暇な勇者、冒険者に転職する
ページを開いてくださり、ありがとうございます。
10話を目安に完結する短い長編小説になる予定です。
話数は入れて下さった評価pt(作者のモチベーションに繋がるため)次第で若干増えたりするかもしれません。
完結保証。
よろしくお願いします!
俺……アーサーはわけあって、Bランクパーティー【白銀の旋風】のパーティーリーダーを務めている。
本来の俺の実力は周囲からギルド最強とも称され、少なく見積もってもそこらのSランク冒険者をも軽く超越するのだが、今は力を抑え、なんとか「Bランク」の剣士を演じている。
俺が現在このパーティーに所属する理由は、以前世話になった【紅の光】ギルドマスターから直々に後進の育成を頼み込まれたからだ。
突如魔王が消滅してからというもの、勇者である俺は暇を持て余す日々が続いていた。
故に、ギルドマスターの依頼を二つ返事で請け負ったというわけだ。
俺は正体を隠して見込みのある冒険者を数名集め、彼らと俺でパーティーを結成。
そして、そのパーティーの実力がAランクまで達した時を目安に正体を明かしてパーティーを抜け、また次の冒険者の育成へ……というサイクルをこなしている。
その間は変装して戦闘スタイルも変えているので、ちょっとやそっとのことで勇者だとバレる心配はない。
今のパーティーの3人はかなり将来有望だが、やはりまだBランクだけあって荒削りなところが目立つ。
タンクのファクスは不用意に敵を挑発しすぎだし、回復役のミューエは一回のヒールに魔力を使いすぎる節がある。
一番の問題児は、すぐに魔法が暴発するユノだ。
しかし裏を返せば、これらの課題さえ解決してやれば、こいつらはAランク以上でも十分やっていけるだろう。
「さぁ、今日もダンジョンに潜るぞ。今日目指すは20階層だ!」
「「おー!」」
パーティーの雰囲気やモチベーションは申し分ない。
ここ最近育成してきたパーティーの中でも、秘めているポテンシャルだけならピカイチだろう。
教え甲斐がある教え子たちだ。
それだけに、うっかり熱が入って隠した力を使ってしまうことが少し怖かったりするのだが……
(まぁ、それほど心配しなくても大丈夫だろう。俺がこの力を使うのは、こいつらの実力では本当にどうしようもない魔物と遭遇した時だけだ。なるべく遭わないことを願うが……)
当然ながら、ダンジョンは階層を降りれば降りるほど強力な魔物が出現するようになる。
Bランクパーティーの推奨範囲は10〜25階層となっており、それより下層に降りると歯が立たない魔物に遭遇する可能性が高まる。
この、「高まる」というのが落とし穴だ。
必ずしも、遭遇しないわけではない。
ダンジョンの研究や戦闘法の確立により安全性は格段に上がったとはいえ、冒険者は常に死と隣り合わせ。
今は技術面の指南を中心に行なっているが、ゆくゆくはこういった心構えの指導もしていかなければなるまい。
「リーダー、どうしたんだ?」
「……ダンジョン、行かないんですか?」
「あ、あぁ、すまない。少し考え事をしていた」
……深呼吸をして頭を切り替えろ。
今の俺は、「Bランク冒険者アーサー」だ。
自分に暗示をかけ、今日も俺は仮初の「リーダー」を演じてパーティーを鼓舞する。
「さぁ、いこう。Aランクはすぐそこだ!」
「当たり前だろ! 俺ならすぐに行けるぜ!」
「……達を付けて下さい。不愉快です」
「ふふ、タンク一人で何ができるのかしら?」
「う、うるせぇぇ! ユノ、テメェ、今日も俺に魔法当てやがったら承知しねぇからな!」
(ははは、威勢がいいのは良いことだ。……というわけで、早く俺から巣立ってくれや、お前ら)
こうして、師匠1人と見習い冒険者3人の、過酷な冒険が幕を開ける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
これは、勇者アーサーが正体を隠して未来のSランクパーティーを育成する物語…………ではなかった!
アーサーは知らない。
このパーティーに所属するメンバーが、それぞれアーサーと同等か、或いはそれ以上の実力を持っているということに。
(……危ねぇ危ねぇ。つい本音が漏れちまったぜ。まぁぶっちゃけ、1人の方が戦いやすいしなぁ)
最後尾を歩くタンク・ファクスは、誰にも聞かれない大きさで独り言を溢す。
毎日のように言葉を交え、共にダンジョンに潜る彼らだったが、彼らは互いのことを全くといっていいほど知らなかった。
知った気になっていたのはお互い様のようだが……
彼らの騙し合いの先にどんな結末が待ち受けているのか。
……それを知る者は、まだ誰1人として居ない。
これは、実力を隠し合うBランクパーティーが、意図せぬまま前代未聞のとある「偉業」を成し遂げるまでの物語である。
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