20.ダラダラ生きたい惰聖女(だせいじょ)
「――ぐぁああああ! 私のお金がぁあああ!!」
とある街の、とある酒場。
奥の方にあるテーブルで、一人の少女がそんな情けない声をあげた。
ようやく18になったばかりの少女は、丸刈りの巨漢たち相手にポーカーをしていた。
しかし、その日は――というかその日もというべきか――負けが込んで、有り金をすべて失ってしまったのだった。
「アリシア、今日も俺の勝ちだ」
「……うぅ」
ギャンブルに興じる少女の名前はアリシアといった。
「惰聖女さんよ」
隣のテーブルにいた老人が優しくしゃべりかける。
アリシアは18歳になった折、超レアクラスである<聖女>を授かった。
しかし、モンスター討伐に勤しむわけでもなく、日金を稼いではギャンブルに興じる自堕落な生活を送っていた。
ハッキリいって、ギャンブル依存症である。
それゆえに、人々からは“惰聖女”のあだ名を頂戴していた。
「これに懲りてギャンブルは辞めな」
だがアリシアは涙を浮かべながらも、それを拒絶する。
「今日は負けたけど……! 明日は絶対勝つ!」
「ダメだこりゃ」
老人は両手を上げて匙を投げた。
「明日もカモになってくれるならそりゃいいけどよ、でももう金がねぇだろ?」
と、先ほどまでアリシアと勝負していた男が笑いながら言った。
ギャンブル狂いの聖女様は、今や一文無しである。
というか、連日負けが込んでいるため借金さえ抱えていた。
なので、とにもかくにもお金が必要だった。
ただ、アリシアは極めてレアなスキルを授かったとはいえ、まだレベル1に過ぎない。
普通にモンスターと戦っていても大した稼ぎにはならない。
「なにかてっとり早く稼げる方法はないの……?」
アリシアはポツリとそう呟く。
それに対して、男が「そういえば」と語りだした。
「スプリングスティーン領で、聞いたこともねえクラスを授かったやつがいるらしいんだが、そいつがとんでもなく強いらしいんだ。レベル1でドラゴンを倒しちまったとか。あまりに強いんで、“勇者”なんじゃねぇかっていう人もいるくらいらしい」
男がなぜその話題を出したかと言えば、目の前のアリシアが<聖女>だからだった。
“勇者”は、この国の伝説に出てくる存在だ。
言い伝えでは、<聖女>や<王女>と共にパーティを組んで魔王に立ち向かう。
すなわち、<聖女>のクラスを持つアリシアにとっては、仲間になるにふさわしい存在なのだ。
「……勇者ってことは……めちゃくちゃ強い? ってことはラクに稼げる?」
アリシアの中で全てがつながった。
強い人とパーティを組めれば、楽に大金を稼げる。
アリシアはそう考えたのだ。
「よし! 私そいつとパーティを組む!」
こうして惰聖女は、最速でギャンブルに使うお金を稼ぐため、スプリングスティーン領へと向かうことになったのだった。
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