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21 この中に聖女がいる?

「サンサールは、モーラスの泉に行きたいんだよね。また装置に異常でもあったの?」

 以前サンサールと出かけたときのことを思い出して、僕が訪ねると彼はキョトンとした顔で首を振った。

「いや、特に聞いてないな。ただ、泉の水をポーションに使ってみたくて」

「いいね! それ僕も行きたい!」

「へへ、そう言うと思った」


 僕が興味あるかもって思って誘ってくれたんだね。

 久々の装置巡りだと笑みかわしたところへ、女子たちが「あの」と遠慮がちに声をかけてきた。


「まさかお二人で出かけるなどとおっしゃいませんよね」

 僕には笑顔で問い、サンサールはジロっと睨まれる。しまった。サンサールを男性にカウントしてなかったな。向こうだって僕をご令嬢カウントしてないと思うけど。

「わたくしたちもご一緒してよろしいでしょうか?」

「構わないけど、高確率で王子がついてくるよ?」

「まあ、ノエムート様ったら」


 女の子たちにくすくす笑われちゃったんだけど、なんか笑うところあった?

 サンサールは考えてなかったって顔で青くなってるし。

「もちろん、殿下がいらっしゃるなら心強いですわ。ですが、リャニスラン様がご不在の間はどうしても手薄になると思うのです」

「そうです。わたくしたちでしっかりお守りしなくては!」

「そうですとも」


 サンサールでは不足だというんだね……。

 何が彼女らをそこまで駆り立てるのか。僕にはライラだっているんだよ?

 僕を守るとポイントがたまって粗品がもらえるみたいなキャンペーンでもやってんのかな。

 遠い目をする僕の耳に今度は男子の声が届いた。「途中でポメ化なさらないとも限りませんし」「そうですよね、心配ですよねポメ化」などと言っている。


 なるほど、ポメが目当てじゃ仕方ない。

「サンサールもそれでいい?」

 一応尋ねてみると、サンサールは勢いよく頷いた。ちょっと涙目なんだけど。気軽に誘ってもらえなくなるのは嫌だな……。


 そんなわけで、クラスメイト達とぞろぞろ出かけることになった。クリスティラは不参加だけど、彼女の場合は逆に来る方がなんかあるのかと不安になる。さらに二人ほど用事があるからと抜けて、結局総勢十一名、プラス王子で出かけることになった。

 ちなみにレアサーラも来る。最初はすげなく断っていたが、女子の圧力に負けたようだ。


 そして当日。僕たちは前庭に集合していた。


「ノエムート様、今日は男装しないのでしょうか」

「ん?」

 ゆるふわ女子のマルーシャが妙なことを聞くので、僕は首を傾げた。

 僕は念のため、今日も男子の制服を纏っているのだけど……。彼女の視線の先をたどって納得する。

 ライラか。

「あれは特別。いつもあんな格好させているわけじゃないよ」

「あ、そうなんですね」

 残念そうなため息が複数人分聞こえてきた。


 話題を変えたくなった僕は、キョロリと辺りを見回し、ふとサンサールの頭に目を留めた。

「サンサールって、もともとそんな髪色だった?」

 日差しのせいか、もともと赤茶だった髪が、少しピンクがかって見えた。

「さ、さあ、日焼けかな!?」

「そんな外で遊び回ってたの?」

「ノエムート様、俺のこと遊んでばっかだと思ってんの?」

 軽口の応酬に笑いが巻き起こる。そこで僕はふと気づいた。


「来ないね、王子」

 ライラに様子を見てきてもらった。

「坊ちゃま、殿下は来られないそうです。代わりに騎士を呼ぶからそれまで待つか、中止にしてくれとのことですが、どうしますか」

 そりゃ、王子が来られなくても行きたいよね。

 でも周りの乗り気は一気に下がったっぽい。こりゃダメかな。


 そう思ったとき、涼やかな声が僕らの耳目を集めた。


「皆さん集まって、なにかお困りですか」

 声をかけてきたのは、なんとイレオスである。

 女の子たちの声が華やいだ。

「イレオス先生! 実は」

 止める間もなく、マルーシャはいきさつを話し、彼に同行を頼んでいる。


「なるほど、私で良ければご一緒しましょう」

 快く引き受けないでいただきたい!

「奉仕活動で、先生に引率してもらうなどご迷惑ではありませんか? 付き添いならうちのライラがいますし」

「おや、ノエムート様、私が行くと何か不都合なことがございますか」


 イレオスは意外そうな顔つきをし、女子たちは、まさか断りませんよねって感じに目を見開いて僕をみる。

「いえ、大変心強いです」

 そう答える以外ないよね。いや、僕はイレオスに負けたわけじゃない。女子のために折れただけだ。




 気を取り直してさっそくモーラスの泉へ向かう。

 そういえば以前サンサールが、泉の水は切り傷に効くって言ってたっけ。

 あれ? でも、微量の毒を含むから浄化装置がつけられてるんじゃないんだっけ。その辺はどうなってるんだろう。浄化されても、効能は消えないんだろうか。

 うむわからん。作って見ればわかるかな。

 そんで可能なら、今度こそこっそり飲んでみたいな。よし、出発前からいろいろあったけど、楽しくなって来た。


 泉についてすぐ、サンサールが装置にギフトを込めた。

 そのあとは、お待ちかねの給水タイムだ。

「ノエムート様の分は、俺が汲みますね」

「いえ、わたくしが」

 なんで役目を取り合うみたいになってるんだ。「自分で汲むよ」っていう僕の声はスルーされてしまった。

 数少ない味見の機会だというのに……。ううう、過保護が辛い。

 最終的に誰が汲んだ水かわからないというのもマズいので、ここは涙をのんでライラに頼んだ。


 次に向かったのは施療院だ。

 施療院で挨拶し、礼拝堂へ案内してもらうと、生徒たちは円形ステージに驚いた。

 ここの装置はかなりギフトを吸い取られる。みんなで込めようという話になった時、僕はちょっと冷静になった。全員ここで力を使い切ってしまうわけにもいかないだろう。

「サンサール、マスケリー、ニルセン、タルエとマルーシャ、あとイレオス先生は護衛役として残ってください。ライラもね」


 レアサーラは少々不服だったけど、当然彼女はこっちでギフトを込める側だ。

 イレオスは引率だから当然除くとして、僕らが一番ギフト量に余裕があるってことになる。

 僕ら+四名。つまり六人で円を描くようにステージに立つ。


 するとステージ中央から黒い装置がせり上がって来た。立方体をでたらめにくっつけたみたいな形はやっぱりカッコイイ。感心したような声があちこちから聞こえる。そうだろそうだろ、カッコイイだろ。みんなが装置に興味を持ってくれたようで僕も嬉しい。


「じゃあみんな、無理はしないこと」

「はい! ノエムート様も」

「……うん」

 なんか、僕がいちばん心配されてるんだけど、なんでなの。


 息を吸い直して気を取り直し、「行くよ」と合図を送って僕は指先にギフトを集めた。

 それをすこしずつ装置に込めていく。

 じわじわと体からギフトが抜けていくのがわかる。装置が起動するまで、体感で三分位かかった。

 ようやくガチャコンと装置が起動すると、六人はホッと顔を見合わせる。

 これ一人で込めちゃうんだから、やっぱ王子はすごいな。


「どうする、もう帰ろうか?」

「ノエムート様さえよろしければ、もう一か所回りたいところがあるのですが」

 マルーシャにしては遠慮がちに言うので詳しく聞いてみたところ、聖女に関わる装置があるそうだ。

「それはすごく興味ある」

 僕がくいついたので、決まりとなった。


 そこで、サンサールが僕にコソっと聞いた。

「ノエムート様、俺ここで抜けていいかな」

 答えたのはマスケリーだ。

「バカを言うな、一人でウロウロして何かあったら我々の責任になる」

「えーと、ごめんね、サンサール。他に行きたいところがあったのかな。僕で良ければまた今度付き合うよ」

「いや、そういうわけじゃ」

 なんかものすごく目が泳いでいるけど?


「それより、ノエムート様はどうですか、お疲れではありませんか?」

 イレオスが労わると、周りもハッとした様子でこっちを見た。

「大丈夫だよ。このところ鍛えているからね」

 僕は本気で言ってるんだけど、なぜか生温かい微笑みを向けられた。ヒドイ。


 みんなで向かったのは、築山のある公園だった。

 山の上に小さな塔があり、それが装置らしい。発案者のマルーシャがギフトを込めたあと、みんなで取り囲むように周囲を歩くと塔のてっぺんからレーザーのような光がピカーッと空を照らした。


「聖女の紋章!」

 まさかこれは、聖女発見器なのか。

「じゃあ、この中に、聖女がいる!?」

 バッと振り返ったとき視界に入ったのが、全員男で困惑する。

「ノエムートさま、違うんです。一定以上の力を持つものがここに昇ると光るんだそうですよ」

 マルーシャはくすくす笑いながら言った。

「ですけど、ノエムート様やレアサーラ様がいるからでしょうか、いつもよりもはっきり見える気がしますね」

「なんだ、そっか……」


 僕いま、本気で期待したんだけど。


「イレオス様もこちらへ」

「いえ、私は……」

 ここに嵐の紋章家であるイレオスが加わればもっと派手に光るかもと思ったのだろう、女生徒に囲まれてイレオスも塔のそばに立った。

 そのとたん、空中に浮かんでいた紋章がパッと消えた。


「あら、どうしたのでしょうか」

「重量オーバー?」

 思わず呟くと、みんなはわっと笑った。イレオスだけは怖いくらい無表情にじっと塔を見つめていた。

 それはほんの一瞬のことだったけれど、微笑んでいる印象が強いせいか、目に焼き付いてしまった。



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