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33 神のバカンス


 演習場には、僕のために立派な椅子が準備された。

 わあ。僕、ここに座るのか。ひじ掛け付きだあ。

 みんなが戦っている中すごい偉そうだけど、一応これにも仕掛けがある。


 ライラがそばにいて、ひざ掛けを持ってきたりお茶を入れたりお世話を焼いてくれるから、観客たちからはのんびりしているとか思われているかも。


 そう、観客がいるんだよね。

 

 ここは普段、騎士団の演習場なんだけど、剣術大会が開かれたりと催し物にも使用される。

 そのため半円形の観客席が設けられているのだ。


 冬の儀式のため着飾った紳士淑女は一見すると優雅に高みの見物中だ。

 だが、今は夜明け前。真っ暗な中で余興が開催される折には、彼らにも歴とした仕事が待っている。

 それは、会場を照らすこと。


 彼らは盛り上げ係兼、競技場の照明係なのだ!

 座席にギフトを供給する小型のギフトボックスが付いているんだって。

 知らなかった。そのうち見てみたい。

 

 なんとなく観客席の方を見上げていたらそちらに動きがあった。

 貴賓席にガエタン殿下が到着したのだ。彼はゆったりと着席し、厳かに手をあげる。


「はじめよ」

 開始の合図と同時に、敵陣地からド派手に火球が打ちあがった。

 金髪縦ロール軍団、黄金の紋章家のお家芸である。

 しかし彼らの攻撃は、キアノのギフトにより座標を捻じ曲げられ敵陣地に返される。


「防げ防げー!」

 敵の陣地は大わらわだ。慌てて防御結界を展開している。

「だから言ったではないか、殿下には通用しないのだ!」

「たった一人ではないか。火力で押し通せと言っている!」

 金髪縦ロールの青年と、ひょろっとした王子が揉めている。身分を盾にできもしない指揮権をもぎ取ったってところだろうか。


 向こう側についた騎士たちも、指揮系統の混乱に動けずにいる。

 そこへ容赦なく切り込んだのは母上だ。


「来ないのならば、こちらから行きますよ!」


 母上が剣を一振りすると、大柄な騎士が五人くらいドカンといっぺんに吹き飛んだ。

 観客席から黄色い悲鳴が上がる。こりゃ母上のファンがまた増えちゃうね。


 向こうは無能な指揮官を無視することにしたらしい、ばらばらに攻撃を仕掛けてくるようになった。

 乱戦になればこちらにも流れ弾が飛んでくるが、クラスメイト達にはまだまだ余裕があった。


「それにしても殿下は見事ですね。一番影響の大きそうな攻撃を、選んで打ち返しています」

「本当に、さすがですわね!」


 マスケリーとマルーシャが話していた。

 そ、そうなんだ……。


「レアサーラ様もお強いですね」

 全体を見ていたリャニスがつぶやいた。

 え? 派手にすっ転んでいるようにしか見えないけど?

 リャニスの解説によるとレアサーラは転ぶたび敵を道連れにしているらしい。ドジの力、おそるべし!


 動けなくなった敵は回収されると|うちの侍女(ジョアン)に縛り上げられる。その際敵のコートをはぎ取るわけだけど、丁寧かつ素早い動きで畳んで積み上げ、それをうっとり眺める様子は実にホラーだ。

 サンサールは敵味方問わず、けが人の治療にあたっていた。さすが聖女、優しいね。

 もう一人の僕の侍女、ヘレンも治療係だ。


 僕のそばでは、ライラが飛び出していきたそうにうずうずしている。

 でも、奇襲をかけてくる人もいるから離れるわけにはいかないのだ。


 懸念事項の一つだった父上も地味に活躍していた。

 母の影から敵にするっと近づいて各個撃破していく。敵の悲鳴が「あふん」なのと、自分で倒したくせに毎回「きゃっ!」とか言って飛び上がるのが何とも直視しづらい。



「雷、大きいの来ます!」

 マスケリーが上げた号令に、リャニスを含めたクラスメイト達が一斉に僕の周りに集う。ドゴォオオンッと大きな音がしたけど、こっちは無傷!

 防御結界がうまく作動したのだ。


 何を隠そう僕の座っているこの椅子、実は装置なのだ。

 個人の結界よりもこっちのほうが強固ってことで、危ないときはここに避難と予め決めてあった。

 まあ僕は決定事項を聞いただけなんだけど。


「兄上、すぐに補給をお願いします」

「うん!」


 内心めちゃめちゃビビってるけど、僕は次の攻撃に備えて、ひじ掛けに隠された真っ黒な箱へギフトを込めていく。

 できることがあってよかったよ!




 それにしても不気味なのは黒衣たちだ。

 今のところ動きがない。

「黒衣は、僕らが疲れてきたところを突くつもりなのかな」

 ライラにそっと尋ねる。

「おそらく、そうだと思います。卑怯な奴らです」

 ライラは真っ向から突っ込んでいくタイプだもんね。


 確かに疲れは確実に溜まっていく。だが、それは向こうも同じだ。

 攻撃の威力が少しずつ下がってきている。


 何度か防御結界が作動したが、最初に浴びた雷ほどの攻撃はもう来ないようだった。

 とはいえこっちの油断を誘っている可能性もあるから、備えは必要だ。


 念のためフル充電にしておこう。防御結界装置に手を伸ばしたところ、何やら違和感を覚えた。

 ギフトが足りなくなったわけじゃない。だけど、力が引き出しづらくなってる。

 でもそれは、どうやら僕だけではないようだ。気づけば戦闘でド派手に飛び交っていたギフトによる攻撃が明らかに減っていた。


「ああっ! もしかして、神のバカンス!?」

 この時期は、寒さを嫌った神々がバカンスに出かけると言われていて、祈りが届きづらくなるのだ。

 そんな、体を張った出し物の最中だよ? 最後まで見てってよ!


「影響はありそうですね」

 リャニスは手を振ってキアノを呼び戻した。


「条件が悪いのは向こうも同じだ。むしろ――」

 王子が話している途中でイレオスが動いた。途端にぞくぞくっと寒気が走る。

 僕はとっさにキアノとリャニスに声をかけた。

「キアノ、リャニス早くこっちへ!」


 二人が防御結界の中に入った途端、ズォンとすごい音がして、結界ごと地面が凹んだ。

「なんだこの威力は!」

 キアノとリャニスは警戒してイレオスに目を向ける。クラスメイト達もライラも青ざめている。


「ごめん、みんな……。ポメった」

 ハッと視線がこちらに集まった。


「いまだ、全員進めーっ!!」

 これを待っていたかのように敵側から号令が聞こえた。


 そんな、母上は!?

 ぎょっとして見回すと後方にいた。なよっと倒れた父上を介抱している。疲れただけだろ、それ!

「レアサーラ様は!」

「あ! あそこにいらっしゃいます!」


 クラスメイト達が彼女を発見した。どうやら怪我はなさそうだが、木の枝にマントが引っ掛かったらしくぷらぷらしている。

 前衛が崩れてるー!


「ご安心くださいノエムート様!」

「ここからはわたくしたちの出番です!」

 オロオロする僕を元気づけるように、クラスメイト達はむしろ意気揚々と立ち上がった。

「何をする気!」


 指揮を執るのはマスケリーらしい。すうと息を吸い込んで片手を掲げた。


「ポメポメショータイム!」


 合図と同時に、クラスメイト達はポメラニアンの幻覚を作り出し、敵軍に向けて走らせた。

 あ、アレは!

 新一年生に向けてギフトのパフォーマンスをしたときの! みんなで練習したヤツ。


 ん、ちょっと違うな? アレは僕の動きに連動していたはずだ。でも、今は彼らが操っている?

 あの頃よりポメラニアンらしい動きだし、なにやら生き生きしている。


「……はい? いや、なんで!」

「あれから練習してノエムート様がポメ化していなくても披露できるよう、クラス全員習得しましたので!」

 いや、なんで……?


 全員てまさか、クリスティラも?

 いや、まさかな。

 今も僕の座る椅子の後ろで寝ているし。――っていうか、よくこの状況で寝ていられるものだ。


 ライラに頼んで僕の使ってたひざ掛けを掛けてもらうなどしているうちに、幻のポメたちは大暴れしていた。


「ぽめぽめぽめぽめぽめらにあーん!」

「僕を捕まえてごらん!」

「ほらほら可愛いでしょう!」


 いや、僕、そんなんかな!?

 

 僕の不満はさておき、作戦は成功しており、敵は大いに戸惑っている。

 会場も盛り上がった。


 だけど、当然惑わされてくれない人もいるわけだ。

 黒衣姿のイレオスがゆったりとした足取りで僕らのもとへやってきた。


「殿下、ここは俺が出ます」

 リャニスが進み出て、すらりと剣を抜いた。







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