンを通じて、脅威になりうる冒険者……とりわけ、Sランクの情報はしっかりと収集していた。

しかし、当然というべきか、Bランクの冒険者は眼中になかった。


もう一度言うが、魔王アステラは賢かった。

もしも敵にどう足掻いても勝てない相手がいると知ったら、彼は身を潜めてその人間の寿命が尽きるのを待っただろう。

……もしも彼らが実力を偽っていなかったら、結末は違っていたのかもしれない。


これは、世にも数奇な運命を辿ったBランクパーティーが、自覚もないまま魔王軍を壊滅させてしまった物語である。





後一話で完結予定です。

週末に更新します

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