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27 王子の卒業式

 スクールが再開し、サンサールは一日遅れで登校してきた。

 彼が聖女であることは、すでに生徒たちに周知されている。

 彼の登場に教室内がふっと静まり返り、サンサールはそれに気圧されたように戸口で立ち止まった。


 同時に後ろの席でガタンと音が鳴り、マスケリーが立ちあがった。

 そしてずんずんと足音を立てながらサンサールのもとへ向かう。

 

「お前が聖女だというのは本当のことなのか!」

「……うん」

「そうか。私は謝らないからな!」


 僕はすっかり出遅れて、今頃そろっと立ち上がった。喧嘩をするなら止めないとだけど……。

 割って入れない雰囲気もある。


「謝らないって、なにを?」

「これまでのことをだ! お前が礼儀知らずなのは本当のことだし、まさか聖女という身分を隠しておきながら、今さら敬えなんて言わないよな。私はお前にかしずいたりしないからな!」


 マスケリーの態度に僕は既視感を覚えた。

 怒っているというよりは、わざとそう見せているように感じからだ。

 僕、こういうの知ってる。

 サンサールも思うところがあったのか、むしろ目をキラキラさせた。


「マスケリー! お前っていいやつだな!」

 そう言って抱き着いている。マスケリーのほうはやめろとかなんとか言っているけど、じゃれついているようにしか見えない。わあ、あれツンデレだ!

 

 ほっこりしながら、僕はクラスを代表するつもりで問いかけた。


「じゃあさ、サンサール。今まで通りでいいってことだね?」

 サンサールはこっちを見て、二カッと歯を見せて笑った。

「うん!」

「『うん』じゃない、『はい』だ!」


 マスケリーはさっそくサンサールに序列を教え込んでいる。お前は未成年だし養家の家格も高くはない。紋章があっても紋章家の子息よりは下の身分だとかなんとか。

 僕は二人のやり取りを聞きながら、キアノの言葉を思い出していた。サンサールの出世は難しいと話していたけど、彼にはそのほうがいいんじゃないかな。現状でも荷が勝ちすぎてるくらいだ。


 マスケリーみたいにまっすぐ接してくれる人は、サンサールにとってきっと救いだ。

 最初は喧嘩ばかりしていた二人だけど、なんだかんだ仲良くなって本当によかった。


 サンサールのことが落ち着くと、今度はじわじわ忙しくなってきた。

 なんせ卒業式の準備もあるし、テストもある。合間にレアサーラと日本語についての秘密の会合を持ったりもした。

 勉強と合唱の練習の日々の中、ポメ化した日もあったけど、僕は何とか乗り切った。


 試験も無事終わりとうとう明日は卒業式だ。


 人目がないのをいいことに、僕はベッドの上で胡坐をかいて、腕を組み小さく唸っていた。

 王子の卒業式は原作においても非常に重要なイベントなのだ。王子はもう一年スクール島に留まるが、それはそれ、卒業式にはちゃんと出る。

 この日、王子は冬の儀式のパートナーとして聖女にダンスを申し込む。


 雰囲気に酔ったのか盛装マジックか、それまで塩対応だった聖女は王子の手を取る。そして、ノエムートの恋がハッキリとおわりを告げるのだ。

 ノエムートは現実が受け入れられず聖女を害そうとして、リャニスに断罪される。これまでの悪事の証拠を突き付けられ、トルシカ家からも追放され、スクール島にあるボロい一室に押し込められる。


 最初のうちこそ、ノエムートの手下たちが足しげく通ってきてくれるんだけど、彼らもまた、ノエムートに加担した罪状を突き付けられて捕まっちゃうんだよね。

 しかも! ノエムートはそのことを知らずに、彼らにまで捨てられてしまったのだと悲しむんだよ。


 まあ、今の彼らはキアノの手下に収まっているから、心配は要らない。

 それに、聖女がサンサールだと判明した今、王子が急に心変わりして彼をダンスに誘うとも思えないし、リャニスに至っては不在だ。


 このままいけば、ダンスに誘われるのは僕だろう。

 流れに乗って王子の花嫁に収まってめでたしめでたし、となるのも悪くない選択だろう。

 自分のことだけ考えれば、いちばんかもしれない。

 でもそれじゃあ、だれが僕の死亡フラグを引き継ぐんだろう?


 やっぱり僕は、何が何でも断らなくてはならない。

「――って、いつも通りさらっと流せばいいだけか」

 変なことで悩んで、人がたくさん集まる卒業式でポメ化するほうが大変だ。寝ちゃお寝ちゃお。

 僕はふとんにもぐりこんだ。


 そして迎えた卒業式当日。

 今年も僕は両親に招待状なんて送ってない。というか、心底来ないで欲しい。両親が来ちゃうと、王子の誘いを断りづらくなってしまう。


 去年リャニスと回った研究や舞台発表を今年はクラスメイトたちと見て回る。

 それだけでも結構楽しいが、メインはもちろん三年生の晴れ舞台だ。

 卒業生たちは煌びやかな盛装で一人一人壇上に上がり、卒業証明としてバッジを授与される。

 さっそく王子の出番だけれど、彼は今日、白色の肋骨服みたいな衣装をまとっている。ハイハイ、かっこいいですねって感じ。なんかもう、目つぶっとこ。


 とはいえ、式が終わったあと、挨拶に行かなきゃらないんだけど。

 卒業生の前には生徒たちが思い思いに集まっている。

 僕が進み出ると人垣がさっと割れた。いやそんな、気を使わなくてもいいのに。なんてひそかに思いつつ、僕は口元に笑みを浮かべた。


 公式行事なので猫をかぶってるよ。悪役令息モードオンだよ。

 そしてキアノもまた、王子モードをオンにしているのだ。


「ご卒業誠におめでとうございます。心よりお祝い申し上げます」

 深く頭を下げて、控えめな微笑みを浮かべ、王族と目を合わせるなんて恐れ多いですよっというていである。


 ここまではうまくいった。

 あとはスムーズに後ろで順番待ちしているレアサーラに繋げられればミッションクリアだ。

 ところが、僕が下がる前に、キアノは僕の前に跪いた。


「キっ――」

 キアノと呼びかけ、ここは殿下と言うべきだとわずかに言いよどむ僕。キアノがそれを見逃してくれるわけもなく、口上が始まってしまった。


「ノエムート、一年の終わりに君と踊りたい。受け入れてもらえるだろうか」


 しまった、ばっちり顔見ちゃった。

 キアノはいつも、僕を見ると嬉しそうにほほ笑む。ややもすれば少々チャラさすら滲む。


 それが今は、緊張した面持ちで僕を見上げている。

 軍服じみた真っ白な衣装に合わせて、髪は後ろで一つに結んでいて、それが彼を常よりも精悍に見せていた。

 マスカット色の瞳は朝露をまとう甘い果実のように、やけに僕の目を引き付ける。


 息をのんで、二人のやり取りを見つめる人々の視線。

 卒業式という特別な時間。

 聖女が雰囲気に浮かされちゃうのも頷ける。


 でも僕は違う。

 お膳立てされたロマンチックなんて、どっちかっていうと、トキメクよりもふざけたくなる。

 それに僕には断る理由がちゃんとあるんだ。負けないぞ!


「お気持ちは嬉しいのですが」

 そう答えた瞬間周りがザワっとしたけど、困ったなという顔で言い切ってしまう。

「その日はおそらく欠席すると思います。ポメ化の件もあって、僕は単独行動を許されていませんから」

「ダメか。なんとなく、今日はいけそうな気がしたのだけどな」


 王子様モードをオフにして、さっさと立ち上がり肩をすくめた。彼が冗談にしてくれたおかげで、会場の空気も緩む。

 僕の気も抜けた瞬間、キアノは耳元でささやいた。

「本当に、少しもなびかなかったのか?」


 僕はとっさに口元を隠して、へぁあとか言いそうになるのをこらえたが、顔がボッと熱くなることまでは防げなかった。

 キアノの勝ち誇った顔よ……。

 勝負に勝って試合に負けた気分だ。ぐぬぬ、キアノめぇ!

 かなり悔しかった。



 卒業式を終えて数日後、試験の結果が発表された。

 僕はかろうじてA評価。

 掲示はランキング形式じゃなく、評価と名前が書かれるだけなので、面目は保たれるってわけ。ありがとう、忖度。

 心置きなく休みに入れるというものだ。


 そしてあっという間に、冬の儀式当日を迎えた。

 両親たちはすでに出かけ、僕は使用人たちと一緒に留守番をしている。

 このまま、何事もなく終わるだろうとすっかり気を抜いていたのだが――。

 そこに、何の前触れもなくリャニスが帰ってきた。






第12回ネット小説大賞受賞のお知らせ

この度、ポメ化令息のコミカライズ化が決定しました!


コミカライズに関することは活動報告でお知らせしますので、この機会にお気に入りユーザー登録をしていただけると嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。

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